中国発権威主義国向けAI監視システム1 Exporting the surveillance state via trade in AI
中国が一帯一路あるいはデジタル・シルクロードに参加している国を中心に監視システムを販売していることはすでにいろいろ書いてきた。今回はあらためて最近の状況をシリーズでご紹介したいと思う。
最初にご紹介するのは、2023年1月に公開されたブルッキングス研究所の「Exporting the surveillance state via trade in AI」(https://www.brookings.edu/center/center-on-regulation-and-markets/)だ。
この資料は、「The Global Expansion of AI Surveillance」など過去の資料をベースに最近のデータを加えたものとなっている。ベースとなったいくつかの資料については、以前こちらの記事で紹介(世界に拡大する中露の監視システムとデジタル全体主義、https://hbol.jp/pc/203465/2/)した。
●内容
本レポートは過去の資料をベースにさまざまなデータを加えて、中国からのAI監視システムが世界に拡散している実態を明らかにしている。
・中国のAI監視システムの核は顔認識AI
まず、中国のAI監視システムの中核となっているのは顔認識AIだった。顔認識AIでは中国とアメリカが双璧をなしているが、2008年から2021年にかけて、中国はアメリカの2倍の国(83カ国VS48カ国)に輸出し、取引件数は10%多い(238件VS211件)。その他の先端分野ではこうした優位は存在しない。その要因は2つある。
1.中国政府の手厚い保護と優遇措置
2.中国政府の莫大な監視データへのアクセス(AIは訓練用のデータが多いほど精度があがる)
この2つを獲得した企業(政府公安当局と契約を締結した企業)は高い確率で海外輸出も行っている。
・権威主義国と民主主義が弱体化した国の需要に牽引された輸出
中国のAI監視システムを導入している国の多くは権威主義国あるいは民主主義が弱体化した国だった。逆にアメリカのAI監視システムを導入している国には、権威主義国は少ない。
中国のAI監視システムが権威主義に多く導入される理由はいくつか考えられる。
1.中国政府が外交政策の一環として、それらの国への輸出を助成している
2.IBMやマイクロソフトといったアメリカの民間企業数社は権威主義国などへの輸出を自主的に禁止している。そのためそれらの国は中国製品を導入せざるを得ない。
3.権威主義国あるいは民主主義が弱体化した国では中国のAI監視システムへの需要が高い。中国が用途について条件をつけないことも大きな理由。
民主主義が弱体化した国や権威主義国は政治的に不安定になると、中国の顔認識AIシステムの導入を行っていることが確認された。スマートシティも同様である。この傾向はAI監視システム特有のもので、他の中国の先端技術では見られない。
レポートは権威主義国あるいは民主主義が弱体化した国に中国のAI監視システムが輸出されることによって、前者では権威主義の基盤強化、後者では民主主義から権威主義への移行が進む可能性を指摘している。
AI監視システムはシステムにすぎないのだが、それを導入することで権威主義勢力は政治的優位に立ちやすくなる。
●感想
このレポートは中国のAI監視システムの輸出に焦点をあてた分析を行っていた。全体像を把握するためには実際に導入している国のケーススタディや運用方法などを見ていく必要があると思う。
続くシリーズでは、それらを取り上げる予定である。
中国発権威主義国向けAI監視システムシリーズ
中国発権威主義国向けAI監視システム1 Exporting the surveillance state via trade in AI
中国発権威主義国向けAI監視システム2 Cyber Statecraft Initiative Bulelani Jiliの分析
地政学的兵器としてのセーフシティとスマートシティ「GEOPOLITICS OF SMART CITIES: EXPRESSION OF SOFT POWER AND NEW ORDER」
中国発権威主義国向けAI監視システム4 欧州安全保障研究所が指摘する中国型スマートシティの危険性
中国発権威主義国向けAI監視システム5 アフリカに広がる統治システム ジンバブエ
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