30カ国96件の影響力行使をまとめたプリンストン大学の「Trends in Online Influence Efforts」
2020年8月5日(第2版)に公開されたプリンストン大学の「Trends in Online Influence Efforts」(https://esoc.princeton.edu/publications/trends-online-influence-efforts)は、920件以上のメディア報道と380件以上の研究論文・報告書をもとに2013年から2019年にかけての影響力行使(Influence Efforts)を特定し、30カ国を対象とした76件の「外国からの影響力行使」(以下、FIE)と、政府が自国民を対象とした20件の「国内からの影響力行使」(以下、DIE)に関するデータをまとめたものである。これまでご紹介してきたネット世論操作に関するレポートと多くの点で一致しており、それが数の上でも確認できたことになる。
ここには掲載しなかったが、レポートにはグラフや表も多数掲載されており、大変参考になる。また、出典となったメディアのリファレンスは莫大であり、こちらも役に立つ。
既存資料をもとにした網羅的な調査では、オクスフォード大学computational propaganda projectの年刊が有名だ。今年の頭にニューズウィークのコラムやここの他の記事でも取り上げたことがある。
世界49カ国が民間企業にネット世論操作を委託、その実態がレポートされた
https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2021/01/post-17.php
拡大するネット世論操作代行会社 The New York Timesの「Disinformation for Hire, a Shadow Industry, Is Quietly Booming」
https://note.com/ichi_twnovel/n/nd1267194507a
今回のレポートは世界で国内に向けた影響力行使、つまりはネット世論操作が増加していることを指摘しており、おそらくコロナによってそれは加速している(今回のレポートはコロナの前までが対象)。国外に向けての影響力行使では複数の国が連携して行うキャンペーンもコロナによって増加しているだろう。
コロナ禍を悪用するデマサイトのインフラを提供するグーグルやフェイスブックなど大手IT企業
https://note.com/ichi_twnovel/n/n9fb1566cb300
コロナとネット世論操作に関する欧州対外行動庁(EEAS)StratComsの一連の報告書(1)「DISINFORMATION ON COVID-19 – INFORMATION ENVIRONMENT ASSESSMENT」
https://note.com/ichi_twnovel/n/n2dd286981531
コロナとネット世論操作に関する欧州対外行動庁(EEAS)StratComsの一連の報告書(2)EEAS SPECIAL REPORTSシリーズ、2020年4月1日、2020年4月24日、2020年5月20日、2020年12月2日、2021年4月28日の5回
https://note.com/ichi_twnovel/n/n02912a8333eb
影響力行使は次のように定義されている。
影響工作との違いがわかりにくいが、かなり近いものであり、影響工作よりも狭い範囲である。
レポートには影響力行使に含めなかった例も紹介されており、それを見ると違いがわかりやすい。たとえばロシアが中央アジア諸国を標的にしたキャンペーンと、ロシアがセルビアを標的にしたキャンペーンでは前者は影響力行使に含まれ、後者は含まれない。おそらくどちらも影響工作には含まれる。どちらも、親ロシア、反米、反EUの感情を広めるために、スプートニクやRTなど記事を拡散していた。前者ではルーマニアやタジキスタンなどの中央アジア諸国では,国が支援するロシアのキャンペーンによって,プロパガンダメディアであるスプートニクなどを地元のニュースとして拡散するメディアネットワークがあった。後者では、セルビアではここ数年、ロシアの報道機関が急増しており、現地のスプートニク支部やモスクワがスポンサーとなっているテレビチャンネルなどが活動しているが、セルビア人が情報を発信しているという偽装はなかった(定義の3番目に該当しない)。
また、特定の国家とのつながりの裏付けが取れないものも除外されている。
●影響力行使のトレンド
・標的となっていた国
2011年以降(2013年の誤植?)の96の影響力行使は、49の国を標的としている。76件のFIEのうち、26%がアメリカを対象とし、16%が複数の国を対象とし、9%がイギリス、スペインとドイツがそれぞれ4%、オーストラリア、フランス、オランダ、南アフリカ、ウクライナがそれぞれ3%、アルメニア、オーストリア、ベラルーシ、ブラジル、カナダ、中央アフリカ共和国、フィンランド、イスラエル、イタリア、リビア、リトアニア、マダガスカル、マケドニア、モザンビーク、ポーランド、サウジアラビア、スーダン、スペイン、南アフリカ、サウジアラビア、スウェーデン、台湾、タイ、イエメンがそれぞれ1回ずつ対象となっている。
20件のDIEのうち、ロシアが2件、中国が2件、キューバ、エクアドル、ホンジュラス、インドネシア、メキシコ、マルタ、ミャンマー、パキスタン、プエルトリコ、サウジアラビア、タジキスタン、トルコ、ベネズエラ、ベトナム、ジンバブエの市民がそれぞれ1件のDIEの標的となっていた(ここも誤植か計算違い? 足しても20にならない)。
・開始のタイミングとアクター
FIEのうち79%が2015年から2018年の間に開始されていた。DIEの60%が2015年から2018年の間に開始されていた。FIEの攻撃は平均2.7年(標準偏差1.8年)、DIEは平均4.5年(標準偏差2.3年)続くとなっており、DIEの方が長く、継続期間のばらつきが大きい。
アクターとしては、民間企業(FIEで45%、DIEで40%)、報道機関(FIEで42%、DIEで40%)、政府(FIEで22%、DIEで80%)、情報機関や軍事機関(FIEで20%、DIEで60%)が多い。後述するようなネット世論操作代行会社への委託が増加している。
未知のアクターが関与するFIEの件数が2018年に約14件とピークに達したが、未知のアクターが含まれるDIEはなかった。FIE関わるアクターのシェアは、2015年以降はかなり安定しているが、2019年は企業や政府の関与が増加した。一方、企業が関与するDIEのシェアは大幅に減少しており、政府自身が関与するDIEのシェアは2017年には約75%まで増加している。
・戦略と戦術
影響力行使は幅広い戦略を採用しており、時系列での明確な傾向はなかった。最もよく使われている戦略は「説得(persuasion)」で、一般市民を誘導する。FIEの74%、DIEの100%で使用されていた。人や組織の評判を落とそうとする=誹謗中傷(Defamation)は、FIEの72%、DIEの96%が使用していた。
FIEとDIEの多くが増幅(amplify)、創造(create)、歪曲(distort)という3つのアプローチをひとつのキャンペーンに採用していた。
・SNS
FIEでは、ツイッターとフェイスブックのふたつが最もよく使われるプラットフォームである。DIEでは、フェイスブック、ツイッター、インスタグラム、その他のプラットフォームが最も一般的である。
ツイッターは、FIEの86%、DIEの75%で利用されており、フェイスブックはFIEの70%、DIEの79%となっている。次に多いのは、FIEのニュース・アウトレット(55%)、DIEのInstagram(45%)となっている。これらの特徴は、地元由来の政治活動を装ったプロパガンダを発信するのに適したプラットフォームであることを示している。その一方で、フェイスブックとツイッターは積極的にテイクダウンの結果を公開していることでより多くなっている可能性もある。
・戦略のコンビネーション
複数の戦略のコンビネーションもよく用いられる。誹謗中傷と説得(FIEの70%、DIEの100% )が最もよく使われるコンビネーションであり、続いて制度の弱体化、政治的アジェンダの転換(FIEの37%、DIEの50%)となっている。同様に、荒らしとボット(FIEの88%、DIEの85%)、フェイクアカウント(FIEの88%、DIEの79%)、ハッシュタグのハイジャック(FIEの86%、DIEの80%)も一般的に併用されている。
ツイッター、フェイスブック、インスタグラムと、電子メールはほとんどの場合、コンビネーションで使われていた。
・標的国と実施国
ロシアはこれまでFIEをもっとも使用してきた国である。2017年のピーク時には、ロシアは世界各地で34の異なるキャンペーン行っていたと推定される。
新しい影響力行使の開始は2017年にピークを迎え、18の新しいFIEと6の新しいDIEが行われた。これらのキャンペーンのうち11件はロシアからのもので、中国、イラン、サウジアラビア、不明の攻撃者がそれぞれ2件ずつだった。中国、エジプト、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、ベネズエラは、調査期間中にそれぞれFIEを開始した。DIEについては、ロシアと中国がそれぞれ2件、その他の国がそれぞれ1件実施していた。
中国とロシアはいずれも国営の大規模なメディア組織を持ち、国外でプロパガンダを流し、自国民に対しても影響力行使を行っている。
特筆すべきはロシアで世界の影響力行使のトップランナーと言える。ロシアは、米国で13件、英国で4件、共通の政治的目標を持つ複数の国に対して同時に3件、オーストラリア・トラリア、ドイツ、オランダ、南アフリカ、ウクライナに対してそれぞれ2件のFIE、そしてアルメニア、オーストリア、ベラルーシ、ブラジル、カナダ、中央アフリカ共和国、フィンランド、フランス、イタリア、リビア、リトアニア、マケドニア、マダガスカル、モザンビーク、ポーランド、スウェーデン、スペイン、スーダン、タイ、シリアでそれぞれ1件のFIEを実施している。ロシアは2つのDIEを行ったが、その目的は政治的反対勢力の抑圧にある。
ロシアの影響力行使には5つの目的がある。
- 信用の失墜、攻撃(Discredit and attack)。
アメリカ政府機関やトランプに対する保守的な批判、アメリカ大統領選挙(2016年)と中間選挙(2018年)で民主党、2017年フランス選挙におけるエマニュエル・マクロン、2016年アメリカ大統領選挙におけるヒラリー・クリントン、ホワイトヘルメッツ、テレサ・メイ、世界各地でのアメリカの軍事活動、スーダンでの反政府デモ、国内の政治的野党などが標的となった。
- 分断化(Polarize)
アメリカの政治(BLM運動とWhite Lives Matter対抗運動を同時に支援するなど)、オーストラリアの政治、ブラジルの政治、カナダの政治、南アフリカの政治への干渉。
- 支持(Support)
米国におけるAlt-right運動、ドイツ連邦選挙(2017年)におけるAlternative for Germany(AfD)、Brexitの国民投票、カタルーニャの独立投票、2016年米国大統領選挙におけるドナルド・トランプ、ドナルド・トランプの米国最高裁判事候補者、イタリアの五つ星運動(M5S)と極右政党リーグ(La Lega)、カリフォルニア州とテキサス州における独立を求めるフリンジ運動32、ロシア連邦によるクリミア併合。リビア国民軍とハリファ・ハフタル将軍、南アフリカの2019年大統領選挙における国民会議(ANC)党、中央アジアとタイにまたがるロシアの外交政策、中央アフリカ共和国のファウスティン=アルチェンジ・トゥアード・́ェラ大統領、マダガスカルの2018年大統領選挙における親ロシア派候補者、モザンビークの2019年大統領選挙におけるフィリペ・ニュシ、モスクワの住宅取り壊し計画などを支持した。
- 弱体化、支持の減少(Undermine and reduce support for)
メルケル首相とその政治的決断、ベラルーシ政府、2017年のオーストリア大統領選挙後のセバスチャン・クルツ氏、オーストラリア政府、バラク・オバマ、ポーランドとウクライナの関係、アルメニアの2017年大統領選挙などが標的となった。
- その他の政治的目標(Other political goals include)
英国のシリア紛争への参加の批判、ロシアのプロパガンダを見つけ出す人々の信用の失墜、リトアニアとベラルーシの関係に関する認識を歪曲、ブラジルの選挙に影響行使、ロシア支持のプロパガンダ、ドンバス紛争におけるウクライナの行動に対するウクライナおよびヨーロッパでの支持の低下など。2011年前半のルイジアナ州の化学プラントの爆発、エボラ出血熱の発生、アトランタのシラミ殺人事件など幅広いテーマについてフェイクニュースを流し、マケドニアのNATO加盟を阻止し、イギリスのブレグジットの緊張を煽ったりしている。
ロシアは政治的干渉を広範な外交政策に利用しており、他国もロシアの活動に学んでいる。
MENA地域では、ロシアとイランの両方のトロールが、シリア政府による暴力の責任を曖昧にし、シリア軍に有利なナラティブを押し付けると同時に、自分たちのアジェンダを押し付ける活動を行っている。また、イランのトロールは、イスラエル政府とサウジアラビア政府の両方を攻撃している。ラテンアメリカでも、影響力を行使している証拠がいくつか見つかったが、アメリカ、ヨーロッパ、MENA地域で見られるようなレベルの協調は見られなかった
●新しい動き
このレポートでは新しい動きについて5つあげている。その中でも注目すべきは1〜4だ。
・マーケティング会社へのアウトソーシングの増加
イスラエルのネット世論操作代行会社アルキメデス・グループは、中央・北アフリカ、ラテンアメリカ、東南アジアの国々を対象に、影響力行使キャンペーンを行い、フェイスブックにネットワークを削除された。残念ながら、同社のクライアントにつながる証拠は発見できなかった。アルキメデス・グループは、政府関係者の関与を効果的に隠していた。
2019年12月には、ツイッターがサウジアラビアのネット世論操作代行会社Smaatが運営する8万8000のアカウントを削除した。Smaatのクライアントの一部は同社のwebで公開されており、コカ・コーラやトヨタなどの企業のほか、サウジアラビア民間防衛総局やその他の政府部門があった。Smaatは、フェイクアカウントやボットを使って、企業クライアントのブランドを宣伝し、ジャーナリストJamal Khashhogiの殺害におけるサウジアラビアの役割を否定し、カタールとイランの政府を攻撃する政治的なコンテンツを拡散していた。
香港での民主化デモを弱体化させるための中国のキャンペーンでは、スパムや商業コンテンツの宣伝も行うボットネットワークが利用され、スペインの選挙への攻撃では、かつてベネズエラの政治を標的にしていたボットが関与していた。
このような請負業者を利用でSNSの操作の背後にいる行為者を特定することが難しくなる。また、こうした操作を外部に委託することで、国家は必要な専門知識を身につけることなく政治的干渉を行うことができる。
2019年には、国家が現地のコンテンツ制作者を利用しているケースも増えており、影響力を行使する活動の特定を曖昧にするのに役立っている。2019年に行われたロシア人アカウントのテイクダウンで、フェイスブックはこのキャンペーンが「マダガスカルとモザンビークの地元の国民がページとグループを管理し、コンテンツを投稿するために本物のアカウントを使った」としている。これは、ロシアのネット監視部隊IRAが以前に行っていたアプローチとは異なり、ページにある程度の信憑性を持たせていた。今後は、現地のネットワークやアカウント、アウトレットが関与することで、FIEと本物の言説を見分けるための課題が増える可能性がある。
・国境を越えたキャンペーン
以前のレポートでは、54件のFIEのうち、複数の対象国に関与していたのは2つだけだったが、今回は新たに確認された23件のFIEのうち9件が、複数の国に同時に影響を与えようとしていた。これらのケースの多くは、各国固有の流通ネットワークと共通のコンテンツを用いていた。たとえば、サウジアラビアの政府関係者やマーケティング企業が関与した広範なキャンペーンでは、カタール、サウジアラビア、UAE、バーレーン、エジプト、モロッコ、パレスチナ、レバノン、ヨルダンなどの国々でサウジアラビア寄りの意見を拡散させた。このFIEに関与したツイッターアカウントは、主としてアラビア語と英語で投稿したが、日本語、ロシア語、スペイン語などの言語でも投稿していた。
アラブ首長国連邦、中国、ロシアも同様に、複数の国の幅広い視聴者を対象とした自国の宣伝活動を行っていた。ロシアのFIEは、フェイスブックにネットワークを構築し、中央アジアの多くの国で、地元のコンテンツを装って情報を拡散させた。
タイでは、ロシア科学アカデミー東洋学研究所が運営するニュースサイト「New Eastern Outlook(NEO)」の記事を、SNSを利用して増幅させた。NEOは、タイに関する「ニュース」のページを運営しており、タイを拠点にしていると自称するライターもいた。NEOは、複数の偽のジャーナリストのペルソナに帰属するコンテンツを公開しており、全員が「クレムリンの党派的な路線」に沿って執筆している。
さらに、特定の国の国内政治に干渉すると同時に、その国を取り巻く地域的または国際的な反応に影響を与えようとしたFIEも数多く存在した。リビア内戦でリビア国民軍(LNA)とハリファ・ハフタル将軍を支援しようとしたケースはその代表例である。サウジアラビア、アラブ首長国連邦、エジプトは、リビア国民を装ったツイッターアカウントネットワークと連携し、リビア人がLNAを支持しているかのような印象を与えるコンテンツを発信した。同時に、中東の国営メディアや現地アカウントは、ハフタール派のストーリーやハッシュタグを地域全体に広めた。また、アラブ首長国連邦を発信源とするツイッターアカウントが、フランス語や英語で同様のメッセージを海外に広めた。このように複数の国が連携して影響力を行使することは、2019年以前には珍しかった。
リビアに焦点を当てたFIEは、攻撃がどの程度相互に関連しているかという重要な問題も提起した。最近の数多くの出来事において、研究者たちは、緊密に連携した複数の国を拠点としたキャンペーンを発見したが、協調していることを示す直接的な証拠は見つからなかった。2019年8月、フェイスブックは、エジプトのネット世論操作代行会社New Wavesとアラブ首長国連邦のNewaveに関連するアカウントのネットワークを削除した。この2社は、エジプトとアラブ首長国連邦の外交政策を支持するコンテンツを中東と北アフリカの国々に向けて発信していた。New York Timesなどは、2019年にスーダンで行われた民主化デモを弱体化させる動きなど、いくつかの出来事についてこれらの企業が「協調している」と報じていたが、具体的な証拠は示していなかった。その2カ月後、フェイスブックは追加の企業のアカウントを削除し、BuzzFeed Newsに対し、ネットワークは「高度に同期していた」と述べたが、ここでも協調的な活動の明確な証拠はなかった。
こうした傾向により、広範なキャンペーンの中で明確なFIEを特定することはやや困難になった。我々は、明確な協調の証拠がないキャンペーンを複数のイベントに分けた。
・アフリカをターゲットにしたFIE
2019年に新たに記録されたFIEの半数近くがアフリカ諸国または北アフリカを含む地域グループを対象としていた。前回の報告書ではアフリカの事例は1件のみだったので多く増えた。これら2019年のイベントのほとんどはロシアからのもので、ロシアのオリガルヒであるプリゴジンと関連していた。プリゴジンは「プーチンのシェフ」とも呼ばれ、IRAとも関係しており、2016年の米国大統領選挙に干渉したとしてロバート・ミューラー特別顧問に起訴されました。2019年に確認されたキャンペーンは、リビア、スーダン、南アフリカ、中央アフリカ共和国、マダガスカル、モザンビークを対象としていた。4カ国では、ロシアの軍事請負業者であるワグナーグループも積極的に警備を提供したり、訓練を行ったり、現地の民兵と一緒に活動していた。
プリゴジンに関連した鉱山会社がアフリカで数多くの契約や取引を獲得していることから、これらの活動の一部には明確な経済的動機がうかがえる。アフリカ各地で行われたロシアのSNSキャンペーンには、地元から出たように作られたフェイクニュースページの作成や、ロシアに友好的な候補者の宣伝など共通点があった。アフリカでのキャンペーンの内容は、ほぼロシアの政治的アジェンダに沿ったものであった。
・DIEの広範な使用
影響力行使キャンペーンで外国の政治に干渉した国は6カ国であるのに対し、DIEを行った国は18カ国と多い。DIEは、マルタやホンジュラスを含むいくつかの小国でも使用された。もっとも一般的なDIEは、特定の支配者や政権への支持を高め、反対勢力の信用を落とすことを目的としている。2012年から2018年までのエンリケ・ペン・アリア・ニエトの大統領時代には、メキシコのInsti-tutional Revolutionary Party(PRI)の候補者のために、多くのSNSキャンペーンが行われた。PRI派のアカウントはPen ̃abotと呼ばれるようになり、大統領のアジェンダや業績を人為的に増幅させていた。
また、DIEネットワークが公然と政府に組み込まれたケースもある。ベトナムでは、軍がTask Force 47というサイバー部隊を創設した。これは、SNSでベトナム共産党(VCP)を宣伝し、野党の人物を攻撃することを任務とするトロールアーミーである。スーダンでは、SNSの操作による政治思想の監視と規制を目的とした、同様のサイバー・ジハード部隊が同国の情報機関の下に作られた。このような形の持続的な国内干渉は、個人的な表現や政治的言説のためのSNSの利用を阻害し、民主主義体制と権威主義体制の両方で選挙に影響を与えるために採用されてきた。
政治的支配を定着させるための長期的な取り組みに加えて、特定の出来事に関連した活動に影響を与えることに焦点を当てたDIEもあった。中国のネットワークは、2019年に香港で行われた民主化運動の際に、偏りや不和を引き起こすことを目的としていた。同様のキャンペーンは、インドネシアの西パプア独立運動を対象としていた。観測されたDIEの半数以上が2017年以降に始まっている。今回の調査では、国家が国内政治を形成するためにSNSを操作するケースが増えていることが示唆された。
・影響力行使に含められないケースの増加
今回の調査では、国内外の国家の政治に干渉することを目的としながらも、影響力行使の基準を満たしていないケースが数多くあった。SNSを操作したり、コンテンツをターゲットに合わせて有機的に見せる努力をしたりしていないプロパガンダキャンペーンが数多く見つかった。
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