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2022年あるいは2023年に台湾有事の可能性はあるのか?
【追記】大前提として、中国は台湾を統合しようとしており、軍事行動を含めた行動を薦めるのはほぼ間違いない。そしてそれは遠い未来ではない。この認識は以前からあったが、日本ではその備えがほとんどと言っていいほど進んでいなかった。
時事通信の2022年10月21日のニュース(https://www.jiji.com/jc/article?k=2022102100699)で紹介されたMichael M. Gilday米海軍作戦部長の発言がきっかけとなって、SNSで2022年あるいは2023年の台湾有事の可能性に言及する発言を見かけるようになった。 「ほんとに?」と思って、New York Times やWashington Post、Wall Street JournalをMichael M. Gilday米海軍作戦部長に関する記事を探してみたが、時事通信で取り上げたような内容のものはなかった。
時事通信の記事の根拠になっているのは、大西洋評議会が開催したオンラインイベントでのMichael M. Gilday米海軍作戦部長の発言で、下記のリンクとそこにつながるツリーで動画を見ることができる。
https://twitter.com/AtlanticCouncil/status/1582732841473167361
LIVE NOW—How will the @USNavy navigate an uncertain #security environment? @USNavyCNO ADM Gilday sits down with @Defense_News @Maeday22 to discuss the future of the #maritime domain for #ForwardDefense and @Saab_Inc’s Commanders Series. https://t.co/jGQsAOhIQf
— Atlantic Council (@AtlanticCouncil) October 19, 2022
“When it comes down to making hard decisions on where to put your next dollar, those are decisions that need to be made and debated within the Pentagon,” explains @USNavyCNO Admiral Mike Gilday.
— Atlantic Council (@AtlanticCouncil) October 19, 2022
Watch more on the future of the @USNavy here: https://t.co/8uhJklogJu pic.twitter.com/RefF58EXLZ
長い動画なのでざっと聞いた範囲だが、台湾有事に備えることの重要性と、中国は想定よりも早く行動を起こす可能性について述べていた。つまり、行動が早まることは2022年あるいは2023年に行動を起こす可能性もあり得るわけで、そのための備えをしておく必要があるという話であって、2022年あるいは2023年に中国が行動を起こす可能性についての根拠を示したわけではない。さまざまな可能性のひとつとしてあげ、さまざまな可能性それぞれに備えをすべきと言っているにすぎない。もちろん、直近の可能性については早く対応した方がよいだろうが、それと蓋然性は別問題だ。
時事通信ではさらに、ブリンケン国務長官の発言も紹介しているが、こちらは台湾統一のタイムラインを早めている話で、軍事的アプローチとは言っていない。
なので「これまでと変わったことは起きていない」というのが実態のようだ。これまでも中国は台湾を統一しようとしてきたし、その時期はいつかわからないが、当初の想定の2027年より早まる可能性も指摘されている。アメリカの大手メディアがMichael M. Gilday米海軍作戦部長を取り上げて、「2022年か2023年に台湾有事!」と騒がないのも当然だ。
時事通信の記事は間違っているわけではないが、意図的に「これまでと変わりがない」ことを隠して報じているかのように思える。記事を見た多くの人が話にのって危機感を募らせたのも当然だ。
結論から言うと、以前から台湾有事の可能性は常にあり、世界はそれに備えなければならない。しかし、今回アメリカから新しく警戒レベルを高めた方がよいような情報がもたらされたわけではない。ということになる。
正直、今の日本は備えなければならない危機に備えていないと思うので、危機感が高まったのはよいことだと思うが、こういう狼少年的な方法で危機感を高めても、有事が今年や来年なかったら「やっぱり煽ってただけじゃん」とメディア不信につながって狼少年のオチと同じことになりそうなのでやめた方がいいと思う。
【さらに追記】軍事侵攻が起こる場合、3つのパターンが想定される。
1.あらかじめ計画されたもの
2.偶発的な原因によるもの
3.外部からはわからない国内事情、健康状態などが原因のもの(合理的な判断ができない、そのための材料が上にあがっていかないなども含む)
私は研究者ではないのであくまで個人的な感想だが、「1」の可能性は低いと考えている。2022年あるいは2023年というタイムラインでの軍事侵攻は偶発的な事件が重ならない限り起こらなそう。それは中国にその必要性がないからだ。台湾は中国への経済的依存度を高めており、アメリカは悪化する一方の自国内の問題とウクライナで動きがどんどん取りにくくなる。中間選挙で共和党が勝つ可能性が高く、そうなればさらに動きが取りにくくなる。そこから2年後の大統領選に向けて、さらに社会は混迷するのは目に見えているので、待てば待つほど有利な状況になる。わざわざ早期に軍事侵攻するメリットがない。現在から次回のアメリカ大統領選の結果が出る2024年の間に準備を進め、その後、具体的な行動に移るような気がする(あくまで憶測)。軍事的手段を取るとは限らない。
ただし、常に「2」と「3」の可能性がある以上、備えは必要だ。
なお、台湾で万が一有事があれば、確実に日本は巻き込まれる。地図を見ればわかるが、単純に近すぎるし(地図で見ると与那国や石垣がどれほど台湾に近いかわかる)、台湾を支援する立場を打ち出して米軍に協力するからだ。
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