2014年クリミア侵攻 ハイブリッド戦
以下は2018年1月に書いた原稿です。さらに詳細な解説は、拙著『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』をご覧ください。
エストニア、ジョージア、ウクライナを比べると、それぞれで主軸にしている戦闘能力が異なる。たとえばインターネット普及率が高く、インフラなどを含め依存度の高いエストニアにはサイバー攻撃を行い、そうでもないウクライナにはサイバー攻撃に加えて、情報戦、電子戦、そして旧来型の武器を統合的に運用している。
ロシアはウクライナに傀儡政権を樹立して操っており、経済的にも食い込み、継続的なサイバー攻撃によりネットワークにも侵入していた。そのままであればなにもしなくてよかった。表だった武力の行使はコストもリスクも高い。しかし親ロシア政権への反発が強くなり、政権の基盤がゆらいだため、そうもいかなくなり、侵攻となった。
年表を見るとわかるように、まずサイバー攻撃によって敵のネットワークに侵入し、情報を盗み出すとともに戦闘開始後の活動に備えている。このサイバー攻撃に当たってはマルウェアを送り込むだけでなく、サプライチェーン攻撃のようなものも行っている。ウクライナの通信設備はロシアが関与したものも少なくなく、その内容や場合によっては侵入方法までわかっていた。
相手の通信網を遮断するために、部隊が侵攻し物理的にケーブルを破損し、IXPを占拠した。サイバー攻撃よりも早く確実という判断があったのだろう。正体を隠してはいるが、ほぼロシアと思われていた部隊の侵攻に対して武力衝突が起こった。この時、ロシア軍と対峙して電子戦を行ったアメリカの兵士たちは衝撃を受けたと言われている。ロシアの電子戦がはるかに先を進んでおり、通信が遮断された状況でも彼らは戦闘を行うことができたのだ(なお、ロシアの電子戦能力については諸説ある)。
ここから一気にSNS世論操作を実施しつつ、分離独立を問う住民投票の開催へと誘導し、翌月にはクリミアはロシアに帰属する投票結果となった。さらに、ハリコフ州、ドネツク州、ルガンツ州においても分離独立運動を引き起こし、ドネツク州とルガンツ州は独立した。クリミアの併合までは一カ月、ドネツク州とルガンツ州の独立まで含めても半年もかかっていない。
興味のある方はこの年表と、ゲラシモフの論考を比較してみるとおもしろい。非軍事兵器の展開や軍事兵器の展開などの時系列は似通っている(もちろん違う箇所も多々あるが手順や流れが似ている)。