『暗殺国家ロシア―消されたジャーナリストを追う』(福田ますみ、新潮社、2010年12月1日)
『暗殺国家ロシア―消されたジャーナリストを追う』(福田ますみ、新潮社、2010年12月1日)は、10年以上前の本だが、この本に書かれていたことが最近よりリアルに感じることができる。
本書は2021年にノーベル賞平和賞を受賞したジャーナリスト、ドミトリー・ムラトフ氏が編集長を務めるノーバヤガゼータ紙の活動を追ったノンフィクションである。
ソ連崩壊後、民主化し、自由な社会になったのもつかの間、プーチンによってまた自由が制約される社会になってしまったロシアの中でジャーナリストとして屈せずに活動するノーバヤガゼータ紙の記者たちに立ちはだかる困難と危険を克明に描いている。
プーチンはオリガリヒなどの支援も受けて大統領となったが、すぐに自分に刃向かう可能性のあるオリガリヒをさまざまな理由をつけて排除してゆく。メディアもターゲットとなった。影響力が大きく、運営に資本が必要なテレビは露骨に狙われた。プーチン支持の体制派企業に買収されるか、言うことをきくように恐怖で飼い慣らされてゆく。
新聞はテレビほどではなかったが、やはり厳しい監視の下におかれ、プーチンや掲載、政府を批判する記事があれば、脅迫を受けることになる。そんな中にあって、ノーバヤガゼータ紙はほとんど唯一残された中立的なメディアだった。
当然、その分、圧力や攻撃も多い。
著者が取材した時に同席していた人物が、その次に行った時には行方不明になっていたり、記者が暴行を受けたり、殺されたりする。
北オセチア共和国のべスランで、チェチェンのテロリストたちが、学校を占拠し、1,200人の子供や親、教師を人質にした事件で、当局は人質の人数を354人といつわり、人質救出よりもテロリスト殲滅を優先させた突入で多数の死傷者を出した。
捏造された事実ばかりの当局側の発表をノーバヤガゼータ紙の記者が根気よく、何度も現地に足を運んで証言を集め、証拠を積み重ねて暴いてゆく話には驚いた。
同時に、この時よりも世界の状況は悪化していることに思いがいたり、「昨日のロシアは明日の日本」と思ってしまった。
本書に日本ではあまり語られていないロシアの暗部とジャーナリストの苦闘が描かれており、今読んでも充分意味がある。むしろ、こういう時期だからこそ読むべきかもしれない。