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ロシアの監視ネットに関するNYTの記事

ニューヨーク・タイムズにロシアの国内監視システムに関する記事「Cracking Down on Dissent, Russia Seeds a Surveillance Supply Chain」(https://www.nytimes.com/2023/07/03/technology/russia-ukraine-surveillance-tech.html)が掲載された。
中露は以前から国内監視に力を入れていた。インドなどの新興国の多くもそれにならっている。国内を監視し、国内世論を誘導するのは権威主義国にとって必須だ。

デジタルでしか読んでいないのだが、紙の方がもっと情報量が多いのかもしれない。記事はロシア国内の民間企業の開発、提供する監視ツールの機能向上や増加に関するもので、国外に販売されている状況も解説していた。
読んだ記事の範囲では新しい情報はいくつかあったものの、かなり食い足りない感じだったのでやはり紙のバージョンにくわしいことが書いてあるのかもしれない。

ただ、あらためて言うまでもなく、2018年頃にはロシアの監視システムが国内民間企業によって開発されており、主として旧ロシア圏を中心に販売されていたことは脅威とされていた。
世界に拡大する中露の監視システムとデジタル全体主義
NYTの記事で紹介で触れていたロシアのProteiなどはこの時点ですでに国外へのシステム販売、設置、運用などを請け負っていた。

「世界に拡大する中露の監視システムとデジタル全体主義」より
『The Worldwide Web of Chinese and Russian Information Controls』(2019年9月17日、https://www.opentech.fund/news/examining-expanding-web-chinese-and-russian-information-controls/)より

拙著『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社)でも、ロシアとウクライナの双方の国内統制に解説する中で監視システムに軽く触れた。

ウクライナ侵攻が始まってから、ロシア国内から多数の情報漏洩が起きており、いくつかはこのnoteでも紹介した。
Vulkan filesが暴いたロシアのサイバー攻撃システムとデジタル影響工作
Vulkan filesはロシアの監視ツール企業から漏洩した文書であり、11の報道機関がコンソーシアムを組んで報道した。文書の分析にはMandiant社が参加している。
他にもベラルーシのハクティビストグループがロシア連邦通信・情報技術・マスコミ分野監督庁(ロスコムナゾルRoskomnadzor)とラジオ周波数総局(GRFC)から2テラバイト以上の内部データ(200万以上の内部文書、画像、メールなど)を盗み出して公開した。
GRFCによるAI監視 ロシアの検閲強化
こうした活動はコロナ禍でも拡大していた。
コロナ禍でも威力を発揮したロシアのデジタル監視システム 輸出で影響力増大

また、中露を始めとする権威主義国が国全体を閉鎖ネット化しようとしており、これが非対称戦略として機能するとNATO CCDCOEは警告している。
ロシアのサイバー非対称戦略「The Russian National Segment of the Internet as a Source of Structural Cyber Asymmetry」

といった全体を俯瞰する話をどこかでまとめてくれないかなあ。

好評発売中!
『ネット世論操作とデジタル影響工作:「見えざる手」を可視化する』(原書房)
『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)
『フェイクニュース 戦略的戦争兵器』(角川新書)
『犯罪「事前」捜査』(角川新書)<政府機関が利用する民間企業製のスパイウェアについて解説。










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