デジタル地政学とサイバー攻撃とネット世論操作定番本
ネット世論操作定番本や、某所からのご依頼の準備でデジタル地政学とサイバー攻撃っぽいことを調べています。サイバー攻撃というより、ネット経由での影響工作を含めたオフェンシブな活動すべてと言った方がよさそう。備忘録として書き留めておきます。
デジタル地政学は日本ではほとんど紹介されていないようなのですが、その理由はよくわかりません。まあ、メジャーではなさそうだし、アメリカでやってる人が少ないせいなのかもしれません(もしかしたら私が知らないだけで多いかもしれませんが)。ただ、ざっといくつかの論文やレポートを見た範囲でのデジタル地政学は私がイメージしているのと違ったので、私がやっているのはデジタル地政学ではないのかもしれません。
やろうとしていることはすごく単純なことです。地政学上、留意すべきアクターごとにドクトリンや計画などを調べて、主たるポイントをリストアップします。重点開発分野でAI、量子なんちゃらとか、一帯一路とか、交通とか、成長を期待する産業とか、地域とか、そういうものです。地政学的観点から重要なものとも言えます。
大項目をリストにしたら、それを具体的な小項目にブレイクダウンします。この時に、「非対称領域」と「可能チョークポイント」を考え得る限り、加えます。「非対称領域」とは、匿名性や攻撃優位性などによって一方的に優位に立てる領域で、サイバー空間は全般的にそうなのですが、たとえば中国はグレートファイアウォールによって中国本土のネットまるごとを「非対称領域」にしています。また、すべての民主主義を標榜する国家は、権威主義国家の影響工作にとって「非対称領域」となります。民主主義国家自身は原則として影響工作を行うことはできないためです。これらはデータベース化されます。
チョークポイントは、必殺のポイントで古典的な地政学では海上交通のチョークポイントとしてジブラルタル海峡、ボスポラス海峡、スエズ運河、ホルムズ海峡、マラッカ海峡、パナマ運河などがある。これらを封鎖されると、海上交通が止まってしまいます。日本のように多くの資源を輸入に頼っている国にとっては致命的です。可能チョークポイントは、なんらかのサイバー手段によって、方法で本来チョークポイントではないものをチョークポイントにしてしまえるものです。
発生したサイバー事案や影響工作事案を、データベースと照合します。たとえば、海外の自動車工場がハッキングに合った場合、某国の国家計画や産業政策および交通網整備に伴う輸送車両増加を見越して、当該国に自身の自動車メーカーを進出させる準備のためという背景が確認できます。交通路は地政学上重要です。
また、今回のウクライナ情勢の場合、EUはロシアのエネルギー供給に依存していたりします(国によって程度の差はあります)。しかし、ロシアがパイプラインによる供給を停止しても即座に致命的というほどのダメージにはならないでしょう。しかし、仮になんからのサイバー手段で他のエネルギー供給を逼迫させることができればチョークポイントになるかもしれません。
ここで思い出されるのが、ここ数年激化しているランサムウェアグループの活動です。近年は制御系のシステムをターゲットにすることが増えています。昨年、被害にあったコロニアル・パイプラインは東海岸の燃料の半分近くを担っているもので大騒ぎになりました。
エネルギーに限らず、原材料や資源、食料、水など、ロシアあるいはロシアと共謀してくれる国が、ターゲットの国のインフラとなるかなりの部分を占めていれば可能チョークポイントにできます。
一連のランサムウェア事件は、そのための予行練習、準備だったかもしれません。ロシアはトランプが当選したアメリカ大統領選挙に先立つ2年前から、ネット世論操作を仕掛けたり、そのための偽のローカル紙を作ったりして準備していました。8年前のウクライナ危機以降、なんの準備もしていなかったと考える方が不自然でしょう。もちろん、ネット世論操作は絶えず行っていましたが、すでにある程度手の内を知られていて、対策のための組織までできているので新しい手法を考えていてもおかしくありません。
しかし、さきほど書いたようなデータベースがあれば、コロニアル・パイプラインのような事件が起きた際に想定される近未来のシナリオとして、エネルギーに関連する設備を可能チョークポイントとしたサイバー攻撃が行われる可能性にも準備できるようになります。もちろん、これはサイバーに限らず、従来兵器によって攻撃することでも実現できますが、サイバー攻撃の場合は、物理的な障害がないことと、一般的に制御系のシステム(OT)は攻撃に対してより脆弱なのです。さすがにすべての制御系システムは、その脆弱性により、非対称領域に属するとまでは言えませんが、かなり多くのものがそこに含まれるのは確かでしょう。ならば、社会の基盤となる制御系システムをサイバー攻撃し、効果を上げるためには想定チョークポイント化するのが一番です。サイバー攻撃と、リアルの物資提供の遮断を組み合わせることで単体のサイバー攻撃を上回る地政学上の優位を得ることができそうです。
サイバー攻撃は地政学的問題であり、地政学的対処が必要ということなのでしょう。
あくまでも現段階では私の空想、与太話に過ぎませんので、適当に聞き流してください。ちゃんとまとまるようなら、まとめてネット世論操作の定番本にも盛り込みます。