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最近の論考で指摘されたデジタル影響工作研究の課題

最近、公開された2つの論考、「Misunderstanding Misinformation」(https://issues.org/misunderstanding-misinformation-wardle/)と、「There Is No Getting Ahead of Disinformation Without Moving Past It」(https://www.lawfareblog.com/there-no-getting-ahead-disinformation-without-moving-past-it)でほぼ同様の指摘がなされていたので紹介しつつ、デジタル影響工作研究に共通する課題を整理したい。

●2つの論考で共通して指摘されていた問題

独立に公開された2つの論考が指摘していたのは、現在の主流となっている個別の誤情報、偽情報にフォーカスするアプローチは、「木を見て森を見ない」状況を生んでおり、それによってより大きな問題を見過ごしている。誤情報、偽情報の問題は個別の事例にフォーカスすればするほど、全体像を見失うことになり、本質を見過ごすことになる。情報の正確さに注目することよりも、情報の生態系をとらえるべきであるとしている。

個別の誤情報や偽情報に焦点をあてるために、なぜそれらを人々が信じ、拡散するのか理解できないとして、「There Is No Getting Ahead of Disinformation Without Moving Past It」では架空の人物をリンダをモデルにして、リンダの行動原理や思考を現在のアプローチでは全く分析できないことを示している。

このような状況を生んだ背景には、デジタル影響工作の研究が関連する各分野で独立して勧められており、資金を提供する側にも偏りがあることが指摘されている。また、ウクライナ侵攻やコロナなどのイベンや事件もそこにフォーカスした研究に資金が提供され、全体像を見失いがちになる。

また、全体像を明らかにする試みには資金や複数の専門分野にまたがるという難しさもある。その一方ではロシアや4chanなどにせいにする方がはるかに簡単でわかりやすい結果を出せる。

●感想

この2つの論考に書かれていたことは私が『ネット世論操作とデジタル影響工作』を企画した問題意識と同じで、さらに全体像を把握するためのフレームワークが必要というのも全く同感なので参考になった。こういう論考が増えてくるといいと思うのだけど、おそらく資金と方法論の問題が邪魔をする。

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