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2024年選挙大戦メモ TTPの共通化と相手国の国内問題ターゲット


●2024年選挙大戦とは

2024年、惑星直列なみに珍しく世界各国で選挙が行われる。地方選挙まで入れるなど数え方によって異なるが、70カ国以上はほぼ確かなようだ。大陸で言うと、37の選挙が行われるヨーロッパがもっとも多く、次いで18のアフリカとなる。さらに世界人口のトップ10カ国のうち8カ国(インド、インドネシア、バングラデシュ、ブラジル、メキシコ、パキスタン、ロシア、米国)で選挙が行われることから、世界人口の半分が投票することになる。選挙のスーパーボウルと呼ぶ人もいる。
その中でも注目されているのは下記だ。

台湾 1月13日
パキスタン 2月8日
ウクライナ 3月31日
インド 4月〜5月
EU 6月6日〜9日
アメリカ 11月5日

・台湾とインド

大方の予想通りの結果になる可能性が高いが、もしそうならなかった時のインパクトは大きい。台湾で親中派が勢いを増したり、インドが民主主義チームから抜けたりした時、日本にはかなり大きな影響がある。どちらもまずなさそうだけど。

・ウクライナ

そもそもできるかどうかが微妙だ。憲法で戒厳令下の選挙は禁止されおり、さらに戒厳令下で憲法を改正することも禁止されている。さらに国外に出た数百万人が投票できない、投票場がロシアの攻撃ターゲットになる可能性が高く、現実的に困難かつきわめて危険と言える。どちらかというと選挙をやる方が問題ある状態なのだ。こうした事情を知らないと、選挙をやらないなんて非民主主義的と思ってしまいがちなので、やらなければロシアはそれを大々的に非難するのは間違いない。なにしろロシアは同じ年に選挙をやるのだ。しかし、欧米ははっきりとではないが、選挙をやった方がよいアピールになる、というプレッシャーをかけてきており、ゼレンスキーは選挙資金を提供してくれるならできるかも、という態度になっているらしい。

・ヨーロッパ

欧州議会の選挙が注目だが、オーストリア、ベルギー、クロアチア、フィンランドでも選挙がおこなわれる。最近の右翼、ナショナリスト、ポピュリストの台頭がどこまで進むかが焦点となる。そもそもEUはハンガリーのオルバンようなどう見ても民主主義には見えない人物に対して効果的な対処をせず、メンバーのままにしてきた。
これをひとつのサインとみなして、他の国で権威主義化が進みやすくなっているという見方もある。そうなった場合、反移民などの動きが活発になる可能性がある。そして、こうした権威主義的政治家はロシアを敵対視しない傾向がある。

・アメリカ

もっとも重要なのはアメリカ大統領選だ。ここで共和党のトランプが再び大統領になるようなことになれば、民主主義の旗振り役が消え、ウクライナ支援、台湾支援は後退することになるだろう。世界の権威主義化はほぼ確定する。

なお、民主主義そのものに懐疑的な人が増えているわけではなく、欧米型の現在の民主主義はうまく機能していないと考える人が多い。この点が旧来の欧米型民主主義をよしとする多くの欧米の識者と相容れない。現在の民主主義制度は富裕層や権力者を優遇し、それ以外の人々を無視しているという考えが広がっている。

●選挙を妨げるさまざまな要因

今回の選挙にはさまざまな妨害が予想されている。Recorded Futureの「Aggressive Malign Influence Threatens to Shape US 2024 Elections」などいくつかが分析している。

影響工作と言えば、中国、ロシア、イラン。この3カ国の干渉がおこなわれることは間違いない。

・中国

中国はアメリカの銃規制や人種差別といった問題を利用し、アメリカの民主主義の失敗を批判し、アメリカ国内の分断を煽る。米国主導の世界にではなく、多極的な世界を提唱し、欧米以外の国の賛意を得る。
すでに構築した中国政府、外交機関、公的メディア、プロキシなどを通じて主張を拡散させる他、Spamouflage(Empire DragonやDRAGONBRIDGE)によって広げる。

中国のSpamouflageについてはニュースよりISDの記事がわかりやすかった、https://note.com/ichi_twnovel/n/n3e55174b94a6

・ロシア

ロシアは、アメリカ大統領選をウクライナ戦争戦略に織り込んでおり、NATOに対する米国の安全保障上のコミットメントや、東欧や中東における地域的な安全保障上のコミットメントに対する米国内の支持を減らし、米国の世界的な地位を低下させ、ロシアとその同盟国の地域的な影響圏を確保し、多極化への挑戦を促進するチャンスととらえている。
アメリカ国内の社会的・政治的分裂を利用し、国民の信頼や国際的地位を毀損する。狙われるのはアメリカ国内に存在する人種差別、米国愛国主義、銃規制、移民などの問題で、これらについて、RTやスプートニクなどのロシアの国営メディアによって発信する。並行してNewsFrontなどのプロキシサイトでも発信する。

アメリカ国務省GECによるロシアのRTとスプートニクに関するレポート、https://note.com/ichi_twnovel/n/n193aef2b9a5b
ウクライナ情勢を受けてロシアのプロキシも増強、https://note.com/ichi_twnovel/n/n8eda606cd4de
ロシアがアメリカ大統領選で行なっていたこと......(ロシアのプロキシの解説がある)、https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2020/08/post-5_2.php

その他、ジェネレイティブAIの活用やサイバー攻撃、親ロシアハクティビストによる攻撃などが予想される。
これらが必ずしも成功する必要はなく、攻撃があったことを広めるだけでも不信感と不安感を煽る効果がある。Metaが最近の報告書で指摘していたパーセプション・ハッキングである。

Metaの2023年第3四半期脅威レポート、https://note.com/ichi_twnovel/n/n1ffdf1e1d287

・イラン

アメリカからイスラエルへの軍事・財政援助を批判し、アメリカ国民のイスラエル支援への支持を後退させようとする。イスラエルへの支援は戦争犯罪の容疑に加担、イスラエルへの支援はパレスチナ人抑圧の支持と同じといった主張をおこなう。
並行してアメリカ国内の緊張と分断を煽る。内戦の危機に瀕している、格差が広がっている、などを国営メディアを使って拡散する。
やってもいないサイバー攻撃をでっち上げ、実際にはサイバー攻撃していないのに成功したと発表し、混乱させ、不信感を煽ることもある。

・サイバー攻撃

本格的なサイバー攻撃からハクティビストによるDDoS攻撃までさまざまな攻撃が予想され、政府機関はもちろんだが、マイクロソフトやクラウドフレアなどの民間企業も依頼を受けて対処しているようだ。

・RMVEs(Racially or Ethnically Motivated Violent Extremists)

何度も取り上げているRMVEs(Racially or Ethnically Motivated Violent Extremists)はアメリカの選挙というか、社会にとって国内最大の脅威になっている。自然災害、ウクライナ侵攻、イスラエル・ハマス紛争など、なにかにつけて騒ぎを大きくしてきた。
選挙においては、いわゆる共和党と民主党が拮抗しているスウィング・ステートがターゲットになりやすく、その中でも選挙管理関係者などの職員が脅迫や時には暴力にさらされる可能性がある。
また、開票の遅れ、再集計、審査、監査、敗れた候補者のクレームなど、あらゆる問題がRMVEsの暴力などのきっかけになる。

アメリカ最凶の多角分散型白人至上主義グループActiveClubが示す情報戦の終焉、https://note.com/ichi_twnovel/n/nc5ab23ab9c9a
アメリカ社会を崩壊させるRMVEs、https://note.com/ichi_twnovel/n/na39742450245
アメリカから世界に輸出されるテロリストたち──いま、そこにある「個別の11人」の脅威、https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2022/10/11.php

なお、RMVEsは一般的には白人至上主義グループが中心だが、実際にQAnonのような陰謀論者などを始めとするさまざまな反主流派というべきグループが重複し、共鳴していると考えた方がよい。

・アメリカの対策の後退

アメリカではデジタル影響工作への対策が大幅に後退しつつある。これについてはさんざん書いたので下記を参照。

アメリカの偽情報対策が直面している問題、https://ggr.hias.hit-u.ac.jp/2023/09/01/problems-facing-us-disinformation-measures/

●注目すべき点

今回の選挙で予想される妨害の中で注目すべき点がいくつかある。
ひとつは中露伊のデジタル影響工作の手口=TTPが似てきたことである。たとえば、対アメリカでは取り上げるテーマ、手法(政府系メディアと構築した拡散ネットワークの利用など)、サイバー攻撃との連動など類似ている。
その背景には、より効果的で効率的なやり方がわかってきて、共有されてきたことや、3者が協働でおこなうことによるメリット(相乗効果、難読化、)がわかってきたことがありそうだ。

もうひとつは相手国の国内問題を狙うことに注力していること。相手の脆弱な箇所を攻撃するのは当たり前なので、当然のことなのだが、なぜか多くの識者はこの点にあまり触れてこなかった。攻撃側はちゃんと学習しているということなのだろう。アメリカやEUに対する攻撃が代表で、国内にそういう主張をしている勢力がいるのだから、止めようがない。
アメリカのRMVEsはロシアなど現在の社会の主流を否定する国や人物に共感を覚えがちで、ロシアなどはそれがわかっているからアメリカのRMVEsの主張を拡散したりする。前述のように、RMVEs、陰謀論者たちはその活動においてつながっており、中露伊はそれを煽り、間接的に支援している。

対策の後退やRMVEの台頭が示すように、アメリカは国内問題から崩れていっている。以前から書いているように国内問題を解決できなければ、どのようなデジタル影響工作対策をおこなっても無効化されてしまう全ての国の国内問題は積極的な対処をおこなわなければ悪化する時代になっており、そこを海外勢力が煽るのだ。
自動的に国内問題は悪化する理由は下記。

一橋大学GGRブラウンバックランチセミナープレゼン資料、https://note.com/ichi_twnovel/n/n0b0a15fc4924

今年の振り返り 周回遅れの情報戦対策と攻撃の深刻な乖離が進む、https://note.com/ichi_twnovel/n/n3b271f0fe338

そしてそこで広がるナラティブは中露伊、RMVEs、陰謀論者などで共通化しており、拡散するネットワークも共有化されつつある。くわしくは機会があれば書きます。

好評発売中!
ネット世論操作とデジタル影響工作:「見えざる手」を可視化する
『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)
『フェイクニュース 戦略的戦争兵器』(角川新書)
『犯罪「事前」捜査』(角川新書)<政府機関が利用する民間企業製のスパイウェアについて解説。

出典

The Ultimate Election Year:All the Elections Around the World in 2024、https://time.com/6550920/world-elections-2024/

Democracy’s Super Bowl: 40 elections that will shape global politics in 2024、https://www.theguardian.com/world/2023/dec/17/democracys-super-bowl-40-elections-that-will-shape-global-politics-in-2024

2024 is the biggest election year in history But there is more to democracy than voting、https://www.economist.com/interactive/the-world-ahead/2023/11/13/2024-is-the-biggest-election-year-in-history

Opinion This isn’t just an election year. It’s the year of elections、
https://www.washingtonpost.com/opinions/2023/12/31/elections-world-presidents-legitimacy/

The global elections Washington should be watching in 2024、
https://www.politico.com/news/2024/01/01/what-to-watch-global-elections-2024-00133027

2024, the year of elections、https://blog.cloudflare.com/2024-the-year-of-elections

Votes around the world in 2024 will test Chinese diplomacy、
https://www.chathamhouse.org/publications/the-world-today/2023-12/votes-around-world-2024-will-test-chinese-diplomacy

2024 elections are ripe targets for foes of democracy、
https://www.npr.org/2023/12/29/1220087754/2024-elections-targets-foes-democracy-disinformation

Aggressive Malign Influence Threatens to Shape US 2024 Elections、
https://www.recordedfuture.com/aggressive-malign-influence-threatens-us-2024-elections

Democracy is in peril in the world’s bonanza year of elections、
https://www.politico.eu/article/democracy-2023-elections-united-states-europe-united-kingdom-russia-taiwan-donald-trump/

Previewing Taiwan's 2024 Presidential Election、
https://www.csis.org/analysis/previewing-taiwans-2024-presidential-election

Why Ukraine likely won't hold elections next year、https://kyivindependent.com/holding-elections-during-full-scale-war-doesnt-make-sense-experts-say/

Opinion: For Ukraine, elections can wait、
https://kyivindependent.com/opinion-for-ukraine-elections-can-wait/




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