2011年から2022年の127件の影響力活動を調査したプリンストン大学Online Political Influence Efforts Dataset
プリンストン大学が定期的に行っているデジタル影響工作に関する今年の結果をまだ書いていなかった。今回はV4だ。以前のものについての記事は末尾のURLに掲載した。
レポートは、Online Political Influence Efforts Dataset(https://esoc.princeton.edu/publications/trends-online-influence-efforts)でダウンロードできる。説明は昔のバージョンについてのものだが、ダウンロードすると最新の2023年のものになっている。
このプロジェクトはレポートというよりも、デジタル影響工作(このプロジェクトではOnline Political Influence Efforts)に関する公開資料を収集し、コード化してデータベースにしているものであって、レポートは収集したデータの要約となっている。このスタイルはV-Demなどのプロジェクトと同じく元データが公開されているので自分自身で解析することができる。
1,200以上のメディア報道と630以上の研究論文/レポートから、IE(influence efforts)を特定し、分析している。今回は2011年から2022年にかけて、62の対象国において93のFIE(海外に対するIE)と34のDIE(国内に対するIE)を特定した。
FIEの61%はロシアで、残りの大半を中国、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦が占めた。FIEの5件では、情報源からキャンペーンの出所を特定する十分な証拠が得られなかった。34件のDIEは32カ国で実施され、うち12カ国(40%)は民主主義国であった。このほか、166件の情報操作についても調査しているが、IEの基準をすべて満たしていなかった。IEの定義はいわゆるdisinformation、デジタル影響工作などとじゃっかん異なっているので気になる方は本編を参照していただきたい。定義の関係で他の類似の統計よりも少なめになっている。
●内容
・全体傾向
127件のIEのうち、26件が米国(28%)、22件が複数の国を同時に標的としていた(22%)。続いてイギリス6件(7%)、スペイン3件(3%)、オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、オランダ、南アフリカ各2件(各2%)、アルメニア、オーストリア、ベラルーシ、ブラジル、中央アフリカ共和国、コロンビア、フィンランド、イスラエル、イタリア、 リビア、リトアニア、マダガスカル、マケドニア、モザンビーク、フィリピン 、ポーランド、サウジアラビア、スーダン、スウェーデン、タイ、台湾、イエメン各1件(各1%)。
ロシアはFIEだけでなく、DIEでも実施数が多い。34件のうちロシアが2件、中国が2件であった。アゼルバイジャン、ブル キナファソ、コンゴ民主共和国、キューバ、エクアドル、エチオピア、グルジ ア、ホンジュラス、インドネシア、イラン、ヨルダン、韓国、メキシコ、マリ 、マルタ、ミャンマー、ニカラグア、パキスタン、フィリピン、プエルトリコ 、サウジアラビア、スーダン、タイ、タジキスタン、トルコ、ウガンダ、ベネ ズエラ、ベトナム、ジンバブエでそれぞれ1件。
FIEの68%は2015年から2018年の間にスタートした。DIEはより分散しているが、41%は2015年から2018年の間に始まった。FIEの攻撃は平均3.5年続き、DIEは4.4年続く。
今回の報告では、FIE実施国は、イランと米国(各1件)、中国(3件)、ロシア(7件)である。このバージョンでは、ロシアの作戦を大陸別に整理しているが、これは、内容にテーマ的な類似性(ヨーロッパなど)や言語的な類似性(ラテンアメリカなど)が見られるためである。
2022年にDIEを開始した国は、コンゴ、ギニアビサウ、マリとなっている。
前回と同様、ロシアが開始したFIEは2017年に35件でピークに達した。新たなキャンペーンの開始も、2017年に19件の新たなFIEと6件の新たなDIEで世界的にピークに達した。
・アクター
IEの実行に関与した主要なアクターは、民間企業(FIEでは54%、DIEでは24%)、メディア(FIEでは40%、DIEでは26%)、政府(FIEでは34%、DIEでは68%)、情報機関または軍事機関(FIEでは28%、DIEでは50% )である。
各アクターが関与するFIEの相対的なシェアは2015年以降安定しているが、2019年には企業と政府の関与が穏やかに上昇した。民間企業が関与するFIEのシェアは大幅に減少し、政府関係者が関与するDIEのシェアは2017年までに約82%まで増加した。
・手法
レポート3.0と同様、最も一般的な手法は「Persuasion」で、一般市民 をある問題の一方の側に引き込もうとするものと定義されており、FIEの78%、DIEの94%で使用されている。「Defamation」は、人々の評判を傷つける試みと定義され、FIEの75%、DIEの91%で使用されている。さらに、「Polarization」を用いるFIEはわずか12% で、DIEはこの戦略を用いていない(図3.2参照)
組み合わせでは、「Defame」と「Persuasion」(FIEの79%、DIEの94%)が最もよく使われる組み合わせで、「Undermine institutions」させ、「Shift the political agenda」(FIEの50% 、DIEの33%)がそれに続く。
FIEの約60%は、コンテンツの増幅、作成、歪曲という3つの手法を行っており、DIEの65%も同様である。FIEの89%、DIEの94%が、オリジナル・コンテンツの作成を使用している。
FIEは91%、DIEは88%が既存の内容を増幅し、FIEは73%、DIEは70%が客観的に検 証可能な事実を歪曲している。
ボットを使用しているIEの割合は2014年以降、ほぼ安定している。80%のFIEが偽アカウントを、94%のDIEが偽アカウントを使用しており、この数字は2014年以来安定している。FIE(47%)とDIE(41%)の約半数がボットを使用している。
ツイッター(現、X)とフェイスブックは、FIE(82%と87%)とDIE(94%と68%)で最もよく使われているプラットフォームである。ただし、2つのプラットフォームには透明性があるためとも考えられる(なお、イーロンマスク買収以降は透明性は?なので来年はわからない)。
2014年以降、インスタグラムは全IEで、ユーチューブはFIEで利用される割合が増加している。
・コロナ偽情報
2022年、ロシアに関連した活動が、米国やシリアなど複数の国に対してCOVID- 19偽情報を広めるようにシフトしていた。
パンデミック(世界的大流行)に関する偽情報を利用し、国内の分裂をさらに助長するために、米国をターゲットにした他の3つの影響力活動が行われた。まず、IRAやクレムリンとのつながりが疑われるマーケティング会社Fazzeとつながりのあるネットワークが、アメリカでのワクチン接種に関する偽情報を増幅させ、アメリカ国民に恐怖を広め、分極化させた。こ れらのネットワークは、Gab、Parler、Facebook、Instagram、極右フォーラムでミームや反ワクチン陰謀論を共有した。
イラン革命防衛隊とつながりのある、International Union of Virtual Mediaが、米国政府を中傷するために、パンデミック関連の陰謀論の偽ニュースサイトを作成した。
さらに、インターネット・マーケティング会社で中国政府が関与しているOneSight Technology Ltd.とリンクしたネットワークは、パンデミックに対す る中国の対応を称賛するコンテンツを作成し、広めた。このネットワークはまた、米国の対応を批判し、党派的な議論を煽るために、中国系アメリカ人に対する外国人嫌悪的な攻撃に注意を喚起した。他のアカウントは、世界保健機関(WHO)における西側の 影響力が、ウイルスの起源に関する調査を妨害し、代わりに不当に中国をパン デミックのせいにしたと主張した。
・ロシアのウクライナ侵攻
ロシアがウクライナに侵攻した後、偽のツイッター・アカウントが、親ロシアのハッシュタグを広めて、海外の利用者に影響を与えようとした。西側諸国政府を偽善者とし、ウクライナ侵攻への対応をソマリア、イラク、アフガニスタン、シリアといった国々への侵攻を正当化した理由と比較するナラティブも含まれていた。
また、ポーランド政府が西ウクライナへの侵攻に関心を寄せていると描くことで、ポーランドとウクライナの関係を弱体化させることも試みた。
ラテンアメリカでは、ロシアのプロパガンダメディア(スプートニクやRTなど)が、歪曲されたシナリオを掲載することで侵略を正当化しようとした。
・新しい手法 ファクトチェックを装った攻撃
偽情報を発信するためのファクトチェックサイトが複数誕生した。著名なのは、る「War on Fakes」である。
関連記事
2011年から2021年の114件の影響力活動を調査したプリンストン大学Online Political Influence Efforts Dataset
30カ国96件の影響力行使をまとめたプリンストン大学の「Trends in Online Influence Efforts」
好評発売中!
ネット世論操作とデジタル影響工作:「見えざる手」を可視化する
『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)
『フェイクニュース 戦略的戦争兵器』(角川新書)
『犯罪「事前」捜査』(角川新書)<政府機関が利用する民間企業製のスパイウェアについて解説。
本noteではサポートを受け付けております。よろしくお願いいたします。