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20カ国33の選挙に介入していたイスラエルのTeam Jorge


イスラエルには情報戦、デジタル影響工作を請け負う会社がいくつもあるが、実態はあまり知られていない。フランスの調査報道のコンソーシアムである Forbidden StoriesがGuardian、Le Monde、Der Spiegelなど20のメディアで行った「Story Killers」というプロジェクトで、イスラエルのTeam Jorgeの実態を暴き、2023年2月に公開した。情報の多くは潜入捜査によるもので、The Marker、Radio France)、Haaretzの記者が行った。


●Team Jorgeとはなにか?

Tal Hananが率いる情報戦、デジタル影響工作を請け負う会社であり、Team Jorgeという名前で活動をしている。イスラエルのモディインに拠点を持っている。メンバーには、元上級情報将校や金融情報、心理戦の専門家がおり、イスラエルのShabak(国家保安局)に勤務している者が確認されている。
イギリス、アメリカ、カナダ、ドイツ、スイス、ギリシャ、パナマ、セネガル、メキシコ、モロッコ、インド、アラブ首長国連邦、ジンバブエ、ベラルーシ、エクアドルなど約20カ国の選挙などに干渉していた。選挙に関連した33の作戦を実行し、27で成功を収めている。作戦の3分2はアフリカだが、作戦活動は全世界に広がっている。

選挙への干渉では、600万ユーロ(約9億5千万円)から1,500万ユーロ(約23億7千万円)を請求と言っているが、2015年、ケンブリッジ・アナリティカから依頼されたラテンアメリカ諸国での8週間の作戦では16万ドル(約2,400万円)だった。支払いは暗号通貨なども含め、柔軟に受け付けている。
ハッキング、脅迫資料の偽造、偽情報の拡散、偽情報の植え付け、物理的な選挙妨害、標的を絞ったソーシャルメディア・キャンペーンの展開などが作戦には含まれる。政府高官のTelegramやGmailアカウントをハッキングして情報を盗み出すことも行っている。TelegramやGmailアカウントのハッキングではSS7脆弱性が利用された。SS7は電話番号だけわかれば、通話とSMSの盗聴が可能な脆弱性。スマホ本体にはなにも仕込む必要がないので全く気づかれない。理論上は二要素認証を容易に突破できる。
SS7についてはこちら(https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2021/02/post-18.php)。SS7脆弱性については同じイスラエルでSS7を狙ったサービスを提供している事業者のサービスを利用したのかもしれない。
ケンブリッジ・アナリティカのスキャンダルの際、同社がナイジェリアの選挙に干渉した際に敵陣営の木持つ書類を「イスラエルの業者」から入手していたことが暴かれたが、その業者の名前は特定されていなかった。今回の「StoryKillers」の調査によって、Team Jorgeが実行したことがわかった。

●ネット世論操作システムAims

Team Jorgeは「Advanced Impact Media Solutions(Aims)」ネット世論操作のシステムを販売している。Twitter、LinkedIn、Facebook、Telegram、Gmail、Instagram、YouTube上の3万の偽ソーシャルメディア・プロフィールのアカウントをコントロールしている。一部のアバターは、クレジットカード、ビットコインウォレット、Airbnbアカウントを持つアマゾンのアカウントも持っている。詳細は不明だが、人間の行動を模倣しており、人工知能が投稿を行っている。

●日本にも干渉

Aimsにはさまざまな国籍と言語を持つアバターがあり、ロシア語、スペイン語、フランス語、日本語などのナラティブをプッシュしていた。日本政府あるいは日本をターゲットとした作戦で利用された可能性がある。

●さまざまな同業者と連携

Team Jorgeなどの請負業者はさまざまな同業者と連携しており、その取り引きは関与を隠すために意図的に難読化されている。前述のケンブリッジ・アナリティカはごく一部の例にすぎない。世界にはそれだけ多数の同業者がいるとも言える。

●なぜアメリカや日本では報道されないのか?

今回のForbidden Storiesの「Story Killers」は、志半ばで命を失ったジャーナリストの遺志を継いで始まったプロジェクトだ。Team Jorgeだけではなく、偽情報やスパイウェアなどの調査報道も行っている。アメリカのWashington Postも参加している。
Team Jorgeの調査報道にはフランスのがGuardian、Le Monde、Der Spiegelなど20のメディア、30の報道機関、100人以上のジャーナリストが参加していた。

しかし、アメリカではほとんど報道されていない。アメリカの主要紙を通して国際世論を認識している日本のメディアにも当然取り上げられていない。
はっきりした理由はわからないが、イスラエルに対する忖度が関係しているのかもしれない。報道を控えるというよりは、慎重に内容を吟味しなければなにかあった時に対処できないという懸念だ。たとえば以前書いたようにインドのネット世論操作についてはMetaも研究者たちもインド政府の関与については「確認できなかった」と強調する、インドの企業や団体が関係しているにもかかわらず。
今回、MetaはTeam Jorge関連のアカウントをテイクダウンしたが、Team Jorgeについては言及しなかった。これはインドのアカウントをテイクダウンしてもテイクダウンの事実を公表しなかった対応に似ている。
アメリカ中央軍は以前イスラエルのネット世論操作企業に依頼をして大失敗した前例がある(https://note.com/ichi_twnovel/n/n7cccf708c246)。その時、Metaとツイッターは何度も軍に自分たちが発見したことを知らせていた。見えないところでこうした忖度があり、Metaが公開せず、口をつぐんでいれば報道機関も確証は取れないことも多いだろう。

●インドでの強い反応

インド国内でネット世論操作がさかんに行われていることはすでに紹介した(https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2023/10/post-51.php)。記事でとりあげた以外にイスラエルの悪名高いスパイウェアPegasusやケンブリッジ・アナリティカとの取り引きの疑惑もあり、今回の報道でインドで介入があったと書かれていた以上、インドの与党であるBJPが仕掛けていた可能性が指摘されるのは当然だ。
日本にも干渉があった可能性が高いにもかかわらず、こうした指摘を誰もしないのはやはり忖度なのだろう。

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『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)
『フェイクニュース 戦略的戦争兵器』(角川新書)
『犯罪「事前」捜査』(角川新書)<政府機関が利用する民間企業製のスパイウェアについて解説。

出典

Story Killers
https://forbiddenstories.org/case/story-killers/?itid=lk_inline_enhanced-template

Revealed: the hacking and disinformation team meddling in elections、https://www.theguardian.com/world/2023/feb/15/revealed-disinformation-team-jorge-claim-meddling-elections-tal-hanan

Hacks, Bots and Blackmail: How Secret Cyber Mercenaries Disrupt Elections、https://www.occrp.org/en/storykillers/hacks-bots-and-blackmail-how-secret-cyber-mercenaries-disrupt-elections

Commercial Disinformation、https://www.isdglobal.org/explainers/commercial-disinformation-product-service/

'Team Jorge' ― how disinformation threatens democracy、https://www.dw.com/en/team-jorge-investigation-raises-concerns-about-threat-to-democracy/a-64708627

#StoryKillers : A deep dive into 'Team Jorge', the disinformation mercenaries operating worldwide
February 15, 2023
https://www.lemonde.fr/en/pixels/article/2023/02/15/storykillers-a-deep-dive-into-team-jorge-the-disinformation-mercenaries-operating-worldwide_6015839_13.html

ow undercover reporters caught ‘Team Jorge’ disinformation operatives on camera、https://www.theguardian.com/world/2023/feb/15/disinformation-hacking-operative-team-jorge-tal-hanan

‘Aims’: the software for hire that can control 30,000 fake online profiles、https://www.theguardian.com/world/2023/feb/15/aims-software-avatars-team-jorge-disinformation-fake-profiles

French broadcaster BFMTV suspends presenter amid disinformation scandal、https://www.theguardian.com/world/2023/feb/15/french-broadcaster-bfmtv-suspends-presenter-disinformation-scandal-rachid-mbarki

Political aides hacked by ‘Team Jorge’ in run-up to Kenyan election、https://www.theguardian.com/world/2023/feb/15/political-aides-hacked-by-team-jorge-in-run-up-to-kenyan-election

Dark arts of politics: how ‘Team Jorge’ and Cambridge Analytica meddled in Nigerian election、https://www.theguardian.com/world/2023/feb/16/team-jorge-and-cambridge-analytica-meddled-in-nigeria-election-emails-reveal

These women journalists were doing their jobs. That made them targets、https://www.washingtonpost.com/investigations/2023/02/14/women-journalists-global-violence/

Congress Demands Probe Into Whether 'Team Jorge' Operates in India、https://thewire.in/politics/congress-demands-probe-into-whether-team-gorge-operates-in-india

Congress calls out Team Jorge ‘mirror image’、https://www.telegraphindia.com/india/congress-calls-out-team-jorge-mirror-image/cid/1917049

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