The Markupのフェイスブック監視アプリCitizen Browserが暴いた実態

昨年の内部告発=Facebook Papersによって、フェイスブックのさまざまな問題が暴露された。The Markup(https://themarkup.org)は独自のCitizen Browserによってフェイスブックの実態に迫った。The Markupは、すべての記事をクリエイティブコモンズにのっとって公開するデータジャーナリズムメディアである。

フェイスブックのコンテンツ管理態勢に問題があることは内部告発前から指摘されてきた。以前、ニューズウィークの記事で取り上げたこともある(https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2021/09/post-28.php)。その記事の直後にフランシス・ハウゲン氏の内部告発をメディアがコンソーシアムを組織して「Facebook Papers」取り上げたことで世界を揺るがすスキャンダルとなった。これについては別記事「フェイスブック・ペーパーの衝撃」(https://note.com/ichi_twnovel/n/n20ffab281ac1)にまとめている。

The Markupも以前からフェイスブックを始めとする企業の問題を取り上げてきた。Citizen Browser(https://themarkup.org/series/citizen-browser)はその中のひとつのプロジェクトだ。The Markup謹製のアプリでフェイスブックにアクセスした際に表示された内容がThe Markupに送信され、解析される。The MarkupはCitizen Browserの利用者の性別、人種、居住地、年齢、政治的傾向、教育レベルなどの属性をあらかじめ把握しているので、フェイスブックがどのような属性の利用者に、どんなタイミングでなにを仕掛けているかがわかる。

アメリカ48州からパネルを募ったが、残念なことにヒスパニック系およびラテン系は目標の数に届かなかった。くわしいパネルの内容や方法論については、「How We Built a Facebook Inspector」(https://themarkup.org/citizen-browser/2021/01/05/how-we-built-a-facebook-inspector)にくわしい。

いわば新しいタイプのパネル調査であり、リアルタイムの定点観測とも言える。フェイスブック全体の利用者数からすると、微々たる数でしかないが、あってはならないものを見つけるには充分である。たとえば、下記のようなことが発見されている。

医療機関や製薬会社はフェイスブックに年間1千億円以上(10億ドル)の広告を出稿している。その理由は有効な利用者のカテゴリーに対してリーチできるからだ。直接利用者の病歴を利用することはないが、閲覧履歴やいいね!やフォロー関係などから、どのような病気が気になっているかがわかるのである。倫理的に問題であると同時にターゲットになった利用者が病気に羅患あるいはその疑いがあると誤解される危険をはらんでいる。
「How Big Pharma Finds Sick Users on Facebook」(https://themarkup.org/citizen-browser/2021/05/06/how-big-pharma-finds-sick-users-on-facebook)

・フェイスブックCEOのザッカーバーグは繰り返し、政治団体のフェイスブックグループを利用者に推奨しないと言っていたが、実際には何度も推奨していた。その中には暴力行為を勧めるものやフェイスブック自らが問題ありとしていたものの含まれていた。また、トランプ支持者に対して、特に推奨が多かったこともわかった。
「After Repeatedly Promising Not to, Facebook Keeps Recommending Political Groups to Its Users」(https://themarkup.org/citizen-browser/2021/06/24/after-repeatedly-promising-not-to-facebook-keeps-recommending-political-groups-to-its-users)

「Facebook Said It Would Stop Pushing Users to Join Partisan Political Groups. It Didn’t」(https://themarkup.org/citizen-browser/2021/01/19/facebook-said-it-would-stop-pushing-users-to-join-partisan-political-groups-it-didnt)

・フェイスブックは透明性を高めるために、アクセスの多かったコンテンツのレポート「Widely Viewed Content Report: What People See on Facebook」(https://transparency.fb.com/ja-jp/data/widely-viewed-content-report/)を公開している。しかし、このレポートではリーチのみを取り上げており、インプレッションは考慮していない。その結果、「Widely viewed domains」の上位の多くはよく知られたサイトに占められている。しかし、ここでは頻度は無視されている。ひとりの利用者がそのドメインに1回アクセスしても、千回アクセスしても1とカウントされる。そこで、Citizen Browserのデータを元にインプレッションを推定したところ、いろいろ問題ある保守系のサイトdailywire.comやWesternjournal.comが上位に食い込んだ。フェイスブックは意図的に右翼サイトに人気があることを隠そうとした疑いがある。統計的な処理についてもくわしく解説されている。
「How We Investigated Facebook’s Most Popular Content」(https://themarkup.org/show-your-work/2021/11/18/how-we-investigated-facebooks-most-popular-content)
「Facebook Isn’t Telling You How Popular Right-Wing Content Is on the Platform」(https://themarkup.org/citizen-browser/2021/11/18/facebook-isnt-telling-you-how-popular-right-wing-content-is-on-the-platform)

・2021年1月の暴動の後でバイデン支持者とトランプ支持者に、それぞれ全く異なるニュースを表示していた。
「Biden and Trump Voters Were Exposed to Radically Different Coverage of the Capitol Riot on Facebook」(https://themarkup.org/citizen-browser/2021/01/14/biden-and-trump-voters-were-exposed-to-radically-different-coverage-of-the-capitol-riot-on-facebook)

性別、世代、バイデン支持かトランプ支持かなど属性の違いによってフェイスブックで表示されるニュース大きく異なることが確認された。
「How Different Are Americans’ Facebook Feeds?」(https://themarkup.org/citizen-browser/2021/03/11/split-screen?feed=biden_trump)

上記は一部にすぎない。この他にもコロナ関連、アメリカ以外の国の組織の利用(ドイツのAfDなど)、右派メディアがフェイスブックで急速に拡大した理由などをCitizen Browserで解き明かしている。

日本ではSNSのデータ分析は広まっていないが、単にSNSのデータを集めて利用するだけでは「街頭の下で鍵を探す」(https://note.com/ichi_twnovel/n/nbbcece237e7c)ことになるリスクがある。Citizen Browserのような目的を絞った新しい方法論でアプローチするのも有用と思った。


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