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トランプ2.0がもたらす暴力と紛争の時代
日本ではいまでも「選挙によって権威主義的政治家が選ばれて民主主義が後退し、権威主義国に近づく」といった発言を時々見ることがある。2021年を境に世界は選挙による現状変化よりも暴力や紛争による現状変更が増加してきた。これは代表的な民主主義指数であるV-DemのレポートやACLEDでも指摘されていた。実際、2021年1月6日に起きた米国連邦議事堂襲撃事件、ミャンマーのクーデター、ロシアのウクライナ侵攻などが起きた。
●ACLED Clionadh Raleighによる予言
2024年11月13日にACLEDに掲載されたClionadh Raleighによる予言とも言える記事( https://acleddata.com/2024/11/13/the-raleigh-report-november-2024/ )は、これをさらに具体的にしたものだ。そこではトランプ2.0によってもたらされる3つの未来が示されている。
国際的には「力こそ正義」が指針となる
世界中の国家と指導者は人権についてほとんど考慮しないようになる。これまで人権などの民主主義的価値を支えてきた米国と国連はもはやその役割を果たせなくなっている。その結果、紛争発生率は2020年以降に約2倍となり、過去1年だけで22%増加した。今後も前年比14%以上の増加が続く。
米国は紛争を無視するか、自国の利益と一致する紛争当事者を支援するかのいずれかになり、いくつかの新たな紛争につながる可能性がある。
非民主主義国家におけるエリート間の紛争の増加
「非民主主義国家」や「疑似民主主義国家」がさらに増え、紛争も増加する。こうした国家には、民主主義的な特徴(例えば選挙)を持っているが、政治的暴力は多い。多くの政権は、内部のエリート層が互いに権力を争い始めるまでは、主に公的な弾圧によって安定を保っている。
エリート間の紛争は、選挙での暴力行為、政治的暗殺の増加、クーデター未遂や成功の増加という形で起こる。この種の暴力はすでに進行中であるが、「非民主主義国家」の増加に伴い、ギャングや民兵の数は今後も増え続けるだろう。
戦争 vs. 福祉
紛争にはイデオロギー上のアジェンダは存在しなくなる。イデオロギーや不満、理念が紛争の決定的な原因となることはない。アジェンダが存在しないことで、戦いは暴力の優劣で決まる。理念など大義から解放された勢力は、「福祉」よりも「戦争」に焦点を絞ることになる。集団が互いにどれだけの暴力を生み出せるかを競い合っている場合、3つのことに焦点を当てる傾向がある。
1.一般市民のような脆弱な標的を攻撃する。住民を恐怖に陥れ、悪名を馳せるための戦略として行う。
2.勢力拡大のためにインフラを攻撃し、支配下に置く。密輸や恐喝などの資金調達手段を確保し、支配下に置く。
3.敵対者を殺害したり、その地位を乗っ取ったりして、その地域のリスクを一掃する。
最近の選挙は、例えばエリート、高学歴、女性、および/または外国人に対する嫌悪感や不信感をはっきりと示す人々にとって、ポジティブな結果をもたらすことが多い。
●感想
現在、実態としてアジェンダのない紛争が主流となっていることは、その通りだと思う。ただ、いまだに表向き大義をかざすことは多い。しかし、ウクライナ戦争、ガザなどによって、民主主義国の大義が上っ面に過ぎないことがわかった。そして、民主主義国の多くでは極右や陰謀論者などが増加し、社会的影響力を持ち、政治的力を持つようになっている。Clionadh Raleighが予言したような事態になるのは時間の問題のように思える。
選挙で、エリート、高学歴、女性、および/または外国人に対する嫌悪感や不信感をはっきりと示す人々が優位に立つということは日本でも見られるようになってきた。日本にClionadh Raleighが予言した未来がやってくるのも遠いことではなさそうだ。
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