官公庁とメディアは、SNSを見習って透明性レポートとデータアクセスを提供すべきだ
官公庁とメディアはことあるごとにSNSを偽・誤情報問題の元凶として批判するし、マルチステークホルダーとしての協力を要請する。しかし、その一方で自分たちの透明性を改善する努力はしていないように見える。
●ウェビナー「『官製ファクトチェック』の出現を危惧する」で感じたこと
昨日、登壇した「『官製ファクトチェック』の出現を危惧する」では、テーマ通りに官公庁の透明性の問題の指摘にもガンガン話が出た。大手メディアがおよび腰という話なんかも出た。
もともと私自身は「『官製ファクトチェック』の出現を危惧する」というテーマにはあまりピンと来ていなかった。なぜなら、そもそも偽・誤情報対策そのものがリスクなのだから、官だろうが民だろうが、程度の差こそあれ、もっと基本から見直さないとダメだろうと考えていたからだ。
余談だが、ひとり5分という限られた時間での発表だったので、そもそもシンポジウムとして成り立つのかという危惧もあった。ウェビナーが始まる前に、ZOOMのQ&Aの使い方の確認をしたりしていたので、「この人たち大丈夫なのかな?」とさらに不安になった。しかし、終わってみると、視聴していらした曽我部先生を始めとする関係者の方々が登壇して質問に答えてくれるなど、予想外に勉強になった。出てよかったと思った。他の方にとって、私が登壇する意味はあまりなかったような気もするが。
ただ、非常に残念なことが2つあった。ひとつは、偽・誤情報対策をやる前提で、配慮や工夫を求める意見が多いように感じたこと。そもそも現在の偽・誤情報対策はろくなものがないので、根本的な見直しが必要だと思っているので、ここは不満。
次に、新しい提案がなかったこと。時間的に無理だったとは思うが、いまどきの「抗議の声をあげる中高年」というのはもっとも共感を呼びにくいと思うので、斬新な提案があるとよかった。提案が世に出ただけで、見た人のヒントになり、次に結びつくようなものがいい。
●官公庁とメディアは透明性レポートと、ツールを公開すべき
実は私は登壇者として提案も持っていたが、持ち時間5分と聞いてあきらめていた。せっかくなので、ここに書いておく。斬新とは言えないが、見た人が考えるきっかけになればよいとうれしい。昨日のウェビナーでは、透明性の向上ということが繰り返し強調されていた。私も言った。
1.SNSプラットフォームが行っている透明性向上策を、官公庁とメディアも行う
SNSプラットフォームの大手は、四半期に1回透明性レポートを公開していたりする。官公庁とメディアもやってほしい。具体的には下記のような項目があるとよい。
ファクトチェック報奨金はサイバーセキュリティの報奨金プログラムのようなもので、自社の記事についてファクトチェックされ、元記事を修正した場合に、報奨金を支払う。ファクトチェック団体からXのコミュニティノートまで広く対象にするとよいと思う。ヘタ打った記事を書いて、それを教えてもらったのだからお礼をして当然。ファクトチェックって、いまひとつぱっとしないが、バウンティ・ハンター化したら人気出るかも。
・情報入手元
購入(通信社からのライセンス)、記者クラブ、取材(官公庁、民間企業、個人)などカテゴリ別でよいので情報入手元の統計。
・情報提供先
官公庁、警察、民間企業など、情報を提供した先の統計。
・記事の修正、削除
ジャンル別の件数、修正の内容、修正の理由の統計。
・訴訟
訴えられたものと、訴えたもの。ジャンル別の件数、民事件数、刑事件数。
・記事
総記事数、ジャンル別記事数。
全ての記事をテキストマイニングし、記事の傾向を可視化、感情分析を行う。
(理念や方針をデータから検証する)
・広告、PR
広告収入と件数、カテゴリー別広告収入、件数。
・購読者
メディア別購読者数、地域別購読者数
・クレーム
全体およびジャンル別件数、メディア(電話、メール、問合せフォームなど)。
・ファクトチェックへの対応
民間ファクトチェックへの対応。
Xのコミュニティノートへの対応。
その他のファクトチェックへの対応。
・ファクトチェック報奨金の実施状況
支払総額と件数、支払った記事のジャンル別統計。
2.SNSプラットフォームが透明性向上のためのデータアクセスを官公庁とメディアも行う
SNSプラットフォームは生のデータや広告主に関するデータへのアクセスを解放している企業がある。
官公庁とメディアも解放すべきだと思う。
API経由でダイレクトにデータを扱える(XのAPIとか)と、簡便なツール(Metaのツールとか)で手軽に集計や分析ができるものでもよい。
透明性レポートに盛り込んだ内容のメタデータを全部使えるとよい。読者は自分で手で直接確認することができる。
これくらいやってもらうと、すごく透明性あがると思う。
ついでに言うと、あらゆる企業がやってくれるといい。やらなくてもいいけど、その場合は信頼が落ちるようになるといいなあ。
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偽・誤情報に関連して事件が起きた際、初動でどこも同じパターンで反応しているなど、気になる点をお話しします。
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