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偽・誤情報研究の現在を識者が整理してくれた

偽・誤情報は、学問の自由、選挙、精神的健康などさまざまな課題に直面している。そのため、前回のnoteのような混乱も見られるものの、見直しを行うよい機会ととらえている識者も多い。

この論考「Misinformed about misinformation: On the polarizing discourse on misinformation and its consequences for the field The field of mis」は( https://doi.org/10.37016/mr-2020-159 )は偽・誤情報研究が置かれている状況と今後進むべき方向を考えるうえで大変参考になる。


●背景

過去10年間、政策関係者、政治家、学術機関、非営利団体、メディアの中で偽・誤情報は莫大なリソースをつぎ込んだテーマになってきた(日本は違うけど)。しかし、いまだに偽・誤情報の影響など基本的な問題への回答ははるかに遠いと感じている研究者も少なくない(日本では「偽・誤情報は大問題、以上」で議論すらない)。

研究者、ジャーナリスト、学術機関が偽・誤情報の問題を取り上げただけでバッシングされ、国によっては処罰の対象になっている。2016年以降、120人以上のジャーナリストが逮捕、投獄されているのは有名だ。近年、アメリカの研究の後退もよい例だ。アメリカをのぞくと、グローバルサウスでこの傾向は強い。

●現在にいたるまでの状況

これまで偽・誤情報の研究は大きく4つの難題に直面してきた。

1.偽・誤情報は高度に政治的な問題という側面がある。研究者は政治とは離れた立場で研究を行おうとしているが、そこには強いプレッシャーがかかる。
2.調査研究のためには、SNSプラットフォームへのデータアクセスが必要だが、それが限られている
3.問題が複雑であり、因果関係を証明することが難しい。
4.偽・誤情報に関する研究は主として英語圏のグローバルノースにおいて、選挙などへの影響に焦点をあてて行われることが多かった。しかし、公衆衛生や社会の安定性など広い分野に影響を与える可能性もある。

●今後について

直面している困難のうちデータへのアクセス、政治的問題や経済的問題への対処は難しい。しかし、方法論の課題には対処できる。具体的には下記。

  1. 特定の研究で扱われた誤情報の具体的な内容と、その調査結果が他のコンテンツやプロ セ スにど程度当てはまるか(または当てはまらないか)を明確にしする
     偽・誤情報の定義を明確することは簡単であり、重要なことで、定義が異なれば結果も異なる。いまのところ、偽・誤情報の共通定義はない。

  2. 技術決定論的な過度な一般化を避けるために、社会技術的メカニズムについて具体的に掘り下げる。
    フィルターバブル、エコーチェンバー、アルゴリズムによる誘導や増幅、ラビットホーリングなど技術決定論的な議論が多いが、実際には利用者の特性や社会的文脈によっても変わってくる。

  3. 研究者が定義する動機となる認識論的仮定について透明性を保つ
    コミュニティによって世界観は異なり、偽・誤情報に対する耐性も異なってくる。コミュニティに深く入り込まなければ、それを理解することはできない。たとえばグローバルノースに住むグローバルサウスのディアスポラたちのコミュニティの世界観、価値感を理解しなければコミュニティ内のさまざまナラティブに潜む偽・誤情報を峻別できない。

偽・誤情報においては、コミュニティの世界観で情報の証拠能力についての社会技術的メカニズムを解明することに焦点を当てるべきである。ある文脈において事実とされ、別な文脈では事実とみなされない理由を解明すべきだ。多くの研究はそうしてきたと考えられるが、明示的にこう述べた研究はほとんどない。
研究者は、より自省的かつ透明性を持つべきである。 偽・誤情報の概念そのものが、私たちが認識論的状況を扱っていることを前提として成立している。そのため、研究者が真実であると信じていることと、その理由を明示することは、より生産的な議論のための重要な前提となる。

●留意すべき問いかけ

偽・誤情報の研究に当たって、留意すべき問いかけは、「SNSは民主主義の脅威なのか?」といった曖昧模糊としたものではなく、次のようなものである。

・調査対象の文脈において偽・誤情報とみなされるものはなにか?
・偽・誤情報を受け取るリスクが高いコミュニティや個人は?
・調査対象のコミュニティや個人が高いリスクにさらされるのはなぜか?
・調査対象のインターネットの習慣、実践、メディア摂取についてわかっていることは?
・調査対象のコミュニティで専門家とみなされるのは誰か?
・調査対象の文脈で情報の解釈を導くナラティブは何か?
・ナラティブはどこから来たのか? トップダウンなのか? 参加型で共同で作られたのか?
・ナラティブは、オンラインとオフラインでの出来事をどのように結びつけて解釈しているのか?
・調査対象のコミュニティや個人は、どのようなスキルやツールで駆使してコミュニティをサポートしているのか?
・ファクトチェック、プレバンキング、メディアリテラシーなどの対策は、偽・誤情報をどう解決できるのか?

●感想

ここのところ見直しと、その反論をよく目にしていたので、この論考はよい頭の整理になった。
偽・誤情報研究は政治的でほとんど定義のない言葉によって形作られている側面もある。たとえば、「偽・誤情報は民主主義の脅威」といった中身のない言葉で危機感を煽って官公庁に予算をばらまくのもそのひとつだ。
言葉の定義、実態、目標が定まっていないし、共有されていないうえ、成否の評価すらできない。「なにかをやった」事実は残るだけだが、それこそが目当てなのかもしれない。
ちなみにこの論考はCITIZEN LABやオクスフォードで偽・誤情報の調査研究に携わってきたメンバーが執筆している。

いまどき、真偽判定に重きをおいたアプローチをとっているのは一部の党派的な政治家と、権威主義国家と日本くらいだと思うんだけど、そうでもないのかな。どこかにたくさんいるのかな?

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