見出し画像

お客さんの怠慢が洋服屋を育てる

2024/11/20(水) AM9:19記 

いつもの店舗に電車で向かう日曜。

晴れてはいたが,朝の寒さに鋭さが見え隠れするようになってきましたね。

そろそろ,クローゼットからコートやダウンを引っ張り出そうかとお考えの方も,いらっしゃるのではないでしょうか。


今回は,コートの手入れに纏わるお話。

私が一通り店内の清掃を終えた頃,店舗管理者の女性社員,平たく言えば店長が出勤してきた。

バックヤードに保管されていたウールのコートを持ち出して,こう切り出した。

「〇〇さん(私)にお願いが〜」

どうやらお客さんからお預かりしたコートの毛玉を除去して欲しいということらしい。

「T字カミソリはお持ちですか?」

私がそう返すと,店長はカミソリを探しに川へ洗濯へ。

店長が不在の間,こう思った。

そのくらいの手入れはお客さん自身にやらせた方が良いと。

後々聞けば購入したのは一年前で,そこまで着用していないとのことだが,日頃のケアや保管を怠っているだけなのでは?という猜疑心は拭えない。

持ち込んだお客さんから直接状況をお聞きした訳ではないので,言いがかりかもしれないが。

引き受けて良いお直しの範囲に明確な基準もないので,匙加減が難しいところだが洋服を愛でる気持ちがあるかないか,此れが1つのボーダーだと考える。

定量的な指標ではないので曖昧ですが。

何でもかんでも親切にすれば良い訳ではない。

洋服の色々な楽しみ方を広めることも我々の仕事。
日頃のお手入れを楽しめないようなら,ハナから買うべきではないとさえ思う。

ご贔屓にしてくださっている顧客だろうが,一見さんだろうが関係ない。

ブラシやスチーマー,毛玉取り用のバリカン,簡易な裁縫道具くらいは所有しておいて欲しい。

というか我々も洋服屋ならケア用品を販売すべきだ。

性格の悪い私の胸中に上記のようなことが巡っていた途中で,店長が川から戻ってきた。

どうやらカミソリはなかったようだ。

メーカさんに問い合わせても風合いとの回答だったらしく,地道に糸切り鋏で毛玉を取り除く店長。

「それくらい自分でやれと思いますけどね。」

冷酷無比な発言をしたせいか,私には頼めないと踏んだのだろう。

本当に慈悲深いお人である。

まぁ仕上げくらいは引き受けようと,接客の合間にスチームをかけていた。

確かに毛玉ができやすそうな生地。

ウール100%なのかな。

疑問に思い,素材表記のタグを確認。

すると,WOOLの他にFLAXという文字が。

恥ずかしながら見慣れない表記。

調べるとFLAX=亜麻らしい。

リネンでなはいのか?

深掘りすると,本来は亜麻を意味する言葉がFLAXらしい。

フラックスから紡績された糸や織物などの加工品が,リネンということのようだ。

因みに,日本で麻と表記ができるのは亜麻(リネン)と苧麻(ラミー)の2種類で,大麻(ヘンプ)や黄麻(ジュート)などは植物繊維と表記される。

これは知っていたが,FLAX表記を用いる理由が何かしらあるのだろう。

スライバー(糸になる前の繊維の束)の状態で,ウールと混紡させているためなのか。

毛羽や毛玉が出来やすい原因も,そこにあるのかもしれない。

真実には辿り着けず終いだったが,とても勉強になった。

結局,店長の優しさ,ひいてはお客さんの怠慢に育てられた日となりました。


以上,洋服を楽しむために知識を得ようとする人が増えますように。

いいなと思ったら応援しよう!