ボイスドラマ視聴紀行 #27
今回ご紹介するのは、DCC-Projectさん制作の『ビジュアルボイスドラマ「IO イオの制裁」』です。
なお、本作は将軍 役でご出演の狸田太一さんのポートフェリオから聴取させていただきました。
本編は約40分の長編ボイスドラマになっています。
本作は映像演出がとても豊富ですので、視聴スタイルでお楽しみいただくのがいいかと思います。
例によって、私はたまに動画をチラ見する程度の聴取スタイルでしたが、聴取のみでもバッチリ聞けちゃう高いクオリティーを持った作品ですので、聴取しかできない方にもお楽しみいただけますよ!
DCC-Projectさんは、ビジュアルボイスドラマだけでなく、RPGツクールにてゲーム制作も手掛けられておられます。本当に幅広く活動されてますので、ご興味のある方はリンクを辿ってご閲覧いただけると幸いです。
とにかくゲームが大好きな方には一度ご覧いただきたいサイトとなっております!(※掲載後に許可が出た場合は、そちらのリンクを挿し込んで更新をさせていただきたいと思っています)
今回はYouTubeチャンネルの「DCCちゃんねる」のリンクに留めますが、それでもさまざまなビジュアルボイスドラマが掲載されていて、動画一覧を見るだけでもワクワクできること請け合いです。
作品を聞いた上での率直な感想
本作を、あえて端的に表現するなら「異世界転生モノ」です。
息苦しい現代社会から異世界へと旅立ち、第二の人生を歩もうとするひとりの男性を主人公とした物語……なのですが、それは決して平坦な道のりではありません。
どこか浮世離れした感覚が抜け切れず、異世界でも生きにくさや戸惑いを感じ、それを余すことなくさらけ出す主人公の描写は、作中で激しく揺れ動きます。
ただ、転生先の住人たちはそんな彼に違和感こそ得るものの、粛々と普段通りに振る舞い、その世界の普通を生きているという穏やかさが表現されており、この対比がストーリー全体にメリハリをつけています。
これは実社会に生きる我々もそうですが、例えば進学や転校、就職や転職した先で「えっ、想像してたのとは違う……」みたいな感覚を得るのに近い導入部分を経て、その中で「自分はこうあるべきだ」という道筋をつけて歩んでいく……
最後の最後まで「どこまで行っても、どこか人間臭さの抜けない物語」が続く良作です。
ジャンル的な見せ方を徹底的に工夫した企画立案
第一印象を紹介する部分でも少し触れましたが、制作陣は最初から「単純に『異世界転生モノ』にカテゴライズされるような作品にはしたくない」という意図を持って発案などをスタートさせたのかなと感じました。
無論、単純に棲み分けをするという発想ではなく、完成した作品を「似て非なるモノ」という場所に置くためのアイデアや要素をふんだんに盛り込んでいます。
もっとも演技なり心情の変化の振り幅が大きく、他のキャラにない感情を言語化しなければならない主人公の構築は、とても丁寧に組み立てられているなと強く感じました。
主人公の語る自由とは、まるで「アルプスの緑鮮やかな草原をどこまでも駆け抜けていける」かのような表現をしていますが、この認識は人間の思考としては破綻しています。私なりに考える自由とは「その世界に則した制約という名の柵に囲われた広い草原の内側」のことを指すと考えています。
その柵がない世界が自由だと考える主人公は、ある場所で出会う人物に「理外の人間」という感想を抱きますが、結局は「同じ穴のムジナ」なのです。どちらも柵を飛び越えたナニカであることに気付かないまま、彼は運命の時を迎えるのです。
実は、異世界でもそういった思考をベースにしている描写がいくつか存在します。主人公は「流れの速い川を揺蕩う木の葉」のように、激しく動かすのは企画立案の時点でカッチリと決められていたのでしょう。
当然と言えば当然ですが、その後に登場するキャラは物語の都合上、どうしてもブレが少なくなります。その辺のバランスをうまく取りながら、本作で最も描きたい部分に具体性を持たせていくのは大変な作業だったと思います。
その辺の舵取りは絶妙なので、皆さんは安心して作品に没頭できると思います。また、メジャーなジャンルをベースにしたが故に、視聴者がその時々においていろんな感想を抱きながらも、ストーリーを楽しめる余裕もある構成は素晴らしいです!
不必要な残虐描写を排除する思い切りのよさ
作品の題材から薄々は察していたのですが……
正直に言うなら、個人的に「本作で避けては通れない描写がいくつか存在するが、どこまで反映させてくるかな」という心配が、実は心の片隅にありました。ただ、それらは決して「不必要で蛇足となる描写」ではなく、「ある程度は見せなくては作品として成立しない描写」なので、本当にドキドキしてました。これも決して期待ではなく、ほぼ心配です。
全編を聞き終わって、その心配は完全に杞憂でした。
逆に「えっ、ここまでバッサリ切る?!」と思うような場面すらありました。本当に最低限で済ませた上で、しっかりと作品を成立させているのは、脚本や演出が冴え渡ったなと感じました。
こういった表現や評価をするのは、ある意味で失礼かとも思いますが、映像作品で定義される視聴分類でいうなら、おそらく「PG-12」程度で収まっていると思います。
ただ、押しつけがましいのですが……これは制作陣の皆さんには、私からの「最高の褒め言葉」と受け取っていただきたいのです。普通に作ったら「R-15」付近になりかねないところを、脚本や演出面で敷居を下げているのは、どういう経緯があったにせよ、私は心から称賛したい部分のひとつなのです。
これも繰り返しになりますが……
残虐性こそ介在しませんが、物語序盤の主人公の思考のヤバさの方が生々しく表現されています。
自由を得て羽を伸ばしているのではなく、ただ身勝手。
自分が力を得たと知れば、我欲を満たすために突っ走る。
これらの描写が、本来であれば如実に表現されるべきテーマのひとつである「正義と悪の対立」ですら霞んでしまうという……しかし、その後に待ち受ける展開に最大の見せ場が潜んでいますので、やはり脚本的にも優れた作品なのだと強く感じました。
揺れ動く主人公と不動の登場人物を演じ切る声優陣
物語の幕開けは、現代です。
いい歳になっても働かず、家でゲームに興じる主人公の伊織(CV:井之上賢)は、我慢して面倒を見てくれていた母親(CV:田中)との言い争いで外に出ます。出た先で運悪く半グレ(CV:ナエアザメイゼン)と出会い、さらには天使(CV:望月なつ)と遭遇することで、大きく物語が動き出します。
いわば序章ではあるのですが、出演陣の熱演は素晴らしいですので、最初から気を抜かずにお聞きください!
その後は、魔王(CV:中村宏平)とガーゴイル(CV:酒味たろう)との唐突な出会い、さらにはダークエルフ(CV:環玲美)たちとの旅を経た後、兵士(CV:佐倉亮)や剣士(CV:ロア)、魔術師(CV:みくみくみ)との対峙で、主人公はこの世界の理を知ることとなります。
ダークエルフは一般的に人間よりも寿命が長いとされている場合が多いのですが、そこで放たれる「えっ、40年も彼女がいないんですか?」みたいなセリフは作中屈指の名言だと思います。
その後は帝国の将軍(CV:狸田太一)、村娘(CV:餅田みよ)と出会うのですが……ここからは物語も佳境に入ります。
主人公は何かを奪い、何かを失いながらも、自分から湧き出る衝動の赴くままに、生まれて初めて自らの意思で行動を起こします。それを支えるご両名の演技もぜひご堪能ください!
豪華声優陣が織りなすストーリー展開は、本当に約40分という尺とは思えない素晴らしい作品になっています。ぜひ隅々までお楽しみください!
総評「作品の魅せ方を徹底的にこだわった傑作」
冒頭で「ゲーム制作も手掛けられている」と書きましたが、そのノウハウが最大限まで発揮されています。
キャラの魅せ場の作り方から入退場のタイミングまでが徹底的に計算されており、最後までガッツリ楽しめるビジュアルボイスドラマに仕上がっていると感じました。
皆さんに本作をご紹介して、実際にご視聴いただくのが目的のため、詳しくは書けなかったのですが、声優の皆さんの魅力的な演技も「素晴らしい!」の一言に尽きます。
特に、主人公の井之上賢さんは最初から最後まで難しい役どころを演じ切っておられるので、ぜひ他の作品でのご活躍にもご注目ください。拙筆において、何度も名を連ねる実力派の声優さんです!
その演技を受け止めた狸田太一さん、そして中村宏平さんが一堂に会する場面は必聴です。イケボ好きのアナタ、一度は聞いてみてくださいね!
再三に渡って、なんとなーく匂わせていますが……本当の本当に、最後まで聞いてくださいね?
クレジット(敬称略・リンクあり)
▢キャスト
伊織:井之上賢
村娘:餅田みよ
魔王:中村宏平
ガーゴイル:酒味たろう
将軍:狸田太一
ダークエルフ:環玲美
剣士:ロア
魔術師:みくみくみ
兵士:佐倉亮
半グレ:ナエアザメイゼン
母親:田中
天使:望月なつ
▢スタッフ
企画・制作:DCC-Project(代表:KAZ)
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