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ボイスドラマ視聴紀行 #26

 今回ご紹介するのは、みこみんさんが企画されたボイスドラマ『【ボイスドラマ】『サクラメントミザリア(全編)』』です。
 なお、聴取を推薦されたのは、神父役でご出演の是枝 留さんです。

 以下、文章表現の都合上、敬称略とさせていただく箇所が存在します。あらかじめご了承の上、本記事をお楽しみください。
 また、ボイスドラマを視聴・聴取した上で感想を書き進めるスタイルのため、あえて備考やクレジットを見ずに執筆している場合もございます。

 こちらの作品は「前編・後編」で構成されていますが、今回は「【ボイスドラマ】『サクラメントミザリア(全編)」をフルサイズで視聴した感想を書きます。
 前編と後編に明確な境目が存在するので、前編を視聴したかなり後からでも後編を楽しむことができる構成になっています。
 なお、全編トータルで約61分各話が約29~32分となります。目次の下に各話のリンクを設置しておきますので、そちらから視聴していただけると幸いです。


 なお、みこみんさんはボイスドラマ以外にも様々な活動をされておられます。制作者さんのサイトでYouTubeのショートも積極的に取り入れている方はちょっと珍しいので、ぜひ一度リンクからご覧いただくことをオススメします!



サクラメントミザリア(各話個別リンク)


全作品を聞いた直後の率直な感想

 本作は視聴を意識した作品に仕上がっていますので、ぜひ視聴する形でお楽しみいただければと思います。魅力的なキャラクターの画像もたくさん出てきますし、視聴者に配慮した構成になっていますよ!

 ただ、私は本作に限らず、どの作品でもそうなのですが……
 ご推薦された作品が「ボイスドラマ」である以上、あえて聴取に全振りした形で聞かせていただいております。
 実は本作におきましては、聴取であっても充分に楽しめます。私は映像を瞬間的にチラ見する程度だったので、その点は太鼓判が押せます。どうしても映像を見れない場合でも、気軽にお楽しみいただければなと思います。

 本作を端的に表現するなら「中世ファンタジー」と簡単に言い切ってしまってもいいのですが……私は表現が長くなってでも「バロックファンタジーを舞台としたヒューマンドラマ」と表現したいと思いました。

 人間は心を持つが故に、大なり小なり、いつもいつでも、何かしらの選択をする人生を歩むことになります。その瞬間を、その断片をリアルに切り取って構成されているのが本作であり、それが最大の魅力になっています。
 シリアスな世界観をベースにしながらも、どこか享楽的でもあり、どこか偏りのある独特なストーリー展開に、皆さんは思わず時が過ぎるのを忘れてしまうかもしれません。

たまには、造語で表現したっていいじゃない!

豊富なテーマ性を「静と動」で見事に昇華させた!

 制作陣は「バロックファンタジー」という世界観の構築を下敷きにして、そこで描きたい物語の素地を作ったのではないかと感じました。
 とはいえ、最初からハッキリと「これを描きたかった!」という強いメッセージ性が視聴者にもすぐに感じ取れるので、作品全体を眺めてもほとんどブレがなく、ストーリーへの没入感は随一です。

 本作は魅力的な登場人物が縦横無尽に活躍するのですが、その主軸となる人物がしっかりと用意されています。しかも二部作とは思えないほど、その心は大きく揺れ動き、視聴者の心を鷲掴みにしてきます。
 しかし、それを取り巻くモノを「不動の存在」にしたのは、その対比を明確にする意図があったのだと思います。
 それはまるで、一級国道に立つ街灯のようです。街灯の軸はとても太く存在感がありながらも、道路を照らす明かりはその時々でさまざまな彩りを与えてくれる。ここでいう「不動の存在」とは、主軸たる街灯から放たれる確かで妖しい光なのです。

 先述した「単純に中世ファンタジーと表現したくない」というのは、制作陣の徹底的なこだわりが垣間見えたからです。
 むしろ「バロックファンタジー」というカテゴリーが存在しなくても、本作の紹介をこの形で表現したいという気持ちは、勝手に湧いて出てきたものです。私は無意識に、聴取中のメモにそう書きましたから。
 ただ、時代背景を考えた末に「ゴシックファンタジー」という単語も同時に書いていました。でも「ゴシック」という言葉の意味は、別の方向で認知されているので、今回は「バロック」の方を使わせていただきました。

バロックの方が意味合い的にもブレが少ないと感じたので。

この個性をまとめ上げた脚本家の才能に拍手

 制作陣が作り上げた世界観を引き継いで、今度は脚本を担当されるなしみぞれ(Magic Ward Crafter)さんにバトンタッチした訳ですが……しっかりと的確に意図を汲み取った上で、しかも自分の味付けも織り込んで、見事な脚本に仕上げてくださったんだなと感じました。

 制作陣として企画立案に立ち会っていたとしても、実際に作品を書き出すとニュアンスが変わったり、キャラが勝手に動き出したり……ということは往々にしてあります。
 書き手を経験されていない方は「自分でキャラの描写してる癖に、キャラが勝手に動き出して困るとか……それって何ですか?」と思われる方もおられるかもしれませんが、これは本当に起こり得る現象です。私も長くシナリオライターとして活動していますので、この現象についてはよく理解しています。
 これを書いていて思いましたが……本作の特徴などを明文化している今、「もしかしたら、いずれかのキャラは勝手に動いたのかもしれない」と思うほどです。

 最終的に、制作陣の意図するところに収まる形で脚本は仕上がったのだと思いますが、企画立案の時点で非常に特徴的だったので、もしかしたら許容範囲の中で大暴れしたキャラが存在したのかもしれませんね。
 いずれにせよ、前編と後編に分けての秀逸な構成、魅力あるキャラのセリフを生み出したことは「素晴らしい!」の一言に尽きます。

書き始めと書き終わりで別物になることもしばしば。

動画編集とキャラクターイラストにも注目!

 これは視聴されている方なら、その魅力が一目瞭然だと思いますが、キャラクターイラストは来海周(海底工房)さんが制作されております。
 また、視覚的な部分であり聴覚的な部分は、alto(alto works)さんが存分にご活躍されております。

 ご両名もまたバロックファンタジーの構築に欠かせない素晴らしいお仕事をなさっておられますので、こちらもぜひお見逃しなく!

視覚的なイメージはご両名が頑張ってますよ!

独特の世界観に負けない魅力的な出演陣

 あることがきっかけで全てを失い、持たざる者となってしまった主人公の男・アルフォンス(CV:成林ジン)は苦悩に苛まれ、神の救いを求めに神父(CV:是枝留)の元へと尋ねます。
 最序盤に登場するこの2人の対比ですら、すでに「静と動」を如実に描いています。特に神父役は、他の不動キャラよりもやや難役だと感じました。そこをサラッと演じられる是枝さんは、やはり「キャラの背景や受け止め方がとてもお上手」だと感じました。

 その後、運命ファムファタールの女として、アルフォンスの前に現れるジェーンドゥ(CV:mochimiyu)に導かれるがまま、ついには魔性の女・リリス(CV:みこみん)なる謎の女性の元へと足を踏み入れます。
 ここからは主人公・アルフォンスの演技が冴え渡ります。成林ジンさんの熱演は最後まで続きますが、感情の機微などをたっぷりとご堪能いただければなと思います!

 後編では、国家を脅かす不穏な影が暗躍するのを察知し、騎士たるグノーシス(CV:井之上賢)が動き始めます。彼は地獄耳の情報屋・ローラス(CV:渚舞希)の手も借りながら、その正体に敢然と立ち向かうのですが……
 グノーシスの語る理念や矜持は、前編で語られたある項目の対比とは打って変わって、「己が信じる正義」という形を視聴者に投げかけてきます。彼もまたブレのない人物のひとりです。何事にも動じない井之上さんの芝居もまた見所のひとつです!
 それとは逆に、ローラスはどこか気さくで物語の中では唯一の癒し(!)でもあるので、渚さんの演技にもご注目ください。

声優陣もまた、この世界観に挑む者たち

総評「静と動の表現の幅と可能性を広げる稀有な作品」

 ここまで明確に「静と動」を分けて物語を組み立てるというのは、ちょっと普通ではたどり着けない発想かなと思います。
 これは発想の転換から生まれたのか、それともバロックファンタジーが故の産物だったのか、はたまた最初からこういった意図を持って企画立案に至ったのか……?

 いずれにせよ、さまざまな形の対比という描写は随所に散りばめられており、どこを切り取っても魅力的に描かれています。
 何よりも前編と後編での「ここまでやるか?」と思わせるほどの徹底的な切り分けが、本作をさらに魅力的に彩ってくれます。

 本当は視聴メモにもっとたくさんの感想を書いていたのですが、そのほとんどを書かずに、今回の紹介記事はこの辺で終わりたいと思います。
 皆さん、ぜひ聞いてみてください。
 
この作品はあなたが触れないと気付けないモノばかりで溢れています。まるで新月の晴れた夜空に瞬く星々のような作品、ぜひ皆さんもお楽しみください!


クレジット(敬称略)

▢キャスト
 アルフォンス:成林ジン
 グノーシス:井之上賢
 ジェーンドゥ:mochimiyu
 リリス:みこみん
 ローラス:渚舞希
 神父:是枝留
 ナレーション:東雲やみこ

▢スタッフ
 
脚本:なしみぞれ(Magic Ward Crafter)
 動画編集・背景:alto(alto works)
 キャラクターイラスト:来海周(海底工房)
 企画:みこみん

実は「人呪わば穴二つ」の誤訳ではないかとも。

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