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ボイスドラマ視聴紀行 #17

 今回ご紹介するのは、ボイスドラマ制作サークル「Midnight Bloom」さんが企画された『ボイスドラマ「不香ふきょうの花」』です。
 なお、聴取を推薦されたのは、桔梗 役でご出演の小湊ミチルさんです。

 以下、文章表現の都合上、敬称略とさせていただく箇所が存在します。あらかじめご了承の上、本記事をお楽しみください。
 また、ボイスドラマを視聴・聴取した上で感想を書き進めるスタイルのため、あえて備考やクレジットを見ずに執筆している場合もございます。

 なお、本作は約50分の大長編になります。
 YouTubeの視聴の場合、制作側が物語をチャプターで区切っているので、それを目処に段階的な視聴をすることが可能です。
 ただ、普通に聞いていると、切れ目に全く気付けません。むしろ自分のタイミングで視聴の再開地点を決めた方が建設的とさえ思えます。それだけ作品に力があり、没入感を持っているという証拠でもあります。

 本作の詳細につきましては、以下のリンクからホームページにてご確認ください。

 ボイスドラマ制作サークル『Midnight Bloom(ミッドナイト ブルーム)』さんの公式アカウントでは、次回作のPVも公開されていますので、興味のある方はぜひチャンネル登録してみてください!



作品を聞いた上での率直な感想

 本作は江戸時代を舞台とした、華やかでありながらも憂いを帯びた遊郭を舞台に巻き起こる人間模様が魅力的な大長編の作品となっています。
 特筆すべきは純和風の時代劇でありながらも、とても落ち着きのあるゆっくりとした流れでまとまっている点です。
 また、時代背景などもシナリオ展開に応じて、いろんな手法で差し込んでいるので、イメージが流れるように耳から脳に繋がって視聴者の想像力を膨らませてくれます。

 皆さんは「取り扱っているテーマがそうなんだから、ゆったりとしたテンポになるのは当然でしょ!」と思うかもしれませんが、個人的な感想で言うなら、本作の制作難易度はかなり高いレベルに入ります。
 ボイスドラマでは小気味いいテンポで繋いだ作品を制作する方が、実は簡単なのです。自分が今からチャレンジする人に向けてアドバイスするなら、「全体のテンポを重視した作品制作」から勧めます。もっと言うなら、「現代劇を取り上げた方がハードルはもっと下がる」ので、この方向性で企画構成することを勧めるでしょう。

 この脚本を受け取った声優陣にも大きなプレッシャーがかかったと思いますし、これを演じ切ったというのは称賛されるべきだとも思います。
 どの登場人物を見ても、魅力のある演技を発揮してくださっていますし、難しい脚本の中からもしっかりと要所を抑え、作品の肝となる部分をガッチリと支えてくださったからこそ、本作が最高峰の逸品に仕上がったのは言うまでもないと思います。

テレビほど情報量が多くないので、時代劇は難易度は高い。

恐ろしいまでに研究し尽くされた時代考証

 序盤でナレーションが入りますが、視聴する上では「江戸時代」と認識しておけば問題ありません。
 耳馴染みのない言葉として「明暦の大火」「新吉原」なども登場しますが、これは歴史上の出来事として記録されています。

折りしも翌明暦3年(1657年)正月には明暦の大火が起こり、江戸の都市構造は大きく変化する時期でもあった。大火のために移転は予定よりも少し遅れたが、同年6月には大火で焼け出されて仮小屋で営業していた遊女屋は全て移転した。移転前の場所を元吉原、移転後の場所を新吉原と呼ぶ。

ウィキペディア「吉原遊廓」歴史・新吉原の項目より抜粋

 私は中学校の教員免許「社会」を取得しており、得意分野は「日本史」なのですが、それでも歴史全般を大枠でしか掴んでいないので、ここまでの知識は持ち合わせていません。
 また、花魁が用いる言葉遣いは「廓詞(くるわことば)」として、今も耳馴染みのある方も多いでしょう。

遊女たちは町人や武家の人々とは違う言葉遣いをしていました。その言葉遣いは「廓詞(くるわことば)」といいます。『~でありんす』のような言葉が有名ですね。そのことから「ありんす詞」とも呼ばれていました。

花魁体験.comのコラム「花魁について」廓詞について -遊女の言葉遣い- より抜粋

 企画立案時から時代考証を経て、物語の展開を含めて脚本へと昇華させる作業はとんでもない時間と労力がかかったのではないかと推測します。私が紹介記事のために抜粋する文章を適当に探すのとはレベルが違います。

 その他、新吉原という遊郭にまつわる事項なども調べ尽くし、本作のベースとなる脚本を作り上げたのです。
 それに加え、スローテンポで構成される作品であるため、セリフの配置や言い回しなどにも配慮しないと「興が削がれる」ので、本当に大変な作業だったと思います。制作陣の皆さん、本当にお疲れさまでした!

脚本制作後は丸投げになるので、かなり神経を使う。

緻密な脚本に宿るさりげない身分の描写

 花魁が主軸となる作品である以上、江戸時代の身分制度として有名な「士農工商」を意識した方も多いでしょう。
 商人はもっとも低い位置付けにあり、花魁を筆頭とする遊女はさらに過酷な労働条件を強いられている一方で、とても華やかに振る舞うことも求められていたというのは、現在の我々にとっても胸に来るモノがあります。

 ちなみに花魁ともなると、若い花魁候補や禿と呼ばれる子供を従えており、彼女たちの生活費も用立てなくてはならなかったそうです。
 そういった時代背景の情報を取捨選択した上で、程よく混ぜ合わせた脚本のセリフを登場人物に語らせることで、視聴者にその苦悩を推察させる方式を取ったのは英断だったと思います。
 いかに時代劇のイメージが根強くある状態と言えども、どこまで視聴者にイメージさせることを委ねるかは、ボイスドラマの永遠の命題ですので、本作も「チャレンジしたんだなぁー」と感銘を受けました。

こんな風に脚本は作られている

鮮やかな人間模様は声優さんが彩る

 前置きしておくと……
 私は視聴後のエンドクレジットを見るまで「この作品、誰が主演なの?」と思ってました。それは誰が主演と言われても納得のいく、そんな作品だと感じたからです。

 吉原随一の大見世「月影屋」にて、高嶺の花でありながらも慈愛に満ちた桔梗(CV:小湊 ミチル)が、老齢の父の跡を継いだ髪結いの宗次(CV:中村 宏平)と出会うことによって、物語は動き始めます。
 桔梗と宗次の喜怒哀楽は穏やかながらも感情豊かに表現されていますので、皆さんもじっくりとお楽しみください!

 桔梗になつく少女の春(CV:パンナコッタ)は、時として子供らしからぬ活躍を見せてくれます。また、主にナレーションとしての役目も与えられたお婆さん(CV:渋谷 朋子)の圧倒的な存在感を保ちながらの演技にもご注目ください。お婆さんと共に登場するおみつ(CV:如月 彩葉)もまた、作品に大きなインパクトを残してくれます。

 月影屋で女郎の世話係を務めるお菊(CV:田中)、そして旦那の新五郎(CV:浅沼 諒空)は遊郭における厳しい現実を生きる人々として描かれていますが、あからさまな憎まれ口や読めない腹の内などを演じ切ってくれたお二人にもぜひご注目ください。
 どこか不遜な態度で横柄な長岡(CV:折原 幸平)の存在も忘れ得ぬモノになっています。

 正直、本当は役どころを全て網羅したいのですが、エキストラの皆さんの熱演も素晴らしいので、隅々まで楽しめる作品になっていますよ!

意外にも武士が出てこない

総評「いつの時代も、男はバカだねぇ」

 こういう作品に出会うと、主軸に据えられた女性視点での物事を書きたくなるところですが……私は全編を通して「男って、いくつになってもバカだねぇ」という感想を抱きました。
 当然、まだご視聴ではない方は「なんのこっちゃ?」と意味がわからないと思います。まぁ、聞けばわかりますんで、皆さんもぜひお聞きください。

 本音を隠して生きる自分とは、現代人にとっては当たり前すぎて、むしろごく自然に振る舞ってしまいがちです。職場での自分は本来の自分ではなくて……という風に置き換えてみると、不思議と物語へと入り込めると思います。
 実は時代劇のようで、しかしそうでもないようで……没入感のカラクリはここにあるのかもしれませんね。

 その花は少しも香らずとも、その花はまだ開かずとも、人間に美しさを垣間見せることがあります。
 そんな瞬間を切り取ったボイスドラマ、皆さんにも胸を張ってご推薦できる秀作です!


クレジット(敬称略・リンクあり)

▢キャスト
 
桔梗:小湊 ミチル
 宗次:中村 宏平
 春:パンナコッタ
 お婆さん:渋谷 朋子
 お菊:田中
 新五郎:浅沼 諒空
 おみつ:如月 彩葉
 長岡:折原 幸平

▢エキストラ
 
男性客A:井之上 賢
 男性客B:アマツジ マコ
 月影屋の男衆:折原 幸平 / 焔屋 稀丹 / みそ汁
 吉原の男衆:焔屋 稀丹 / 井之上 賢

▢スタッフ
 企画・脚本・演出:Midnight Bloom / 白蓮

エンドロールは視聴になるので、そこだけは注意して!

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