ボイスドラマ視聴紀行 #18
今回ご紹介するのは、「Raven Room」さん制作の『ヒーローになろう!【ボイスドラマ】』です。
なお、聴取を推薦されたのは、院長 役でご出演のK K(窪田泰明)さんです。
本編は約16分と手軽に聞ける短編ボイスドラマとなっています。
聴取のみでも十二分に楽しめますが、個人的には視聴することを強くお勧めします。YouTube掲載ということで、視聴的にも工夫が施されていますので、気楽に動画を見る感覚で楽しんでいただけると思います!
Raven Roomさんは今までにも、数多くの作品を公開されております。主催者である鴉さんのボイスサンプルもあり、連作のボイスドラマもありますので、本作でご興味を持たれた方はぜひ遊びに行ってみてください!
作品を聞き終えての率直な感想
サムネイルを見て「本作は戦隊ヒーローを題材にした作品だ」と感じたあなたは、ある意味で正常です。ところがコレ、実は「医療ドラマ」なんです。
いいですか、落ち着いて聞いてください。 これは「医療ドラマと戦隊ヒーローが同居するコメディー作品」なんです。ここだけ聞くと、まるで私たちが小学生の頃、自由帳に殴り書きした思い付きを走り書きしたの小ネタに思えなくもないでしょう。 しかし、そこは制作陣の手腕がいかんなく発揮されています。それは物語の最初から最後まで、一気にコメディーで駆け抜けていく様はいさぎよさすら感じます。
演者の皆さんもト書きに沿って演じたのか、それとも自分で研究したのか……とにかく最後まで聞き終えた時の声優さんの印象がガラッと変わるのが特徴的な作品です。
コメディーとしてはメリハリがついていて、笑いどころとツッコミどころが随所に散りばめられている傑作です!
大枠では区切られてるのに、上手く混じり合ってる!
本作は病院を舞台とした医療ドラマでありながら、戦隊ヒーローも取り扱うという「ジャンルのクロスオーバー」をコンセプトに企画構成されています。
こういった「欲張りセット」を企画した場合、意図的に両方の比重を均等に保とうとすると構成が非常に難しくなります。コメディー路線で描こうとしても、さほど制作難易度に変化はないと思います。
この作品は、見事に両方の持ち味を十二分に発揮させ、短編コメディーとして昇華させているのが素晴らしいのです。こういう形式を短編でまとめるのも、実はすごく難しいんです。それを当たり前のように作っちゃうあたり、今からでもボイスドラマのコメディー界を震撼させる制作陣だなと感じました。
コメディー作品なので、時として軽妙なやり取りであったり、時として訳のわからないボケっぽいセリフだったりでメリハリをつける一方、医療現場と戦隊ヒーローというテーマも均等に混ぜ合わせているというのは、もはや企画立案のマエストロと読んでもいいでしょう。
具体的に言うなら、新手の誘導尋問かと思わせるような謎の下りがあったり、下らねぇことばっか言ったその口で「今の医療現場は~」とか唐突にマジメな話題に触れるなど、数えたらキリがありません。
皆さんも直接聞いてみてください。ただ、本作が秀逸なのは、視聴者が頭の中でツッコんでもなお、物語に追いつける絶妙な匙加減にあるのです。これは恐怖すら感じますよ?
しかもコレ、約2年前の作品ですからね?
今も活動されてることを考慮すると、今後はどんな作品を出してくるのか本当に楽しみな制作者のひとりに挙げられるでしょう。
作中で語られる子供への配慮が生々しい
特撮ヒーローは私の専攻科目なので、少し語らせていただくと……
一時期、仮面ライダーにおいては「2つの要素を掛け合わせたシナリオ設定を用いる」という時期がありました。それを象徴する作品として「医療+ゲーム」という形で展開されたのが「仮面ライダーエグゼイド」という作品でした。
ゲーム病患者を医療で救うため、本当の医師が仮面ライダーに変身して、患者たちの命を救う……こんなテーマ、本当に最後まで描けるのかと、大きなお友達の私ですら疑いました。しかし、この作品は見事に描き切り、今もなお評価の高い仮面ライダーとして名が挙がるほどの名作となっています。
今作は「医療+戦隊ヒーロー」なので、少し毛色は違います。
ただ、脚本中で描かれる「子供に対して、今の医療現場をどのようにして見せるのか?」を真剣に会議している描写が、マジで「私は今、ヒーロー物の企画会議に出席してるのかな?」と錯覚させるほどにリアルで生々しい文言がとめどなく溢れ出てきます。
じゃあ、実際に子供目線で何を求めてるかというと、変身した後の戦闘シーンを楽しんでるくらいで、素面のドラマパートはわりとどうでもよかったりします。なので、子供が「カッコいい!」と思えば、長い横文字でも一生懸命覚えます。
ドラマパートを魅力的に仕上げるというのは、実は子供に向けてではなく、一緒に視聴を付き合わされている親御さんに向けて作っているのです。イケメン俳優が起用されるのは、子供のためではなくて、あくまで大人のためだったりするのです。この手法は、平成ライダーの初期作品の頃から使われていて、ストライクゾーンを広くすることで「子が親に一緒に見たい」という一方通行に思える状態を打破し、「親が子に作品の視聴を勧める」などの逆転現象をも狙ったカラクリでもあったのです。
スーパー戦隊においても、その辺の対策を入念に織り込んでいます。「手裏剣戦隊ニンニンジャー」では3世代の視聴を強く意識した企画構成になっていますし、昨今では1クールで終了するドラマが多いことに対し、特撮ヒーローは4クールも長く続くので「気軽にゆっくりと見れる」ということで、高齢の方にも評判がいいとの感想もあります。
私のように濃い考察をする人間でも「これは上手いことやってる!」と思える脚本構成ということは……さては本作の脚本家さんもまた大ファンなのでしょうか?
言うまでもないと思いますが、あえて申し上げておくと、本作は既存の作品とは全く違う世界観設定であり、シナリオ展開もオリジナル感満載の魅力的な作品ですので、そこは存分にお楽しみいただけると保証します。
声優さん、キミらもやってんな?
物語はとある病院の院長室にやってきた医師の原田(CV:控田まりお)が、院長(CV:KK(窪田泰明))に嘆願する場面から始まります。わずか数秒でコメディーが始まるので、吹き出さないように注意してくださいね!
医師の原田から救急コール(!)で呼び出された面々は本当に災難です。
ナースの小林(CV:穂月)、薬剤師の中川(CV:折原幸平)、検査技師の樋口(CV:ロブ)は原田のトンデモ構想に戸惑いを隠せずにいるのですが、いつの間にかやる気になっていく流れは、まさに声優魂に溢れています!
そうそう、なぜ途中で棒読みみたいに演じてるのかは、ト書きかアドリブか教えてもらえると助かります。この辺はとてもいい感じに演じていたので、この場に記録しておきます。
とある事情で、本作は原田がちゃんとリーダーをしてる戦隊……と言いたいところだったのですが、コメディーであるが故の宿命か、やや頼りない部分も垣間見せているので、そこも見所のひとつですね!
総評「誰も真似できない、要素混ぜすぎコメディーの傑作」
まず、制作に携わる方へのメッセージとしては「コメディー書き必聴の作品」になります。書くのが苦手なジャンルかどうかはひとまず置いといて、物語のメリハリや起伏のつけ方などが秀逸なので、一度は聞いていただくことをお勧めします。
もちろん、未視聴の方にも大変オススメの作品となっています!
短編なのでサッと聞けますが、作品のインパクトが強いので「えっ、こんなに短いの?!」と戸惑うかもしれません。そのくらいよくできたコメディー作品なので、ぜひお時間がある時に聞いてみてください。
ちなみに。
仮面ライダーエグゼイドが放送されている最中、実在する病院の小児科医たちが回診に行く際、変身ベルト「ゲーマドライバー」を装着したという実話があります。子供たちはとても喜んでいたそうです。
この作品で語られている「理想の将来」は、本当に起こり得る未来の姿なのかもしれませんね。
クレジット(敬称略・リンクあり)
▢キャスト
原田:控田まりお
小林:穂月
中川:折原幸平
樋口:ロブ
院長:KK(窪田泰明)
▢イラスト
サムネイラスト:悠木小鳩
▢スタッフ
シナリオ:鴉
制作:Raven Room
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