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ボイスドラマ視聴紀行 #13

 今回ご紹介するのは、にくじゃが【ボイスノベル】さんが企画されたボイスドラマ『みんな田中【ボイスノベル】【SFヒューマンドラマ】』です。
 なお、聴取を推薦されたのは、Noah Rev(箱舟壱座)さんです。

 にくじゃがさんは【ボイスノベル】という形式で『ーーちょっと不思議な物語を音で届けます。』をキャッチフレーズに、様々な作品を公開されています。また、ラジドリコロシアム第4回大会にも参加されており、知る人ぞ知る制作チームとして有名です。

 以下、文章表現の都合上、敬称略とさせていただく箇所が存在します。あらかじめご了承の上、本記事をお楽しみください。
 また、ボイスドラマを視聴・聴取した上で感想を書き進めるスタイルのため、あえて備考やクレジットを見ずに執筆している場合もございます。



作品を聞き終えた率直な感想

 制作陣のコンセプトが「ちょっと不思議な物語」ではあるのですが、本作「みんな田中」もご多分に漏れず、いろんな要素がぶち込まれています。

 それはタイトルに冠せられた「SFヒューマンドラマ」だけでなく、程よく散りばめられたコメディであったり、ナンセンスだったり、シュールだったり……それらを約18分の短編に練り込んで、最終的には大きな舞台であり、物語の中核である「多感な時期の高校生を描いた作品」に仕上げているのは、もはや特筆すべき稀有な才能だと思います。
 正直、私も途中までは「いろいろ混ぜすぎじゃね?」と思うくらい危険な魅力を感じてはいました。しかし物語中盤から制作陣やキャストに首根っこ掴まれて、にくじゃがワールドにぶん投げられた後は、もう危うさなんてものは喉元を過ぎ、最後までひたすらに魅了されていました。
 これは例えるなら、多彩なスパイスが織りなす素晴らしい逸品のカレーのような作品……あ、この場合は「にくじゃがカレー」ですね。そういった味わいを感じました。

 ここまでのにくじゃがさんの紹介で、皆さんがパッと思いつく親和性のあるジャンルとして、星新一先生の「ショートショート作品」を挙げる方が多いのかなと推測します。
 そこに令和のイマドキなアクセントを盛り込みつつ、とても聞きやすいドラマになっているからこそ、視聴者にも想像の隙間を与えられる……そんな後味の残る秀逸な作品です。

星新一先生の「きまぐれロボット」は秀逸です!

制作陣の方向性を客観的に分析した最適な魅せ方

 企画立案の前提条件として、にくじゃがの根幹をなす大きなテーマがあるので、制作にあたって「今回はどの部分を切り取るのか」、その後に「どの角度で描写するのか」を考えるなどの下準備が必要になります。
 あくまで私の予想ですが、創設当時からこの形式でアイデアを出すのが得意だった、もしくはそういう作品に強い影響を受けていたのか、他のボイスドラマとの差別化のために最初から狙って軸足を置いたのかの二択だと思いました。
 おそらくは前者だと思います。そうでなければ、ここまで秀逸な描写を具現化できないと思うので……

 本作「みんな田中」という突飛なタイトルからにじみ出るその妖艶な雰囲気、いわば「隠し切れない隠し味」は、まさに作品をうまく形容していると感じました。ここまでモノ言うタイトルは久しぶりに見るなーとさえ思います。
 それに付随して、YouTube掲載を意識した視聴への配慮も万全で、イラストや映像編集を担当されている佐藤ユウさんの活躍がキラリと光ります。セリフが表示されるのみならず、その時々においてイラストや表示にも変化が生じ、にくじゃがワールドの導き手として多大な貢献をされています。

 さらに音声編集の可糖さんもまた、丁寧かつ効果的にガヤを入れることで、独特な世界観への没入感……というか、視聴者をひとりずつ埋めていくようなスタイルは、やはり脚本をよく理解されており、作品の方向性をガッチリ掴んでいるのだろうなと感じました。そんな制作陣の皆さんにも惜しみない拍手を贈りたい!

チーム運営は大変だけど、ハマった時の喜びはデカい。

にくじゃがの世界に挑む声優たち

 本作は工藤(CV:ながゆー)という女子高校生の視点で描かれます。
 彼女は容姿端麗でイケメンの彼氏がいて、家族思いである一方で、誰にも明かせない苦悩を秘めているのですが、その演技は悲壮感や孤独感、それでいてちょっと面白さも交えて……という、本当に難しい役どころを演じ切ってくださっています。

 そして物語の肝となる田中(CV::冬衣)の熱演にもご期待ください! 私から贈る言葉はただひとつ……冬衣さん、いろんな意味でお疲れさまでした!!

 主人公の工藤から「学年一のイケメン」と評される駒田(CV:よね)もまた、いろんな場面で活躍するキャストの一人です。彼氏というポジション以上に難しい役回りなので、ぜひ彼にも注目してください!
 ほぼ全員が段階的に、もしくは最初の時点で個性的になってしまうキャスト陣ですが、実際「どこを、どうやって芝居を沿わせるのか?」という点は悩みどころだったと思います。何らかの手段で認識を共有してはいたと思いますが、本当に演じ切れるかどうかは話が別なのです。そんな声優さんたちも「頑張ったなぁー!」というのが素直な感想です。

学校の屋上は、愛の告白か殴り合いかの二択。

総評「個性の時代をよりよく生きる青春ドラマの傑作」

 我々の住まう現実社会では、過去に「個性こそが青少年の価値を高める」と標榜し、それに則した教育方針が施され、様々な分野へのふれあいを念頭にした社会になった時期があります。
 そんな世代を懸命に生きた人々に対して、今の社会はまるで手の平を返すかのように、何だか聞こえの悪い、ミョーな表現で彼らを括ったのです。

 本作は、そんな世界へのアンチテーゼとして語られたのか?
 それとも「事実は小説より奇なり」……いや「事実はボイスノベルより奇なり」であって、制作陣と声優さんが作品を作り上げた結果がこうなっただけなのか?

 前述した様々な要素を混ぜ合わせ、まろやかな作品に仕上げているからこそ、私もこのような感想を抱いたのです。皆さんもぜひ、この「ちょっと不思議な物語」を体験して、いろんなことに想いを馳せるのはどうでしょうか?

 このにくじゃがカレー、なかなかに癖になりますよ!
 あ、店長の田中さん、もう一杯もらえますか?


クレジット(敬称略)

▢キャスト
 工藤:ながゆー
 田中:冬衣
 駒田:よね
 先生:とみー
 飯岡:佐藤ユウ
 上野:ありみ
 甲斐田:可糖

▢スタッフ
 音声編集:可糖
 脚本/イラスト/映像編集:佐藤ユウ

丁寧に感想を書いたら、古いネタしか思い浮かばなかった。

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