ボイスドラマ視聴紀行 #28
今回ご紹介するのは、おーたむさん制作のボイスドラマ『そこには光る雪が降る』です。
本編は約29分の長編ボイスドラマになっています。
本作はYouTubeに掲載されているボイスドラマですが、一枚絵が表示し続けられるのみなので、完全に聴取していただくことになります。音声を聞き飛ばさない環境下であれば、いつでも気軽に聴取を開始できるお手軽さが本作の売りでもあります。
制作者のおーたむさんは、声優としてのご活躍も多いです。
特に「市川智彦のボイスドラマ視聴紀行 #09」において、箱舟壱座さん制作の「グレート・オッド・ワン」にもご出演されています。
ただ、彼は紛れもなく作中随一であり、正真正銘の犠牲者(!)であったと思います。そんな可哀想なおーたむさんの出演作品として、紹介記事のリンクを掲載しておきます。
これでいくらか供養になればいいのですが、たぶん「今回も恨み言をぶり返すだけになるんじゃないかなー」と、今から楽しみです。
そんな可哀想な目に遭ったこともあるおーたむさんですが、制作活動も精力的に行われています。YouTubeには短編から長編まで、さまざまな作品が並んでおりますので、ぜひ一度お立ち寄りいただければ幸いです。
ただ、声優業も並行して行われているので、直近の出演作品については「X(旧Twitter)」アカウントでご確認いただく方が早いかもしれません。
作品を聞いた上での率直な感想
いつもなら、序段において「聴取した作品のジャンルを簡潔に書く」のですが……端的に言えば「冒険譚」です。
本当はもっと詳細に書けます。しかしそれは、紹介記事としては全く不必要であり、結果として薄っぺらい評論に成り下がることを意味します。そして何よりも、先の表現は別に不適格でも何でもないので、ジャンル紹介としてはこれで事足りると思います。
本作でもっとも特徴的な部分として「物語の進行が、驚くほどゆったりとしていること」を挙げさせてください。
聴取者が意識せずとも、自然にじっくりと聞き入ってしまう程のスローペースは、コメディーのようなテンポのよさに匹敵するほどの安心感と安定感をそっと心に与えてくれます。これこそが、本作の特筆すべき評価ポイントのひとつなのです。
もちろん、本作がそれだけで収まるはずもありません。
これも詳しくは後述しますが、本作はどこか哲学的でありながらも、とても不思議な雰囲気をいつまでも醸し出し続けています。それは我々の違和感としてではなく、勝手に自然と入り込んでくる……とてもとても不思議で甘い香りのする魅力です。私たちは最後までこの世界に惑い、そしていつか終わりを告げられるのです。
制作陣は何を思い、この表現にたどり着いたのか?
本作は主人公と相棒の関係性なり、ここを軸とした両輪で回そうと考えたのは間違いありません。
ただ、本編中で展開されるアプローチの仕方については、あまりにも特異に思えました。それは安易に「聴取者の虚を突こうとしたのではない」のです。私が確信した要素を排することなく「制作陣が本当に描きたいモノを見事に描き切っている」のです。
タイトルは、間違いなく反映されています。
ただ、そこから動き出した物語は突拍子もなく、人によっては驚嘆するほどの急展開に出迎えられます。そこは前述した通り、聴取者に寄り添うかのようなスローテンポで優しくアプローチするように工夫されています。
しかし、本作は我々に「聞かせよう」とする意図を逆手に取り、次々と仕掛けを打ってきます。それはまるで「人生という名の悲喜劇」を見せられているかのよう……
そう、聴取者を引き込ませるために幾重にも用意された工夫とは、本当に訴えかけたいメッセージを聞いてもらうためです。我々を引き返せない場所まで誘うには、絶対に必要なコトだったのです。
ここまで磨き抜かれた企画立案という名の宝石とは、はたして偶然の産物なのか、はたまた努力の結晶なのか……私には、その答えがまだ見えていません。
難解な脚本ながらも、何気なく聞き続けられる。
そういった経緯で構築された企画立案を脚本に落とし込む作業は、考えれば考えるほど表現の仕方やキャラの動き、ト書きの指示などに悩み抜き、苦しみ続け、結果的に難解な脚本になってしまうケースも多いです。
そこを本作はあえて「ありのままに受け止めて、ストレートに書いて、そのまま出す」を選んだように思えました。なので、結果的には脚本としては難解な部類に入るモノに仕上がったはずです。
それでも、完成したボイスドラマは決して聞きづらさは存在せず、さりとて表現の理解に苦しむ箇所もほとんどない……これは評価すべき脅威だと思いました。
ボイスドラマを聞き終えた後に振り返った時、そのような箇所がほぼ見当たりません。ただ聴取の途中で、私は間違いなく「この作品、変化球?」と思いました。しかし、その正体は軌道にブレなど一切ない、恐ろしいまでの速度を誇るど真ん中のストレート……
演劇や映像の世界では「監督(演出)と脚本は、自分が思い描く方向性でケンカするくらいがちょうどいい。その方がいい作品が生まれる」と言われることがあります。
この作品は真逆を行って成功しています。「企画立案の内容を、そのまま素直に脚本に書き起こして、声優陣に手渡す」という手法は物作りに携わる人間のひとりとして、とても勉強になりました。
その一幕に、声優が光る雪となる。
ご紹介の前にひとつだけ、お詫びがあります。
本作におきまして、出演された声優さんのお名前は確認できるのですが、登場人物との紐付けされた資料が見つかりませんでした。なお、一部だけ確認できましたので、そちらは表記しています。
出演者様につきましては、クレジットにてご確認ください(※なお、紹介記事が公開された後で申請があった場合、随時更新いたします)。
熱心な読書家で冒険とは無縁そうな少年のエミール(CV:みけらん)は、相棒のロイと共に「雪深い山の奥、宝石の降る街があるという」という伝承を頼りに冒険の旅を続けています。
その地には村が存在し、とある老人と出会うことで物語がめまぐるしく展開します。
その後に現れる子供たち、ロイの恋人、悪者たちに絡まれる女性など、全てが人生という名の詩の一篇として描かれ、クライマックスには衝撃の事実が明かされます。冒険の先にたどり着いた先とは、いったい……?
本作においては、特にエミールとロイに演技は大変だったと思います。特にエミール役のみけらんさんは感情の機微を丁寧に演じていらっしゃいます。この場を借りて、お疲れ様でしたと言わせてください!
総評「人間に心があるが故、神に大罪の口実を与えた」
作品を聴取させていただいた感想としては、絶対にこの表現で締め括りたかった。
普通なら、全くの逆で「神が人間の愚かさを嘆き、その様々なる大罪を断ずる」という論調が一般的かと思います。本作においてはその逆、いや、タイトルからは想像もつかないほど飛躍しながらも、ラスト直前でタイトルへと還ってくるという魅力を持った作品に仕上がっています。
「じゃあ、これはヒューマンドラマじゃないのか?」と自問しましたが、これはどうにも収まりが悪く感じる。だからこそ、まるで蜃気楼のような表現である「冒険譚」とぼやかしたまま、総評までたどり着きました。
物語の序盤、中盤、そして終盤へと差し掛かる中で、あなたの心は移ろい変わることでしょう。でも、それでいいんです。
あなたも一緒に、光る雪を見に行きませんか?
クレジット(敬称略・リンクあり)
▢キャスト
みけらん
闇堕ちヒーロー霧鵺
田中
紫陽花
甘巫たいやき
雨音いろみず
十楽ゲスト
是枝留
おーたむ
▢スタッフ
企画:おーたむ
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