ボイスドラマ視聴紀行 #23
今回ご紹介するのは、にくじゃが【ボイスノベル】さんが企画されたボイスドラマ『彼女の理想の死に方【ボイスノベル】【ヒューマンドラマ】』です。
なお、聴取を推薦されたのは、にくじゃが制作者の佐藤ユウさんです。
素晴らしいボイスドラマのご紹介に先立ちまして、作中冒頭でも触れられているため、私からも引用する形で掲載させていただきます。
秀逸なタイトルからある程度は察した方もおられると思いますが、本作は聴取者個人のタイミングを間違えると、あまり良くない印象や気持ちを抱く危険があります。
また、感情の機微もかなり詳細に描かれている作品なので、聴取される場合の精神状況が落ち込んでいない時にお願いします。
ひとりの紹介者として忌憚のない感想を申し上げるならば、本作はとても高く評価できるボイスドラマ作品です。よって、私はこれ以降、本作の紹介を率直に、まっすぐに表現したいと思います。
ですので、上記した内容に不安のある方は、別の作品……そうですね。せっかくなので、過去に紹介したにくじゃが制作のボイスドラマ『みんな田中』の紹介記事を読んでから、楽しくて不思議な作品をご堪能ください!
なお、本作は約40分の長編になります。
タイトルに「ボイスノベル」と冠されています。YouTube掲載のため、視聴も可能な作品になっていますが、個人的には聴取することを強くオススメします。
風景画やセリフなどの挿し込みもあるのですが、ボイスドラマとしても完全に成立していますし、無理に文字を追わずとも十二分に楽しめます。聴取でも視聴でも、お好きな方で聞いていただければと思います。
にくじゃがさんは【ボイスノベル】という形式で『ーーちょっと不思議な物語を音で届けます。』をキャッチフレーズに、様々な作品を公開されています。
先に紹介記事を掲載しましたが、にくじゃがさんの紹介記事は2回目になります。第13回にて『みんな田中』を紹介しています。ご興味を持たれた方は、ぜひ足を運んでみてください!
作品を聞いた直後の率直な感想
本作は、青少年や若者たちの感情の揺れをとても丁寧に描写されている作品です。
視聴を意識した描写は、あくまで補足的な意味合いではあるのですが、ボイスドラマの雰囲気がガラリと変わる気がしました。なので、最初に聴取するか視聴するかを、ハッキリと決めておくといいと思います。
皆さんもタイトルから内容を何となく察するかもしれませんが、本作はそんなに浅いストーリーではありません。なので、長編でありながらも、サラッと聞けるボイスドラマに仕上がっています。
ただ、いい意味で「思春期に立ち向かう話ではないかなー」とは思いました。作品の内容から感じましたが、こういう思考を持つ人は少なからず存在します。それを青少年に置き換えて描写するのは斬新……というか、にくじゃがさんが持つ独自の感性なんだろうと強く感じました。
いわゆる現代劇なので、やや特異な世界観でありながらも、我々の聴取者も物語を先回りして予測できる隙間が設けられています。しかし、そこもガッチリ逆手に取られるので、その辺も楽しんでもらえると思います!
筋の通った芯のあるテーマと曖昧な雰囲気の奇妙な融合
主軸となる思考は、美意識を強く抱く女性が考えそうな内容が盛り込まれています。その対極にあるのが、シンプルに男性です。
しかし、男性も女性も、お互いに「異性は異星人だから」とか言いますよね。男性は正解が欲しかろうと喋ると、女性は答えなんかいらなくて口を尖らせますし、逆に女性が愚痴を聞いてほしくても、男性は「またかいな」と思ってテキトーに聞き流したり……
きっと今の青少年たちも、似たようなコトを感じているのでしょう。
ただ、本作で取り上げているのは、もっと重大で致命的な彼女の思考です。それだけでも問題なのに、さらに男女間の隔たりによってさらに深い溝ができる……という、例によってのにくじゃがワールドが展開されます。
ここへさらに厄介な事象を絡めてくるあたり、この辺は計算ずくではなく、佐藤ユウさんの持った稀有な才能だと思います。
タイトルである程度バレているので、ここでは遠慮なく言及しますが、本作の大きなテーマは「死生観」です。これがあまりにも太く、まるで大樹のような強さで作中に君臨しています。
しかし、本作では「生と死の差異」だけでなく、「様々な事象の差異」をも描き続けます。それでも、後者の描写はかなり曖昧です。無論、意図されたモノです。大樹は頑丈なのですが、枝葉は時として虚ろい、とても薄ぼんやりとした雰囲気が香ります。
この芯のあるテーマを活かすためならば、ドラマの構成……いわば時間軸さえもズラしてきます。これはボイスドラマの軸をブラさないために、どうしても必要なことだったのです。もちろん、聴取に耐え得る名作なので、そんなズレもそこまで気になりませんのでご安心を!
映像や画像、セリフからも強く語りかけてくる
個人的に聴取をオススメするのは、セリフを文字で追うと「演者の言葉が補足される可能性があるから」です。それだけ、文字の力は強いのです。
文字だけのコミュニケーションにおいて、自分の思いや考えが相手にうまく伝わらないのは仕方のないことです。ただ、音声に文字が加わると説得力を帯びることが多い印象があります。
個人的には「聴取した後に視聴する」のが超オススメです。先に視聴しちゃうと、聴取では物足らなくなるのは明白なので……にくじゃがワールドをたっぷり楽しみたい方は、この順序を踏むのがいいと思います。
それだけ、音声編集の可糖さんの組み立てがお上手だということです。この点は、何度も称賛させていただいている気がします。
もちろん、本作は「ボイスノベル」というジャンルなので、視聴から入るのは決して間違いではありません。写真を担当された柳さんのセンスが光ります!
また、視聴するための工夫は万全です。ただ、私はどうしても「2回も楽しめるんスよ!」と声を大にしてお伝えしたいのです。それだけの話ですので、お好きな楽しみ方で本作を聞いてもらえれば嬉しいです。
時に冷静に、時に激情に。
本作も声優陣が難しい脚本に、堂々と向かい合っています!
主人公はおそらく、中学から高校に上がったばかりの上田恭也(CV:よね)だと思います。実際に彼の視点で物語は進行しますし、彼の垣間見せる感情の機微はとても印象深いです。ぜひ最後までお楽しみください。
もうひとりの主人公……というか、タイトルに挙げられる彼女とは、恭也の幼馴染である芳森沙枝(CV:ちーちゃん)を指します。恭也と沙枝の関係性については、ここまでの紹介記事でも予測できるかもしれませんね。沙枝の演技も難しかったと思いますが、とても魅力的に演じてくれています。
高校入試のために通っていた学習塾の教師・津村先生(CV:とみー)は恭也に少なからず影響を与えますし、塾長(CV:冬衣)もなかなかの存在感を放つキャラとして登場します。
ある場面で登場する上田の母(CV:ながゆー)は恭也と沙枝を知る人物であり、彼女もまたキーマンとして活躍します。
とにかく脚本担当の佐藤ユウさんが難しい内容をサラッと書くので、声優陣の全力ファイトは聞き逃せませんよ!
総評「人間の本質を掘り下げるために必要なセンシティブ」
昨今の世の中は、過剰な自主規制やセンシティブな内容を避ける傾向にありますが、本作は「人間の本質を描くために必要なことを、まず主軸に据えた」結果、それが揺るぎないテーマになったという特徴と魅力を持った作品に仕上がっています。
おそらく今まで紹介してきた作品の中で、どなたにでも気軽に聞いてもらえる作品ではない気がします。ただ、ぜひ一度は聞いてほしい作品のひとつであることは間違いありません。
自分が考えてることは必ずしも相手に伝わらないかもしれませんが……私は、このボイスドラマを胸を張って紹介したいと思います。
クレジット(敬称略)
▢キャスト
上田恭也:よね
芳森沙枝:ちーちゃん
津村先生:とみー
塾長:冬衣
上田の母:ながゆー
美術館の係員:可糖
乗客:佐藤ユウ/くじら
警察:佐藤ユウ
電話の声:ありみ
▢スタッフ
写真:柳
音声編集:可糖
脚本/映像編集:佐藤ユウ
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