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ボイスドラマ視聴紀行 #15

 今回ご紹介するのは、やまさんさんが企画されたボイスドラマ『突っ張って見えるが、メッキが剥がれると打たれ弱い』です。
 なお、聴取を推薦されたのは、ハコ 役でご出演の是枝 留さんです。

 以下、文章表現の都合上、敬称略とさせていただく箇所が存在します。あらかじめご了承の上、本記事をお楽しみください。
 また、ボイスドラマを視聴・聴取した上で感想を書き進めるスタイルのため、あえて備考やクレジットを見ずに執筆している場合もございます。

 なお、本作は約42分の大長編になります。
 作品内で聴取を区切る明確な部分が見当たらないため、スタートするとエンディングまで聞き続ける形になります。聴取される際は時間的な余裕を作ってからの方がいいかもしれません。
 ついうっかり再生しちゃうと、本作の濃厚な世界観に引き込まれるので、そのままずっと聞き続けちゃいますよ!

 やまさんは、様々なボイスドラマを企画制作されておられます。
 超短編から大長編のボイスドラマまで幅広く、さらに連続ドラマまで企画されています。これを機にやまさん制作の作品にもっと触れたい方は下記のリンクから視聴や聴取してみてはいかがでしょうか?



作品を聞いた上での率直な感想

 物語の主な舞台は、高校の演劇部です。
 それも高校演劇で全国制覇するような強豪校であり、部員の数もかなり多いのではないかと感じました。全国3連覇のかかった重要な場面で、顧問の教師が用意した脚本を演出するにあたり、主演の女子高校生を主人公に任せるのです。

 もしかすると、この導入部分で聴取に慣れていない方は聞くのを止めてしまうかもしれません。そのくらい序盤のセリフが難解なのは、私も認めます。だって、私のようにいつもボイスドラマを聞いている人間でも「えっ、ちょっとわからん……」と困惑しましたから。

 ただ、皆さんはご安心ください。
 この部分は無理に意識せずに、あまり身構えずに聞き流す形に留めてまったく問題ありません! とにかく聞き続ければ、この真意がわかるでしょうし、きっとどなたでも最後までたっぷりと楽しめること間違いなしです!

 ストーリーは一貫して主人公の視点で進みますので、その辺は聞きやすさなり没入感なりを最大限まで配慮していると思います。ここにフォーカスを当て続け、主人公の掘り下げも丁寧に描かれているので、とてもわかりやすいです。ただ、これを逆手に取ってくる箇所もあるので、その辺は聞いてからのお楽しみというところでしょうか。

ここまで顧問と生徒が従属的な部活、今もあるのかな?!

思春期に自己対話するという構想の描写

 制作陣の意図は「高校演劇のリアルさ」と「部内での交友と競争」などを含めて、「演劇性と反演劇性」という難しい要素をもっと簡単に音声表現することを目指したのかなと感じました。

 ちなみに、私も高校演劇の経験があります。
 強豪校の日常って、ほぼ作中の描写そのまんまだと思ってください。自分が影響を受けた芝居に没頭するも、部内の構想から外れてしまうと端役にも配役されずに裏方のまま過ごす……そんなことがずっと3年続く生徒だってザラにいます。
 その中でも、主人公は本作においては主役に抜擢され、3連覇の重責もある中で自分の演じる役と真摯に向き合った結果、部内だけでなく家庭でもひと悶着あって苦悩します。
 私が語った端役すら与えられない生徒と本作の主人公が感じている苦悩は、本質的には同じモノだと考えます。

 そこで、制作陣は「主人公に自己対話のチャンスを与える」のです。
 プロスポーツの世界とは違い、芸術に関する競争は決定的な不正解はあれど、正解は星の数ほど存在するので、見る人によって順位が変わるのは至極当然のことです。いわゆる「賞レース」はそういった側面を持っています。
 しかし、ここで制作陣は物語に正論を与えない。
 
迷い悩む女子高校生に対して、自分の可能性と実現性をしっかりと悟らせ、さらなる苦悩を……と、そのブレはどす黒い渦のようになり、主人公を惑わせるという描写は「現実性と非現実性」の狭間を行き来するかのような恐怖すら感じる構成へと昇華されています。ここに至るまでの描写が秀逸なので、中盤以降はあっという間に聞けてしまうという作品に仕上がっているのです!

序盤を超えたら、本当にラストまであっという間。

ボイスドラマの編集の腕は随一!

 次は視点を変えて、編集についてもお伝えしておきたいことがあります。
 それは「とにかく聞きやすい」ということ。聴覚的に入る情報があまりにも丁寧で、編集技術は本当に屈指の素晴らしさと思います!

 本作は家の中で声が混ざる部分でも絶妙な匙加減で編集されています。まさに「神は細部に宿る」とはこのことかと唸らせるほどの素晴らしさです。
 とにかく様々な場面で光る編集センスを皆さんにも感じてほしいです!

これだけは別項目として取り上げたかったんです

意外と大変な演技だけど声優陣はがんばってる!

 主人公で演劇部の3年生・桐島由美子(CV:田中)を主軸として物語が動くので一番大変な役柄だったのは言うまでもないのですが……最後の最後まで気の抜けないお芝居だったと思います。素晴らしい演技をありがとうございます!

 主人公・由美子を取り巻く桐島家の人々もまた個性派揃い!
 敬虔なクリスチャンである父・桐島智(CV:井之上賢)は自分なりに娘のことを心配はしていますが、娘の夢を応援する母・桐島こずえ(CV:円海アルト)は自主性を重んじています。
 祖母の桐島さえ子(CV:水沢とおる)これまた難役(!)だったのですが……本当によく演じて切ってくださったなと思います。

 同部の伊藤麻理(CV:パンナコッタ)に加え、謎の存在・ハコ(CV:是枝留)もまた、主人公に多大な影響を与えます。この熱演は聞き逃せませんので、ぜひじっくりとお楽しみください!

 声優陣は誰もが苦労する部分が配されていたかと思いますが、思い切って演じられていて素晴らしかったです。全キャストに拍手を!

男性陣もアクセントになってていいですね!

総評「いろんな是非の狭間をストレートに聞かせる良作」

 現実性と非現実性の狭間、演劇性と非演劇性の狭間、人間性と非人間性の狭間……様々な形の是非を取り上げながらも、その間を奇妙に潜り抜けていく構成がとにかく秀逸です。

 それ以上に、この物語の土台を強く支えたのは、卓越した編集技術だと思います。聴覚的な表現が練りに練り込まれた構成は、まさに他の追随を許さないレベルです。
 さらに言うなら、この題材は取り扱いを誤れば作品のクオリティーにも大きな影響を与えるのですが、それをあっさりと緻密で丁寧に表現し尽くしているのは「さすが!」としか言えません。素晴らしいです。

 聴取者の耳に響くのは共感なのか、それとも甘い誘惑なのか?
 皆さんもその耳で、本作に挑んでみませんか?!


クレジット(敬称略・リンクあり)

▢キャスト
 
桐島由美子:田中
 伊藤麻理:パンナコッタ
 水野翔樹:佐倉亮
 ハコ:是枝留
 桐島智:井之上賢
 桐島こずえ:円海アルト
 桐島さえ子:水沢とおる

 顧問:中村宏平
 女子生徒A:しのぶ
 女子生徒B:ゆっこ
 女子生徒C:いろみず
 女子生徒D:望月なつ
 女子生徒E:月宮はる
 女子生徒F:青木玖璃子
 職人:るぅ@おすいもの

▢スタッフ
 原作・編集:やまさん

感想の意味がわからない方は、ぜひご聴取ください!

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