黒沢清『復讐 消えない傷痕』
ハードボイルドという表現には、どこか感傷が付き纏う。ハードで乾いていても、そこにはそこはかとない甘さがある。チャンドラーのマーロウシリーズを想起すれば納得しやすいだろうか。
今作には、そんな甘ったるさは欠片もない。あるのはただ虚無。哀川翔は精神が空隙になってしまった男を見事に実現させていて、それは『蛇・蜘蛛』へと引き継がれる。
普通のバイオレンス映画を期待して復讐シリーズを観る人もいないだろうとは思うけれど、一応注意喚起しておく。
ストーリーとしてはもはや破綻している。一応筋らしいものもあるけれど、それを追うことに黒沢清は関心を失っている、という指摘を見かけたけれど、まさにそんな感じ。
全体には黒沢清がやりたいことをやり通した結果、破綻した映画ということになるけれど、その分黒沢清濃度はかなり濃いので、好事家には愉しめる逸品ともいえる。
ただ、テクノ風の軽いチャラいBGMは、何なんだろう。
何より復讐二部作のエンディングに流れる哀川翔の歌(作詞作曲も哀川翔)が、作品世界と全くそぐわないテイストで魂消る。黒沢清の意図なんだろうか、それとも何か断れないしがらみがあったのだろうか。冗談じゃねぇ、というタイトルのようだが冗談以外の何物でもない。