黒沢清『クリーピー 偽りの隣人』
つまんないとか辻褄合わないとかいろいろ批判されてるけれど、黒沢清作品にそんなもの求めるほうがおかしいので、今作は紛れもなく黒沢清らしい傑作。
スタスタ歩く人物をロングで捉えながら横へ並行移動するカメラ。ああ、黒沢清だなあと嬉しくなる。造り物感丸出しのスクリーンプロセス、揺れる半透明のカーテン、黒沢清印のショットが次から次へと。
そして何よりあの地下室。素晴らしい耽美的世界。『DOOR Ⅲ』から20年経って、昔の自作のオマージュというか、今ならこんな映像美が撮れるぞという映像作家としてのプライドを感じさせて圧巻。
単なる黒沢清印の模倣ではなく、確実にこれまでのキャリアを超えてくる。
これは映画館で観たかったなあ。
しかしまぁ、くれぐれも、謎が解明される普通のサスペンスを期待する人は観ないほうが良いですよ。
ラストの竹内結子のシークエンスも素晴らしかった。夫・西島秀俊を見て怯えながら、しがみついて叫ぶしかない、深い絶望。どこまで行っても地獄は終わらない。
『地獄の警備員』では、悪は退治されヒロインは解き放たれたけれど、『クリーピー』では一人の悪人が死んでも何も変わらない。ヒロインの出口なしの状況が何より苦く恐ろしい。黒沢清的ホラーの真骨頂。