芝木好子「青果の市」

新潮社の『芝木好子名作選』を読み始めた。二段組の分厚い上下巻、全て読み終えてから読了記録を書くと、読み終えてから時間が経ってしまうので、収録作1作ごとに記録を付けておくことにする。

まずは芥川賞受賞作「青果の市」(1941年)。

戦争中に発表された作品で、同時代的な閉塞感を背景に、戦時下の統制経済の波に翻弄される築地の青果市場で逞しく生きる女性を描いた作品。

短い作品ながら、一人の女性の半生を、くっきりとした輪郭線と、絶妙の陰影で描いて読ませる。

芥川賞の選評ではいろいろ不満点も指摘されているけれど、そんなの些細な瑕疵だろうと思う。

これだけ贅を削いで豊かな文学作品を紡ぐ力は、生半なものではない。本当に、無駄な文章が一つもない印象。

クライマックスは、

八重はつと手を延ばすと結婚祝いの水引を痙攣的に引裂いた。

という一文。同い年の幼馴染みの結婚という出来事が彼女に与えた傷み、それに釣り合うだけの、生きてきたことの重み。グダグダ描写せずただ一文でグイ、と描く筆の力勁さよ。生きることへの執着、その尊さ。

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