『廃市・飛ぶ男』福永武彦
久しぶりに再読、やはり福永武彦は良いなあ。
幻想味の強い「未来都市」や「飛ぶ男」の前衛チックな雰囲気も格好良いし、「樹」「風花」のような作品の人生の断面を斬り取る手際の良さ、そして抒情性豊かに愛の不可能性を描いて読む者の心にしみじみと深い余韻を残す傑作「廃市」、その他も佳作揃いで充実した短篇集。
最後の「退屈な少年」は章ごとに視点が切り替わる手法で、後の長編『忘却の河』や『海市』のプロトタイプのような作品(テーマや雰囲気は全く異なるけれど)。それほど斬新な方法でもないのだろうけれど、福永がこの手法を用いる時、語り手間の断絶、無理解、誤解が世界を成り立たせていることをヒシヒシと感じさせて、切ない。
新潮文庫の表紙は日本画の麻田鷹司。知らない画家だけれど、水墨による抽象画のようで、抒情性と寂寥感、福永武彦の世界とよくマッチしている。福永といえばニコラ・ド・スタールや岡鹿之助など洋画家との組み合わせのイメージが強いけれど、この文庫の表紙はかなり良い。