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黒沢清『ニンゲン合格』

昏睡状態から10年ぶりに目覚めた青年が、家族再生に奮闘する様を描いたニンゲン・ドラマ。監督・脚本は「蜘蛛の瞳」の黒沢清。撮影を「フ・レ・ン・チ・ド・レ・ッ・シ・ン・グ」の林淳一郎が担当している。主演は「冷血の罠」の西島秀俊。第11回東京国際映画祭コンペティション正式参加、第49回ベルリン国際映画祭正式出品作品。

『CURE』の後の黒沢清は、『CURE』の前の『復讐』二部作をリメイクしたような『蛇の道』『蜘蛛の瞳』連作を撮っている。

『復讐』『CURE』『蛇・蜘蛛』というシークエンスは、黒沢清の一つの頂点だと思う。乾いた虚無と滲み出す狂気、ホラー映画の建て付けを取らずに染み入るような恐怖を描いた傑作群。

そこから『ニンゲン合格』である。

ここには狂気も恐怖も虚無もない。
喪った家族を取り戻そうとする青年を中心にしたヒューマンドラマ。

当時もこの方向転換が良く飲み込めなかった。今見返してもやっぱりよく分からない。

『CURE』で鬼気迫る狂気を振りまいた役所広司は、気さくなおじさんとしてニコニコしており、『復讐』や『蛇・蜘蛛』で、虚無を形象化したらこうなった、というような佇まいをしていた哀川翔は、やたら「俺うざくないですか」と他人に媚び、彼女の尻に敷かれて釣り堀を掃除する気の弱い男を演じている。

もちろんそれが駄目と言うわけではなくて、あまりのギャップの大きさに戸惑ったまま、作品が終わってしまうのだった。

ストーリーとしては、事故で青春期を喪い家族も喪った青年が、少しずつ失くしたものを再構築していくプロセスを描いたドラマ。

少しずつ恢復してゆく青年が、事故で亡くなってしまうラスト、「俺は存在していたのかな」と自嘲する青年に「確かにお前は存在したよ」という役所広司の優しい台詞。

生きることの意味を問うヒューマンストーリー、と云えなくもない。山田洋次かよ、というような物語である。もちろん黒沢清なのでそこまでベタベタではないけれど。

ある意味、挑戦作だったのかもしれない。


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