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黒沢清『贖罪』

まずはネタバレなしの感想。

いくつかの夫婦が登場するが、どの夫婦も幸せではない。

蒼井優と森山未來、加瀬亮とその妻、池脇千鶴の姉夫婦、そして小泉今日子と田中哲司、香川照之と唯野未歩子。

もう、ムネヤケするくらいに、拗れた夫婦のオンパレード。

この作品のあと、『岸辺の旅』から『散歩する侵略者』を経て『スパイの妻』と、夫婦愛礼賛映画を撮り続けるわけで、なんだこの振り幅の大きさは。

まあ持ち込まれた企画がたまたまそうだった、というだけのことかもしれないけれど。

ミステリーとしてはまぁ、いちおう筋は通っているのかな。ところどころ腑に落ちない伏線もあるけれど(小池栄子の最後の台詞とか、あれはなんだったんだ?)、黒沢映画なのでそれはまあ。

各話女性が主役ということで、それぞれの女優さんたちの演技が素晴らしい。

苦い後味の物語、黒沢清の映像との親和度はバッチリで、見応えのある作品に仕上がっている。

以下ネタバレ。


池脇千鶴の「とばっちり」という台詞そのまんま、小泉今日子に八つ当たりされて人生狂わされた少女たちの悲劇。

そして、自分自身の罪によって娘を殺されるという報いを受ける小泉今日子の自業自得ぶり。

とにかく救いのない話。タイトルの贖罪の意味が、物語の冒頭とラストで変わってしまう。このあたりのストーリー作りのうまさは、原作があるからだろうか?未読なので分からないけど。

夫婦というモチーフと同時に、親子という関係の不確かさとかも大きなテーマになっている。歪んだ親子関係が、悲劇を増幅させる。

浮気とその結果の妊娠、産んだ子供を夫の子と偽って育ててきたという罪を犯し、その子供を実の父親である昔の恋人に殺されるという報いを受け、無関係な少女たちに呪の言葉を投げつけて人生を狂わせたことに気づかないまま生きてきた、そのことに気付かされる小泉今日子。

ラストの呆然とした小泉今日子を包み込む霧。

何とも切ない悲劇。不幸な女たちの中で、ただ一人、罪を犯してそのことが露呈しない池脇千鶴という悪女のみが、幸せなように見える。それもまた、苦い話だ。

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