『世界名詩集15 ベルトラン・ランボー・ロートレアモン』

象徴詩はよくわからない。わからないのに、時々手を出して見る。やっぱりわからない。だけどまた読む。

そんなこと繰り返してばかりいる。ということはつまり、嫌いではない、ということなんだろうと思う。

抽象画を「よくわからない」という人に、「わかる、わからない、ではなくて、好きか嫌いか、ですよ」と反論?するのだけれど、それと同じように、象徴詩も、わかる、わからない、ではなく、好きか嫌いか、で受け止めればよいのだろう、と開き直っている。

よくわからない言葉の波の中で時折、はっと眼を見張らされるような表現がある。それだけで良いじゃないかと。

この巻には、ベルトラン『夜のガスパール』(訳・伊吹武彦)、ランボー『ある地獄の季節』『着色版画集(イルミナシオン)』(訳・寺田透)、ロートレアモン『マルドロールの歌』(訳・栗田勇)が収められている。

どれも歴史に残る傑作とされ、訳も評価の高いもので、とてもお買い得な一冊。重いのが珠に瑕で、詩はバッグやポケットに気軽に突っ込んで持ち歩きたいのだが。

集中、『マルドロールの歌』の、“老いたるわだつみ!”というフレーズが繰り返される章が特に良かった。

 老いたるわだつみよ、水晶の浪をもつものよ、あなたはなぐられた見習水夫の背中にのこる青痣にそっくり似ている。あなたは大地の肉体に印された無限の青。僕はこの比較がすきだ。こうしてあなたをひと目見ると、爽やかな海の微風のささやきともおもわれる、悲しみのながい吐息が、ふかい感動にゆすぶられた魂に、消すこともかなわぬ痕跡をのこしてふきすぎる。そして、あなたを恋するものたちの記憶のなかに、いつもそれと気づかぬうちに、人類の苦難にみちた原始時代をよびさます。そのとき人は苦悩を知り、苦悩はもう二度と去ろうとはしなかった。ぼくは、あなたをたたえよう、老いたるわだつみ!

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