芝木好子「湯葉」「隅田川」「丸の内八号館」
『芝木好子名作選(上)』に収録されている連作短編。
「湯葉」では、明治期を舞台に、湯葉屋の養女になった蕗の半生を描く。
「隅田川」では蕗の孫娘・恭子の、十代の少女の視点で父親やその周辺の世界、そして「丸の内八号館」では戦時下の閉塞した社会情勢の中で、会社員として働き出した恭子が新しい一歩を踏み出すまでが描かれる。
著者の自伝的要素の強い連作らしい。
相変わらず文章は素晴らしく、媚びるところも贅(むだ)もなく、真っ直ぐに磨かれた言葉の連なり、読んでいてグイグイと引っ張られる力強さ。
「湯葉」では、封建的家制度という桎梏に抗いながらも、次第に自分自身が子供達にとってやはり抑圧的な存在になってしまう一人の女の存在を描いて、何ともやるせない。
「隅田川」では、父との葛藤に悩む少女の思春期特有の揺れ動きが細やかに綴られ、その少女が成人して恋を知り、社会の理不尽を知り、自分の足で歩むことを決意する「丸の内八号館」まで、ある一家のサーガとでも言うべき、連綿たるドラマに、ページをめくる手がもどかしくなる。
世間や社会に翻弄されるのはいつの世の女性も同じ、しかし、少しずつ世界は変わっていて、祖母・蕗と恭子では、その歩む道筋はまったく違う。
そこが希望でもあり、作家としての著者の意思表示なのだろう。力強い作品だった。