『夢みる少年の昼と夜』福永武彦
1950年代に書かれた短編を集めたもの。単行本として刊行された3冊の中短篇集を文庫2冊に編み直して、本書と『廃市・飛ぶ男』とが新潮文庫に収められた。どちらも今は品切れなのは残念なことだ。
『廃市・飛ぶ男』が比較的長さのある中編的なものを中心に編まれていて、本書は短かいものを中心に集められている。
読み比べてみて思ったのだけれど、福永武彦はある程度長さのある作品のほうが本領が発揮されているんじゃないだろうか。単なる僕の好みの問題かもしれないけれど。
本書では巻末に置かれている「世界の終り」が一番長いのだけれど、これが一番印象が強い。前衛の香りのする文体で語られる冒頭と最後の2つの章は、今読んでもすごい。壊れていく人間の精神を、言葉でこんなふうに描写できるものなのか。
その他、藝術の中の狂気を描いた「鏡の中の少女」や、生の不確かさに揺れる精神の不安定さを描いた「死後」など、人間の精神の脆さをテーマにしたものが多く、読後感はやや重く苦い。
どれも悪くない佳品揃いなのだけれど、どうももう一つ散漫な印象で終始してしまうのは、やっぱり枚数が足らないからなんじゃなかろうか。少なくとも「廃市」くらいの分量があったほうが、福永武彦本来の魅力が味わえるような気がする。
ところで新潮文庫のほうは品切れなんだけれど、小学館のP+D BOOKSレーベルから同じ内容のものが再刊されている。
新潮文庫を底本にしたものだと思うのだけれど、タイトルが何故か「夢見る」と、“見る”が漢字表記になっている。新潮の全集や、電子版全集でも「夢みる」の表記なので、「夢見る」と表記したバージョンがあるとは思えないのだけれども。
※このパラグラフについて福永武彦研究会会長の三坂氏からXでご指摘がありました。僕の記述は事実誤認でした。大変失礼いたしました。
『廃市・飛ぶ男』の感想はこちら。