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橋本槇矩 編訳『アイルランド短篇線』

アイルランドでは長篇小説よりも「個々の生」を物語る短篇小説が発達した.ジョイス,オフラハティ,オブライエン,トレヴァー等々,アイルランドを様々な角度から照らし出すバラエティに富んだ傑作短篇15篇を精選.本邦初訳多数,魅力満載の1冊.緑色のオムニバス(乗り合いバス)に乗って,紙上旅行に出かけませんか.

オムニバス短篇集を読む場合、個々の作品そのものとは別に、どのような視座、コンセプトで集めたかという点が一つの読みどころになる。
本作の場合はアイルランドという国の習俗、政治、倫理、宗教など、この国の歴史を貫いて揺るがない文化的なアイデンティティを感じさせる作品が選ばれていて、読み進めるに連れてアイルランドという国の輪郭が浮かび上がる仕掛けで、楽しく読み進められた。

ジェイムズ・ジョイス、フランク・オコナー、ウィリアム・トレヴァーなどビッグネイムも収録されている一方、知らない作家たちの作品も粒揃い。

アイルランドという国の帯びる、憂いや重苦しい空気が印象的で、オコナー「国賓」などは特に政治的テロリズムが主題化されていて、虚しさと苦い後味が強烈。

ジョン・モンタギュー「罪なこと」は、性的に保守的な共同体の中で、それに反発するフランス女性の姿、アイルランドの保守倫理の根強さにやはり苦味が残る。モーリヤックとボーヴォワールを愛読する、というキャラ設定が結構ツボ。


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