黒沢清『旅のおわり世界のはじまり』
前田敦子さんはそんなに興味が持てない(というか積極的に避けたい)俳優さんで(ファンの方ごめんなさい)、『セブンス・コード』でもやっぱり苦手意識が先に立って楽しめなかったので、今作も観ようかどうか迷ったのだけれど、こちらはなかなか良かった。
どういうところが良かったのかつらつら考えてみると、まずは加瀬亮さん。思い惑う主人公に優しく励ましの言葉を伝えるシーンが特に印象的。
染谷将太さんや柄本時生さんも凄く良くて、ドキュメンタリー風の映画、という二重の入れ子のような枠組みをしっかり支えている。
そしてウズベキスタンの街の魅力。日本とウズベキスタンの国交樹立25周年及びナヴォイ劇場完成70周年記念で作製された映画とのことで、ウズベキスタンや劇場はとても魅力的に撮られている。さすがは職人・黒沢清。
作中で、現地の警察官が前田敦子に説教するシーン、「話し合わなければ分かり合えないではないか」という言葉、とかく内にこもりがちな我々日本人への、黒沢監督からの穏やかなメッセージ。外から観ないと分からないこともある。
あとシンプルに凄かったのが、街なかの遊園地の回転遊具。想像の10倍くらい回ります。これスタントなしで3回乗った前田敦子さん、さすがの根性です。好き嫌いは別にして感服しました。
一方残念なところは、前田敦子さんの歌。劇中、二度「愛の讃歌」を歌うのだけれど、もう少し声量があればなあ、と思う。
特に一回目はオーケストラの演奏に声が負けている。ミックスで何とかならなかったのかな。良い場面だっただけに勿体ない。
まぁ、なかなかミュージカルのオーディションに受からない歌手志望、という設定に忠実といえばそうなんだけど。幻想といか夢想するシーンなのだから、リアリティは要らない。
二回目の、いわばこの映画のクライマックスシーン、壮大な自然の中での歌唱も、自然の光景に声が負けている。感動的シーンだっただけに、もう少し声量があればもっと良かった。『サウンド・オブ・ミュージック』へのオマージュなんだと思うけど、それならなおさら…
黒沢監督のインタビュー記事がありましたのでリンクしておきます。