中之島香雪美術館 特別展示「北斎と広重 冨嶽三十六景への挑戦 江戸東京博物館コレクションより 」
会期終了前日の土曜に滑り込みで観てきました。金曜に大阪で仕事が入ったのでそのまま一泊して朝イチで美術館へ。この作戦が奏功して、入場制限される前に会場にインできました。それでも開場15分前に行ったらもうそこそこの行列で、北斎と広重の2大スター競演の人気は凄かった。
さて北斎と広重、浮世絵界の2大スターの競演ですが僕はどちらかというと広重派でした。『江戸名所百景』のあの斬新な構図がとても好きで。だから今回も広重を観たいという思いのほうが強かったのですが、それよりも、この二人をどんなふうに対比させ対置するのか、そこからどんな“物語”が紡ぎ出されるのか、興味をかれました。
タイトルにもある通り、北斎の一つの大きなピークである『冨嶽三十六景』にフォーカスし、それをフューチャーして展示を構成するとともに、広重が北斎の富士をどう捉え乗り越えようとしたのか、広重の描いた富士からその企みを読み取ろうとするような展示でした。
言ってみれば、同じautmn leaves を聴き比べることで、二人のミュージシャンの特徴や個性を確認するような(ちょっとちがうか?)。
しかし主催者側の企図とは別に、あまりに北斎の冨嶽が素晴らしくて。
少し前に『広重ぶるう』というドラマを見した。その中で、北斎が広重に“お前みたいにベロ藍は使えない”と、広重の才を認める発言をするシーンがあったのですか、どうしてどうして、北斎のベロ藍の素晴らしさは、広重に先行しているじゃないですか。
今回の展覧会の作品のチョイスもあるのでしょうが、北斎のベロ藍の美しさに比べて、広重はむしろ抑えた色彩の「蒲原 夜乃雪」などのほうが印象に残りました。
広重の出現に慄く北斎を描いた藤沢周平の初期短編『溟い海』でも、北斎は『蒲原 夜乃雪』を観て、そこに広重の絵の力を見出し、その才能に戦慄しましたが、まさに藤沢作品をトレースするような鑑賞体験となりました。
(『溟い海』は『暗殺の年輪』に収められている)
ほぼ全作品撮影可能でしたが、敢えて一枚も撮影せずに観終えました。
中之島香雪美術館は、神戸にある香雪美術館の別館で、朝日新聞社創始者・村山龍平のコレクションを展示している美術館です。朝日新聞本社のあるフェスティバルタワーにあり、朝日新聞社と村山龍平の足跡についても、詳しい展示があります。
また神戸の村山龍平邸についても詳細なジオラマがあったり、茶室を丸々美術館内に再現していたり、村山龍平の美的価値観を体感できます。
昨今の朝日新聞の凋落には目を覆うものがありますが、朝日には村山龍平氏の精神を復興して、また格式ある論陣を張ってもらいたいものです。