『風の便り』小山清
太宰治に師事した作家の晩年のエッセイ集。
小説を読んだことがない(どころか、名前も知らないままに読み始めた)のだけれど、ふとした描写や視点に、何とはなく著者の人柄が感じられる一冊。きっとはにかみ屋で照れ屋だったのだろう。そして、裏表のない素直な人柄だったのだろう。
そして、人と人との縁や繋がりを、大切に思って生きた人なのだろう。
来し方について、故郷について、とくに捻りもない素直な文章。押し付けがましいところもなく、この本の装幀のように、柔らかく穏やかな世界。
離れた友に語りかける「夕張の友に」、生まれたばかりの娘の様子を親バカ度全開で綴る「美穂に寄せて」「再び美穂に寄せて」が特に良い。
そして太宰治について触れた「矢車の花」、短い文章ながら、小山の心に生き続ける太宰への思いの深さ。
これと言って迫ってくるようなヒリヒリとしたものもない、あっさりとした文章なのに、ただ流れ去っていくだけではなく、読む者の心に爽やかな空気を残していく、案外文学的なしたたかさもある。
ところどころに貼られた手貼りの挿画も良くて、印象深い一冊。