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三木美術館『おめでたいとはどういうことか?』展
日本では古来より新年を祝う文化がある。昨年までの感謝としてお世話になった方々に
年賀状を書き、この新たな年に向けて準備をする。今年の健康と安全を祈るために初日の出を見て、初詣に行く。親戚で集まり、お屠蘇を頂き、お節料理を食べて、お祝いする。一年の計として書き初めをし、志を新たにする。
このようなおめでたいときに喜び伝えることを「寿ぐ(ことほぐ)」という。
今回はそんな日本に根付く「寿ぐ」絵画や陶器の作品を集めてみました。富士山、鶴、日の出、赤、など日本人はこういうものを「おめでたい」という感覚でとらえるのだということを感じていただければと思います。
タイトルの疑問文は、何を投げかけているのかイマイチ判然としませんが、まあとにかくおめでたい作品を集めた展覧会でした。
初日の出、富士山、鶴といったモチーフの作品を集めています。いくつか印象に残ったものをご紹介。
牧進「楽栄」
牧進の作品は他にも出ています。いずれも牧進らしい立体感のあるくっきりとしたモチーフが印象的ですが、中でも「楽栄」の富士山のきりりとした佇まいが素晴らしい。手前に意匠化された紅白の梅があり、その柔らかさと、富士の輪郭の厳しさとの対比が、新年の喜びと厳粛さを湛えています。
松林桂月「霊峰富士」
墨で描かれた富士の形が、牧進のきりりとした富士とは違って、よろよろというかなんというか…一方、手前にはすっと立つ松林。現世の松林の向こうに雲に霞むよろよろとした富士、この世とあの世との境界を描いたような。
中根寛「朝陽富士」
朝陽に紅く染まる富士。手前に大きく広がる湖面に映し出される富士は、湖面の細波に揺れる。夜明けすぐ、すでに湖には船が出て漁に出ているのか養殖場で作業しているのか…
湖面や、富士の山肌の細やかで滑らかなグラデーションが美しい。カンバスは荒目の布で、筆の円やかさがなおさら際立つ印象を受けます。
那波多目功一「湖上富士」
中根の作品と似た光景ながら、こちらは夜明け前のようで薄暗く、富士の麓の町や家並みの光景は、目を凝らさないと見えないくらい、闇に沈んでいる。深く静かな湖はしんとして、すべての音が水の中に吸い込まれていくような静謐な空間、時間。
三木美術館のnoteで那波多目功一さんが紹介されています。「湖面富士」の画像も。
また、那波多目さんの『白耀』は常設展示されていて、いつ見ても圧倒されます。
陶芸作品では(三木美術館の展覧会はいつも絵画と陶芸との組み合わせです)、荒川豊蔵・作、前田青邨・絵付の志野茶碗が印象的でした。青邨らしいとぼけた?梅に、志野らしい白い釉薬がかかって、不思議な幻想味が感じられます。
その他、10m離れたところからでも、「あ、絹谷幸二の絵やな」と分かる、ド派手で金ピカな富士の景色なども、好き嫌いは別にして(苦笑)存在感ありました。
新年最初の展覧会、他に観覧客はおらず、静かな空間でゆったりと過ごしました。
さて、今年はどんな作品と出会えるでしょうか。これまで足を運んだことのないような、いろんな美術館を訪れてみたいと思っています。