真夜中3時、刑務所からの電話。
電話が鳴った。真っ暗な寝室にスマホの青白い光が浮かび上がる。時計を見ると夜中の3時だ。こんな時間に電話してくるのは、何度言っても時差を覚えないアメリカの友人の誰かだろう。
眠い目をこすりながらスマホを充電器から抜くとベッドから出て、家族を起こさないようにそっと仕事部屋へ向かった。
「....Hello」仕事部屋のドアを閉めると同時に応えると電話の向こうからはガヤガヤとたくさんの人の気配がした。「Hello,you there?」予想通り、高校からの腐れ縁ジョージの声だった。
「何があったの?」と聞くと彼は「いま刑務所にいる。ってか大丈夫?そっちは何時?」と落ち着かない声で答えた。(やっぱり......)そんな予感はしていた。というのもこの数か月彼と全く連絡が取れなかったからだ。そして10日ほど前突然、彼の友人を名乗るポールという男から「ジョージは今ある事情でスマホをみれない。君と連絡を取りたがっているから、電話番号を教えてくれないか。」とメッセンジャーがきたのだ。
「3 in the morning.そんなことはいいから、何があったか話して」と低い声で返した私に彼はこれまでのいきさつを話した。
7月に入って間もない頃、突然移民局に捕まった。それから4か月間拘束されている。弁護士を6000ドルで雇ったが、強制送還の判定を覆せずあと3週間ほどで母国ボリビアに帰ることになる、と。
彼は中南米ボリビアからの移民で10歳の頃、母親とお兄さんと3人でアメリカに渡った。お兄ちゃんのクリスと私は同じ歳でわたしたちはアメリカのヴァージニア州というところにある高校で知り合った。クリスは高校を卒業してまもなくボリビアに帰っていったが、母親とジョージはアメリカに残り、彼は大学へ行き、それから仕事に就いた。
一時期、一緒に暮らしていたこともあり、わたしたちは仲がよかった。ケンカもしょっちゅうしたが、わたしは彼を弟のようにかわいがっていたのだ。私が日本に帰国してからも時折お互いの近況を報告し合った。
「I'm sorry」私は目頭をおさえつぶやいた。彼は人生の3分の2をアメリカで過ごしてきた。子供もいる。同じころに移民してきた友人の多くはもうグリーンカードを持っている。彼がなぜグリーンカードを今まで取得できなかったのかはよくわからないが、今となってはもうその原因を追究してもなんの意味もない。
「トランプが大統領になってからめちゃめちゃだ」と彼がぼやく。わたしは静かに深呼吸すると「それで、これからどうするの?」と聞く。ジョージは「わからない。ボリビアには帰りたくない。仕事もないし、あそこにいてもね。。。日本にでも行こうかな。ははっ」と力なく笑った。
何を簡単に言ってるんだ。と思ったが「日本の移民に対する制度を何も知らないのでとにかく調べておく」と言うとジョージは「自分はやれることはもうやった。次に進むだけだ。jailからのインターナショナルコールは高い、また電話するよ。」と言って電話を切った。
急にしーんと静まり返った部屋で、ふぅーと大きなため息をついた。身体が冷えて縮こまっていたことに気付く。
少なくとも彼が事態を受け入れていたことに安堵した。そりゃもちろん、最初は辛かったと思う。なんで自分が?もっとお金を出していい弁護士をつければもしかしたら残れたかもしれない。とも言っていた。でも何が命運を分けるのかはわからないのだ。最善を尽くした結果がこれなら、受け入れて前に進むしかない。
移民について調べよう。私に今できることはそれしかない。私はうーんと上に伸びをするとそのままPCの電源を入れた。
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