IBM Fellow二上哲也が語るWebSphereのこれまでとこれから
今年、IBM MQとDb2は30周年。WAS(WebSphere Application Server)は25周年を迎えます。3製品のアニバーサリーを記念して、弊社では3製品にまつわる方々へのインタビューを行っていきます。第2回目となる今回は、IBM Fellowの二上さんにインタビューを行いました。
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二上さんが入社して最初に出会った製品との関わりについて教えてください。
ー(二上)実は私はWebSphereができる前からWebSphereと接していたんです。1990年に入社したのち、上司からCORBA(*1)という標準技術をアメリカで作ってるので勉強してきてくれないかと言われました。初出張でUSのAustinに行き、後にコンポーネントブローカーと呼ばれるCORBA製品の開発チームに入って勉強して日本に普及させました。
Austinには小さいMTGルームにPCがいっぱいあって、そこでCORBAのC++のサーバーを動かしてテストしていたときに、横で作業してたアメリカのIBM社員に「君もCORBAやってるの?」と聞いたら「いや僕はCORBAじゃなくてJavaやってるんだ。今日初めてJavaサーバーが動いたんだよ!」と答えてくれました。1996年頃はもちろんJavaScriptはなくて、Javaというとクライアント上のブラウザでアニメーションが動いたりするアプレットが中心でしたが、サーバーの上でJavaを動かそうというのがその頃から始まっていて、それが実は後のWebSphereだったんですね。
私はWebSphereではなくてC++のCORBAというサーバーを1998年くらいまで担当していたのですが、WebSphereのversion1,2がでてきたときに、「Austinで動かしてたあれだな」と思って見ていました。
実際にWebSphereに関わり始めたのはv3.0からで、WebSphere v3.0のβ版を毎週幕張で導入しては導入方法や新しい機能を学んで、情報を広める活動をしつつ、WebSphereのテクニカルサポートをしていました。WebSphereがメインでそこからアクセスされるDb2やMQなんかも見ていたって感じですね。
ー(岩片)WebSphereが生まれてWebSphereという名前になる前から関わりがあったんですね。当時は25年も長く使われるような製品になると思ってましたか?
ー(二上)全く思ってなかったです。当時はCORBAのC++をやっててJavaってそんなのもあるんだ、くらいに思ってました。その後WebSphere v3.5くらいの時にCORBAのC++をWebSphereに統合しようというプロジェクトががあって、CORBAのいろんな機能をJava化してWebSphereに入れたんです。それが後にJava Enterprise Editionと呼ばれるようになりました。
CORBAの機能がWebSphereに入って分散オブジェクト通信機能、例えばRMI over IIOPやEJB、あれはCORBAの規格で出来てるんですね、他にも分散トランザクションや分散セキュリティーはCORBAから移植されてWebSphere Enterprise Editionになったんです。CORBAがWebSphereに統合されるのと同時に私もWebSphereの世界に入って行ってそこからずっとやってきた感じですね。
ー(岩片)二上さんが日本に持って帰ってきたCORBAの技術がWebSphereを進化させていったんですね。
ー(二上)そうですね、私が進化させたんではなくて開発元が進化させたんですが笑。
当時は分散トランザクションとか分散オブジェクト、分散セキュリティーって結構難しい考え方でしたが、WebSphereに適用された時にCORBAで学んだ知識を活かして普及に貢献できたかなと思ってます。
これまでDEやIBM Fellowといった様々な役職を経験されていますが、WebSphereで印象に残っているプロジェクトはありますか?
ー(二上)自動車会社様やカード会社様の大規模WebSphereプロジェクトをやらせていただきましたが、どちらもIBM zのメインフレーム上で稼働するWebSphereのz/OS版のプロジェクトでした。それが印象に残っていますね。
どちらのプロジェクトもリードアーキテクトとして参加していましたが、アーキテクチャやフレームワークを作るところから実装まで参加して、その作ったシステムで車が生産されたり、カードの明細書が出てきたりした時に「自分の作ったシステムで世の中の仕組みが動いてるんだ」と思って嬉しかったですね。そういった大きいプロジェクトに携われたのが印象に残っています。
ー(岩片)そういった参加されたプロジェクトの中で苦労した経験はありますか?
ー(二上)たくさん苦労しましたね笑。2000年から2010年くらいまではWebSphereが普及してきた時代で、最初から製品が成熟しているわけではないのでいろんなトラブルが起きまして、あちこちのサポートに入りました。だいたいトラブルって金曜の夜とかに起こるんですよ。それで土日忙しくて大変だったりしました。その時、自分が楽になるためにも、トラブルが起こる状況をなんとかしないといけないなと考えたのが「標準開発フレームワーク」です。
2004年にブランド部門からサービス部門に異動して、当時現場で一番使われていたフレームワークであるWeb Application Components (WACs *2)の責任者にしてもらい、WACsを標準フレームワークにしていただき統一しました。そこから品質が安定してトラブルが減って、私も心穏やかに過ごせるようになりましたね。プロジェクトや部門毎ではなく、フレームワークを統一して品質を安定させていったのが私のWebSphereに関する活動では大きなものでした。
ー(岩片)今のお話を聞いて、二上さんが今コンサルティング事業部で推進されているデジタルサービス・プラットフォーム (DSP *3)に、昔のWebSphereのプラットフォームの「共通化」の経験が今の仕事にも生きているのかなと感じました。
ー(二上)そうですね、「共通化」は私の1つの成功体験としてありますね。共通のフレームワークによってある程度使い方を標準化したり、一つのフレームワークを継続的に改善していくことでお客様システムの品質向上に貢献したりできるとそのとき学びました。その後もコンサルティングではフレームワークではなくアセットと呼んでいますが、SOA(*4)とかDSPといった共通の基盤を提供することで各プロジェクトで品質を向上するための取り組みを行なっています。
ー(岩片)コンサルティング事業でもさまざまな活動をされてますが、二上さんの活動の根底がわかった気がします。
ー(二上)はい、技術が変わってもやることは変わらないと思っていて、最新技術を理解して、検証し、安定して動く仕組みを作って、お客様に安心してお使いいただくというのが重要だと思っています。
WebSphere・MQ・Db2の強みはなんだと思いますか?
ー(二上)私はWebSphere・MQ・Db2のいいところってやっぱり変わらない良さだと思ってます。
私たちIBMからすると、製品をお客様に使っていただきたいから「新しい機能こんなのあります」とか「こんな事で新しいことができるようになりました」と新しいことばかり伝えようとしてしまうんですよね。でも、すでに製品をお使いのお客様は新しいことより今動いているシステムををいかに安定稼働させるかということや、作ったシステムによってうまく業務が回せるようになることだったり、手間を減らして運用を楽にするっていうようなことが重要だったりします。我々が思っているよりも安定性を重視されるケースが多いんです。なのでいかに安定性を担保していくかが大事だと思います。ただWebSphere・MQ・Db2といった製品は今まさにコンテナ化されどこでも動くようになって、そういった中身の進化はしてると思っています。アプリケーションは変えずに中身の運用が楽になったり、自動化を進めるという流れは、さらに加速していくと良いと思っています。
ー(丹羽)なるほど。お客様の求める安定性は維持しながら製品が進化していく必要があるんですね。
ー(二上)あと、WebSphere・MQ・Db2のようなミドルウェアって、電車で言うと線路みたいなインフラだと思うんです。線路って普通に敷いてあるしその上でいろんな電車が動きますよね。さらに線路の規格も決まっていたり。そういう標準化されてオープンな形でみんながを使えるインフラがいつも動いてるのはすごく大事だと思います。もう一つ大事なのはインフラをすぐに直せる体制です。普段は全然意識しないけれども、線路が壊れたりしたら大変なことになりますよね。これがすぐに直らないと社会的に困ってしまうのですぐに直せる体制はとても大事なんですが、IBMのいいところはそれが出来るところだと思っているんです。
製品に何か問題が起こったら製品の専門家や誰かが行ってすぐに直して、トラブルが修正できる、それができるスキルを持った人材や体制が整っています。お客様が安心してお使いいただくためには、いかに製品やシステムに問題ないように日々メンテナンスして運用していくかというのはとても重要です。
WebSphere・MQ・Db2、この三つの製品が25年30年と長く続いてきた製品ですが、二上さんはこれらの3製品はIBMの中でどのような位置付けの製品だとお考えですか?また3製品がこれからどんな風にIBMを支えていくのか展望はありますか?
ー(二上)線路の話をしましたが、WebSphere・MQ・Db2はまさに線路みたいなもので、安定してみんなを支えるインフラだと思っています。けれどもやっぱりその上でアプリケーションのようなお客様が使いやすい、便利なものやシステム構築できるようになるものを提供していくことが大事だと思います。さらに今はDXやクラウドといったワードがトレンドですが、そういった新しい環境に対応していくことももう一つ重要な点だと思っています。IBMもIBM Cloudを提供していますがお客様はいろんなクラウドを使っていらっしゃいますので、そういった他社のクラウドも含めしっかりサポートしてどこでも安定して動くようにしていく事がとても大事だと思います。
ー(目野)先ほどのお話の中で変わらない価値の話もあったと思いますが、変わらずにお客様に安定して提供して行く価値と一緒に、時代の変化で変わっていくニーズに対応していくというところが重要なんですね。
ー(二上) そうですね、やっぱり時代の流れやユーザーが求めているものって変わってきてると思うんです。WebSphereの大きなプロジェクトをやっていたとお話ししましたが、その頃のプロジェクトは数年かかるのが当たり前で、それが普通な時代でした。でも今は長くても1年、場合によっては数ヶ月でアプリケーションをリリースしていくみたいなスピード感ですよね。こういった変化に我々も追随してサポートしていかなきゃいけないと思っています。例えば開発スピードを早めるですとかミドルウェアのセットアップもより楽に、すぐにできるようにする、そういった新しいことが求められてますのでそこをしっかりIBMがサポートしていけたらなと思ってます。
ー(岩片)ちょっと話がずれてしまうかもしれませんが、WebSphere・MQ・Db2の3製品ってよくレガシーな製品と言われることが多いんです。ただこれらの製品担当営業としては時代の変化に追随していって、オンプレ、クラウド、コンテナ関係なく使えるのってすごいことだと思っています。二上さんはこれら3製品に対しての思いはありますか?
ー(二上)WebSphere・MQ・Db2の製品にも新しい機能が入ってきてどんどん進化はしてきてますけども、その進化自体は他社の製品も同じですし、クラウドやデータベースでもオープンなものが出てきてます。そういった選択肢がある中でお客様がIBM製品を使っていただいている理由は私はやっぱり人だと思ってるんですよね。何かあった時にしっかりサポートさせていただいて、それを直すことができたり、お客さんの新しいことに挑戦したいという要望にしっかり提案できる体制だったり。今はオープンソースがたくさん公開されていますからそれを使えばいろんなことができますが、それって何かあった時のサポートが難しかったり何か新しいことしたい時に相談する相手がいなかったりするんですよね。そういった部分をIBMがサポートできていることが製品にとってはすごく重要なことだと思っています。なので製品を進化させていくと共にサポートする側がしっかりサポートさせていただいてお客様に安心して使っていただけるというのが私はIBM製品の一番いいところだと思います。
ー(岩片)私も最近お客様から「IBMさんのサポートがあるから決めたよ」というお言葉をいただいたのを思い出しました。
ー(二上)そうなんです。例えば車を買う時もすごくサポートしてくれる会社と、売ってる車はいい車だけどなんか放置されてしまう会社だったらやっぱりサポートしてくれる会社を選びますよね。それと同じで結局、最期は人だと思います。なのでしっかりお客様に向き合って、お客様のご要望をちゃんとお聞きしてサポートしていく体制が一番重要だと思ってます。
最後にWebSphere・MQ・Db2の3製品をご利用いただいているお客様やパートナー様、またこれからご利用いただくお客様に対して、3製品の期待やメッセージをお願いします。
ー(二上)先ほども少し触れましたが、利用者側のお客様とパートナー様から見ると製品が安定していることが一番大事だと思います。社長の山口さんが最近発表した5つの価値共創領域(*5)の中で一番に安定稼働の実現があったと思いますけど、私は本当にそうだと思ってまして、我々IBMが届けるものは安定稼働という安心感、安全が一番重要だと思ってます。そこを先ほども言ったようにこう我々IBM社員総力を挙げてお客様サポートしますので、安心して製品をお使いいただきたいと思いますし、製品提供側もご利用いただくお客様に負荷がかからないようにコンテナ化や自動化といった製品を進化させていきたいと思っています。ぜひ 今後ともIBMのサービスや製品をご愛好いただけたらと思っています。よろしくお願いします。
ー(二上)そういった意味で人とサポートが大事ですのでIBM社員の皆さんもますます頑張りましょう!
文責:大濱美月(Data, AI and Automation 事業部 アニバーサリー広報チーム)
撮影者:鈴木智也(Data, AI and Automation 事業部)