コロナ禍で医療費削減?
※5分くらいで読める「国民健康保険」に関する記事です
2020年度(2020年4月~2021年3月)の国民医療費が、前年度から2~3%台の幅で減少しそうだ。このような大きな低下は、国民皆保険となった1961年4月(1961年度)からの60年間で初めてである。
Twitterに流れてきた記事で、一際目を引きました。
「新しい生活様式」「ニューノーマル」「withコロナ」と、
いよいよ以前の生活に戻るのではなく、
これまでとは違った日々の過ごし方を模索する、
いわば「生活」を定義し直す方向にシフトしています。
公的医療保険制度の他国との比較
コロナ禍では、世界中の国々の対策もニュースで取り上げられ、
その度に日本の対策のお粗末さと保険制度に充実度、
隣の芝生の青さよろしく他国の政治体制が羨ましく思えることや、
理不尽とも取れる出来事などが日々ニュース速報で流れてきます。
日本では、PCRが2〜3000円ですが、
アメリカのある州では、こんな金額になったそうです。
検査は陰性でしたが、彼が請求された金額はなんと3000ドル。保険会社によると自己負担分は1400ドルとのこと。
https://forbesjapan.com/articles/detail/33607
(1400ドル=約14万円)
日本で生まれ育つと、
当たり前のように享受している国民健康保険ですが、
これかなり凄いことです。
他の国と比較すると、これほどまでには無い手厚い行政サービスといっても、
過言ではありません。
実際、2000年には世界保健機関(WHO)から、
日本の医療保険制度は総合点で世界一と評価されました。
(コロナ禍でWHOの権威は無くなってしまいましたが…笑)
「国営システム」
ほぼ無料で医療サービスを提供する制度です。
そのため、社会保険の財源が確保出来ている国でしか成立しない制度です。
この場合、一般的に医療機関も公的医療機関中心です。
代表的な国はイギリスやスウェーデンなどの北欧諸国等です。
スペイン、カナダもこのシステムに該当するそうです。
「社会保険システム」
全国民が医療保険に加入し、
その保険料を医療費の財源としている国です。
医療機関は開業が自由で、
国民による医療機関の選択も自由なのが一般的です。
代表的な国は、日本・ドイツ・フランス等です。
中国や韓国もこのシステムを採用しています。
ちなみに、日本の社会保険制度は、ドイツをモデルにしていると言われています。
「民間保険システム(市場モデル)」
アメリカの医療の仕組みです。
公的な医療保障制度は、高齢者等を対象とする制度と生活保護受給者を対象とする制度の 2 つだけです。
国民一般に対する公的医療保障制度はなく、多くの国民は、民間保険に加入しています。
被用者の場合は、企業が保険料を負担して、従業員に民間保険を提供している場合が多いです。
国営モデルの国では、
基本的に、自分で医療機関や医者を選ぶことは出来ません。
予約しても数ヶ月待つこともあるようです。
かと言って、民間保険システムでは、
1回受診しただけでとんでもない金額を請求されることもあります。
あくまでも市場経済に基づくサービスであるという認識のようです。
日本の社会保険システムはその中間に位置しますが、
世界中を見渡すと、特殊なシステムであることが分かりますね。
今、世界中には基礎的な医療保険サービスを受けられない人が世界人口73億人の半分、約36億5000万人いると言われています。
https://sdgs-support.or.jp/journal/goal03/
社会保険料はコスパ最悪!?
給与を貰ったことのある人なら、
ほぼ全員が「何で1万6000円も引かれんの!?」と
怒りを覚えたことがあると思います。(そして、その次に国民年金にキレる)
社会保険料の地味な高さ故に、
健康で病気をしない人からするとコスパは悪く、
病気をする人からは嘘のような割引率で医療を受けることが出来ています。
それもそのはず、
保険料や年金料は、予防的なものであって、
その素晴らしさを実感した時は、
恐らく何かしらの厳しい経験をしているはずです。
ニュースに戻りますが、
高齢者の多い日本では、
国としての医療費の支出が膨れ上がる一方だったわけですが、
それがこのコロナ禍で一気に削減された、
との報道が出ました。
記事の中でも説明されている通り、
・不要不急の受診控え
・感染症の抑制
が理由として挙げられています。
持病があって、
血液検査など電話などの遠隔受診が出来ない僕からすると、
コロナ禍の病院は目に見えて閑散としていました。
普段なら30分以上は待つ採血が、
待ち時間無しといった具合で、
患者の数も普段の4分の1程度でした。
これは、
高齢者にとって、病院がサードプレイスとして機能してしまっていることの証明に他ならないと考えています。
病院はカフェ代わり?
「第三の場所」を意味するサードプレイスは、自宅や学校、職場とは別の居心地のいい居場所の事だ。アメリカの都市社会学者レイ・オルデンバーグが、その重要性を説いた。
https://ideasforgood.jp/glossary/third-place/
病院に通うメリットを考えてみましたが、
・フリーアクセス制度
・コストがかからない
・安心感を得られる
・コミュニケーションを取ることが出来る
などが挙げられると思います。
そして、これらの理由は、
日本人の寿命の長さにも直結しています。
これはもはや福祉政策の領域にも感じますが、
高齢者施設やデイサービスでは果たせない役割を担ってしまっているのが、病院であると言えます。
ただ、記事の中で気になる箇所もありました。
また、「受診控え」あるいは「受診抑制」とも呼ばれる国民の行動は、短期的に見て、健康の悪化につながったわけではない。例えば、厚生労働省が今年2月22日に公表した人口動態統計速報によると、2020年の死亡数は138万4544人で、前年比0.7%(9373人)減。これは11年ぶりの減少である。
この約10年、高齢者の増加を背景に、死亡者数は毎年2万人前後の増加を続けていただけに、2020年は実質的には死亡者数が約3万人減少した、と見ることができる。
確かに数字だけ見れば、
「死者数が減っているのだから、健康悪化はしていない」
と結論付けるのは時期尚早にも思えます。
高齢者であっても、
時間をかけて持病が悪化していくパターンが殆どだと思いますし、
感染症の抑制と遠隔受診による単位報酬の削減が、
医療費の減少に繋がっているように思えます。
人の健康を守る医療の役割は、
数字で割り切れるものではないからです。
これは、指定難病当事者として実感していますが、
「健康は買えない、不健康ならいくらでも買える」といったところです。笑
福祉や教育など、市場経済に任せるべきでないからこそ、
行政や政府が保護するべき分野は確実にあるためです。
タカ派で排他主義のトップが態度を一変させた出来事もありました。
コロナ禍は、社会を急速に変えていますが、
振り返って適切な評価を下せるようになるのは、
10年、もしくはそれ以上先の未来になりそうです。