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ついに策定された『企業買収における行動指針』、最終版はパブコメ案からどう変わったか?

8月31日、経済産業省の『企業買収における行動指針』がついに最終化され、策定された。

6月8日に公表されたパブリックコメント用の指針案には、50の団体・個人から320件ものコメントが寄せられ、同指針への関心の高さが窺われた。
パブリックコメントの内容を踏まえ、指針はどのように変更されたのか。
本稿で見ていきたい。

結論:最終版はパブコメ案から大きな変更なし

先に結論から書いてしまうと、最終版での変更点は細かい文言や脚注の加筆修正にとどまり、実質的な内容の変更はなかった。

変更点がどうしても気になる、というマニアックな読者の方は、以下に対応するパブリックコメントと対照する形で、各変更点をまとめているのでご参照頂きたい。
(たまに変更内容を見ての私の呟きが入ります。)


対象会社における利益相反の態様を例示した脚注への文言修正

2.2.2(企業価値の向上と株主利益の確保)のうち、買収に関する対象会社における利益相反の態様を例示した脚注(P11)に関して、文言が修正された。

12 MBOや支配株主による従属会社の買収においては、構造的な利益相反の問題があることから公正性担保措置が特に重要となる。他方、構造的な利益相反とは別の問題として、経営陣・取締役の留任の可否や従業員の処遇等を巡る利益相反の問題、すなわち株主共同の利益よりも経営陣・取締役や従業員の利益を優先的に考慮するおそれがあるが、その程度は状況にもよるため、MBO等と比較してどの程度の措置が求められるかは個別の判断を要する。MBOや支配株主による従属会社の買収における公正性担保措置の考え方については、公正M&A指針参照。

※太字は追加箇所

利益相反に関し、もう少し広げて指摘すべきとのパブコメに対応した修正である。

パブコメ No.72
脚注 12 について、経営陣・取締役等の留任の可否や従業員役職員の処遇等を 巡る利益相反の問題以外にも、①監査役の留任の可否に係る配意、②留任と似 ている側面はあるが、役職員の買収者役職員への就任に係る買収者の希望や 打診の有無、③留任の可否、希望や打診の有無が一部の役員のみであることに 伴い、残る側の者とそうでない側の者との間で生じる様々な温度差や考え方等の違いといったものが挙げられ、もう少し広げて指摘すべきものであることから、修 正いただきたい。

経産省の考え方
経営陣・取締役や従業員の利益が優先的に考慮されるおそれ については、MBO や支配株主による従属会社の買収等の構 造的な利益相反の問題以外の利益相反の例示として挙げて いるものですが、御指摘のような利益相反の可能性の問題も 踏まえ、経営陣・取締役や従業員「等」の利益と修正させてい ただきました。

(「等」だけ入れる塩対応。)


「独立性の高い取締役会の構成」の例示の追加

第3章冒頭(P13)において、企業価値向上に向けた取組みの一つとして、取締役会の構成を独立性の高いものとすることの重要性を示した記載に関し、独立性の高い取締役会の構成を例示する括弧書きが追加された。

この観点から、取締役会の構成を独立性の高いものとする(例えば社外取締役の比率を過半数とする)ことが重要であるとともに、そのような取締役会において、事業計画(事業戦略及び資本政策)や資本構成の検証、定期的な事業ポートフォリオの見直し、投資家との対話や情報開示の充実、株式の流動性を高める取組み、経営陣の交代・強化やM&A、その他の課題の洗い出し等がされるべきである。

※太字は追加箇所

取締役会の過半数の独立性を明記するすることが推奨されるなどとしたパブコメを踏まえての修正である。

パブコメ No.80
買収に関する取締役会意見の公平性を確保するため、過半数の独立性の重要 性を明記することが推奨される。英訳版 17 頁の" it is important that the composition of the board of directors is highly independent”との記載のうち、 "highly "を "majority "に置き換えることを提案する。 独立取締役が取締役会の過半数を占めることは、株主の最善の利益のために公 正性を保つために必要であると考える。
13 頁の「取締役会の構成を独立性の高いものとすることが重要である」につい て、社外取締役の多さが経営や資本効率を高めることにつながる証拠は見当た らないとも指摘されており、上記の部分については実証的な裏付けがないため、 削除するべきである。
また、仮に、この点を残すのだとしても、これでは、できるだけ高い方が良い (100%社外取締役・独立取締役にした方が良い)とも受け取られかねないのであ り、表現を修正するべきである。

経産省の考え方
御指摘の趣旨を踏まえ、「取締役会の構成を独立性の高いも のとする(例えば社外取締役の比率を過半数とする)こと」と括 弧書きを追記させていただきました。


上場企業の一事業や一子会社に対する買収が指針の射程外である旨の明確化

第3章冒頭(P13)の「定期的な事業ポートフォリオの見直し」に関する注として、脚注13が追加された。

13 事業ポートフォリオの見直しにおけるベストプラクティスについては、経済産業省「事業再編実務指針(事業再編ガイドライン)」(2020年7月31日)参照。

これは、買収提案を巡る取締役・取締役会の行動規範につき、『上場会社がその一事業について買収提案を受けた場合も、同等の考え方で取締役会への付議・報告や検討を行うべきという記載を加えてはどうか』とのパブコメ(No. 79)に対し、かかる提案に関しては検討すべき論点が異なるため、本指針ではなく、事業再編ガイドラインを参照すべき旨を明確化したものである。

パブコメ No.79
本指針は上場会社が買収提案を受けた場合の対応について考え方を示しているが、上場会社がその一事業について買収提案を受けた場合も、同等の考え方で 取締役会への付議・報告や検討を行うべきという記載を加えてはどうか。

経産省の考え方
本指針は、買収者が上場会社の株式を取得することで当該上 場会社そのものの経営支配権を取得する行為を主な対象とするものである一方、上場会社の一事業や一子会社に対する買収は、事業ポートフォリオの見直しなど、検討すべき論点が異 なることから、本指針において記載することはしていません。 他方、御意見を踏まえ、上場会社の一事業や一子会社に対する買収について取り上げている事業再編ガイドラインについて注で言及するよう、指針案に追記しました。


買収者関係者や支配株主出身者に該当する取締役を、取締役会の審議・決議から除外すべき旨の明記

第3章(P14)において、『経営陣または取締役が、経営支配権を取得する旨の買収提案を受領した場合には、速やかに取締役会に付議または報告すべき』旨の記載に対応する脚注のうち、取締役会の審議・決議から除外する等の対応を検討する必要のある「利益相反があり得る取締役」の例示として、「買収者の関係者」と「支配株主から派遣された者」が追加された。

15 買収者の関係者、買収者の競合会社の出身者、支配株主から派遣された者等の利益相反があり得る者が取締役に含まれる場合は、当該取締役と買収者、競合他社、支配株主との関係等が事案に及ぼす影響を考慮した上で、情報管理の徹底や、当該取締役を取締役会の審議・決議から除外するなどの対応を検討する必要がある。

※太字は追加箇所

買収者関係者や支配株主出身者を除外すべきことを明記すべき、とのパブコメ(NO.92、93)に対応した修正である。

パブコメ No.92
支配株主ないし大株主出身の取締役も、取締役会の審議・決議から除外すべきことを明記いただきたい。 経営陣・取締役が、創業家や親会社等の支配株主ないし大株主出身の場合には、価格の如何に関わらず買収提案を拒み、少数株主の利益実現の機会を妨げるなど、構造的な利益相反が懸念される。 また、関連箇所に、買収提案を受けている会社に支配株主が存在する場合においても、当該支配株主の利益が優先的に考慮されるおそれがあることを追記いただきたい。 買収提案を受けている会社に支配株主が存在する場合、支配株主は提案価格に関わらず支配権を維持するために買収提案を拒絶し、経営陣・取締役がその意を汲んで動くことがある。この問題は、経営陣・取締役の留任の可否や従業員の処遇等を巡る利益相反とは異なる問題であり、一種の構造的な利益相反として明記 されるべきである。

パブコメ No.93
注 14 について、利益相反が問題となり得る取締役として競合会社の出身者等の みが例示で挙げられているが、対象会社の一般株主の視点で考えた場合に利益 相反の問題がより深刻になるのは、むしろ買収者の関係者が取締役となっている 場合であると考えられる。そのことを明示するために、脚注14を「買収者の【関係者や】競合会社の出身者等の【(会社の一般株主との関係で)】利益相反があり得 る者が取締役に含まれる場合は、当該取締役と【当該買収者ないし】競合他社と の関係・・・」と修正すべきである。

経産省の考え方
御指摘の趣旨を踏まえ、注 15 の例示として追記させていただ きました。 なお、こうした例示に該当するかに関わらず、取締役会の審 議・決議から除外するなどの対応の要否については、個別事 案に応じて判断されるべきものと考えられます。

(というかこの注、「競合会社」と「競合他社」が混在しているな。見なかったことにしよう。)


買収者と現経営陣の企業価値向上策の比較検討における、DDへの対応に関する記載の追加

3.1.2(取締役会における検討)において、『また、取締役会は、買収者が提示する買収価格や企業価値向上策と現経営陣が経営する場合の企業価値向上策を、定量的な観点から十分に比較検討することが望ましい』との文言(P17)に関して、対象会社におけるデュー・デリジェンス(DD)への対応のあり方を補足している脚注(注26)に記載が追加された。

26 十分な比較検討を行う前提として、対象会社から十分な情報開示が行われるという観点も重要であるが、デュー・デリジェンスへの対応の要否及びその範囲の判断に当たっては、様々な事情が総合的に考慮される必要がある(「別紙1:取締役・取締役会の具体的な行動の在り方」2.参照)。他方で、買収者に対してデュー・デリジェンスの機会が与えられていない又は限定的な段階において、買収者に対して不合理に詳細な情報の開示・提供を求めることは望ましくない。

※太字は追加箇所

かかる場合におけるDDの受け入れを対象会社の義務とすべき、とのパブコメ(No.256)に対し、経産省は義務化は適切でないとの立場であり、その旨を明確化する趣旨での追記である。

パブコメ No.256
「真摯な買収提案」とみなされない場合として、実現可能性が合理的に疑われる 場合の状況が 16 ページに記載されていますが、その中で「買収資金の裏付けの ない買収提案」とあり、注記に「提案の当初(デュー・デリジェンスを実施する前の 段階)では、このような書面が提示されていないことのみをもって買収提案の実現 可能性が無いと判断すべきではなく」と記載されていますが、買収者がデュー・デ リジェンス(DD)を希望したとしても対象会社が受け入れなければ買収の検討が 進まない事態となってしまうことから、買収提案があった場合には、DD を受け入 れることを対象会社の義務とすべきです。

経産省の考え方
デュー・デリジェンスについては、通常、企業内部の非公開情 報を提供して行うものであることから、競合他社への情報流出 や目的外利用のリスクなども考慮する必要がある(本指針別 紙 1.の 2.)ものと考えており、買収提案があった場合にこれを 受け入れることを一律に対象会社の義務とすることは適切で はないと考えています。 (なお、こうした趣旨を本体においても明確にする観点から、本指針注 26 において別紙 1.の 2.を参照する記載を追加しています。)


買収者が市場内買付けにより支配権を取得する場合に任意で実施する情報提供について、タイミングも重要である旨の明確化

4.1.1.1(買収時における情報の開示・提供)のうち、公開買付制度に基づく情報開示規制が適用されない市場内買付けに関し、重要な項目について公開買付届出書と同程度の適切な情報提供を『任意の方法で行うことが望ましい』としていた原案が、『適時、任意の方法で行うことが望ましい』と修正された。

また、市場内買付けの場合には、公開買付制度に基づく情報開示規制が適用されないが、短期間のうちに市場内買付けを通じて経営支配権を取得するような場面においては、買収が企業価値に及ぼす影響を理解した上で株主が買収に応じるか否かの判断をできるよう、買付の目的、買付数、買収者の概要、買収後の経営の基本的な方針等の重要な項目については、少なくとも公開買付届出書における記載内容と同程度の適切な情報提供を、資本市場や対象会社に対して適時、任意の方法で行うことが望ましい。

※太字は追加箇所

買収者が任意に行う情報提供につき、タイミングも重要であることを指摘するパブコメ(No.176)の内容を踏まえての修正である。

パブコメ No.176
本指針案 23 頁 4.1.1.1 項に、「買付の目的、買付数、買収者の概要、買収後の経 営の基本的な方針等の重要な項目については、少なくとも公開買付届出書にお ける記載内容と同程度の適切な情報提供を、資本市場や対象会社に対して任意 の方法で行うことが望ましい」との記載がある。この箇所の後半を、「資本市場や 対象会社に対して、適時、任意の方法で行うことが求められる」と変更し、情報開 示のタイミングも重要である旨を明記することをご検討いただきたい。

経産省の考え方
御指摘を踏まえ、「適時、任意の方法で行うこと」と修正させて いただきました。


過度に詳細な質問を買収者に対して行うことが、買収阻止のための措置として行わ れてはならない旨の明確化

前項と同じ、4.1.1.1(買収時における情報の開示・提供)のうち、公開買付制度に基づく情報開示規制が適用されない市場内買付けに関し、『公開買付届出書における記載内容と同程度の適切な情報提供を、資本市場や対象会社に対して適時、任意の方法で行うことが望ましい』とする文言に対応して、過度に詳細な質問を買収者に対して行うことが、買収阻止のための措置として行われてはならない旨を明確化する脚注が追加された。

37 なお、買収者に対する対象会社からの情報提供依頼については、過度に詳細な質問を買収者に対して行うことが、実質的に経営支配権を取得する買収を阻止するための措置として行われてはならず、社外取締役はこの観点からも適切な監督を行うべきことには留意が必要である。

対象会社の経営陣による、過度な情報提供の要求に基づく買収防衛策の発動を懸念するパブコメ(No.177)に対応したものである。

パブコメ No.177
買収者に対する対象会社からの情報提供依頼については、原則として公開買付 届出書に記載が求められる水準の情報が買収者から出ていたならば十分な情報が提供されていると考えるべきであり、そのように指針でも明記すべきです。必要 な時間や情報が提供されずに買収されることを阻止するためにという名目で、経 営陣の保身につながる買収防衛策を容易に導入・発動させることがあってはなら ず、そのためにも、公開買付届出書と同等の情報が提供されたならば、それをも って株主にとって十分であり、経営陣にとっても判断を行うのに十分な情報が出さ れたとみなすべきです。

経産省の考え方
本指針における買収者による情報提供は、公開買付けへの応 募等を通じて株主の判断を得る際に、透明性を高め、株主に十分な情報や時間を提供することで、株主の適切な判断(イン フォームド・ジャッジメント)が行われることを目的として、株主 の適切な判断に資する合理的な範囲で行われるものを想定し ており、合理的な範囲を超えた情報提供を行うことまでを「望ま しい行為」として位置づけているものではありません。 また、買収者に対する対象会社からの情報提供依頼について は、過度に詳細な質問を買収者に対して行うことが、実質的に 経営支配権を取得する買収を阻止するための措置として行わ れてはならず、社外取締役はこの観点からも適切な監督を行 うべきであることには留意が必要であると考えています。 (なお、こうした趣旨を本体においても明確にする観点から、本 指針注 37 において記載を追加しています。) これらの趣旨が、買収者のみならず対象会社側にも理解され るよう、周知・広報に努めてまいります。


買収者がTOBに先立って市場内買付けを実施する場合における、TOB意向を有する旨の情報提供についても、本指針における「予告TOBに関する情報開示等」と同様の問題が生じる可能性の注記の追加

4.1.1.2(事前取得の利用と買収意向に関する情報開示)のうち、『そこで、買収をしようとする者が、公開買付けに先立って市場で株式の取得を進めるに当たり、その後に公開買付けを実施する意向が確定的である場合には、その旨の情報提供を資本市場や対象会社に対して行うことが望ましい』との文言(P25)に関して、かかる情報提供に関しても「予告TOBに関する情報開示等」と同様の問題が生じる可能性を示す脚注(注40)が追加された。

40 なお、公開買付けを実施する意向が確定的である旨の情報提供を資本市場に対して行う場合に、「4.1.1.3 TOBの予告に関する情報開示等」と同様の論点が生じ得る点には留意が必要である。

かかる情報提供についても、風説の流布や相場操縦に該当し得るような場合があることや、長期間にわたってTOBの開始や買収提案の取下げがなされない場合に市場や対象会社の地位を不安定にする側面があることなど、「予告TOBに関する情報開示等」と同様の問題が生じる可能性を指摘したパブコメ(No.189)を踏まえた追記である。

パブコメ No.189
本指針案 24 頁において、「買収をしようとする者が、公開買付けに先立って市場 で株式の取得を進めるに当たり、その後に公開買付けを実施する意向が確定的 である場合には、その旨の情報提供を資本市場や対象会社に対して行うことが 望ましい。」とあるが、買収をしようとする者が上場会社である場合、公開買付け を実施することについて「決定」をすれば、適時開示が必要となる。この点、「実施 する意向が確定的」であるにもかかわらず、(「情報開示が必要」ではなく)「情報 提供を行うことが望ましい」という表現にとどめているのは、どのような理由(整 理)によるものか、明らかにされたい。 また、「公開買付けを実施する意向が確定的である場合」には、大量保有報告書 の「保有目的」欄に、当該意向を踏まえた記載をすべき場合もあると考えられる が、それにもかかわらず、「情報提供を行うことが望ましい」という表現にとどめて いるのは、どのような理由(整理)によるものか、明らかにされたい。 他方で、「その後に公開買付けを実施する意向」がある旨の情報提供を資本市場 で行う場合、本指針案25頁「4.1.1.3 予告TOBに関する情報開示等」と同様の 問題が生じる可能性があり、当該情報提供が無条件に「望ましい」ということには ならないようにも思われる。

経産省の考え方
買収者が上場会社であるとは限らないことや、大量保有報告 規制の対象とならない程度の株式取得の場合も考えられるこ とから、原案の記載とさせていただいています。 なお、御指摘を踏まえ、公開買付けを開始するよりも前の段階 で情報提供を資本市場で行う場合には、「4.1.1.3 TOBの予告 に関する情報開示等」と同様の問題が生じ得ることについて、 追記しています。


株主の買収に対する意思決定を歪める行為のうち、法令等に違反する行為は行うべきでない旨の明記

4.3(株主の意思決定を歪める行為の防止)において、買収者が行うことが望ましくない行為として列挙されている行為のうち、法令違反に該当する行為は行ってはならない旨の括弧書きが追加された。

この観点から、買収者が以下のような行為を行うことは望ましくない(法令違反に該当する行為は行ってはならない。)

また、同様の観点から、対象会社が以下のような行為を行うことは望ましくない(法令違反に該当する行為は行ってはならない。)

※太字は追加箇所

指針が「望ましくない」として列挙している行為に法令等に違反する行為も含まれていることを指摘したパブコメ(No.216)に対応した修正である。

パブコメ No.216
「買収者が以下のような行為を行うことは望ましくない。」、「対象会社が以下のよ うな行為を行うことは望ましくない。」とあるが、列挙されている行為の中には、そもそも法令等に反する行為も含まれており、「行うべきではない」との表現に修正すべきである。

経産省の考え方
御指摘を踏まえ、追記いたしました。

(なんというか、ご対応お疲れ様です。)


買収への対応方針(買収防衛策)の導入是非の判断における機関投資家・議決権行使助言会社の「費用対効果」に言及した箇所の修正

5.5(資本市場との対話)のうち、機関投資家・議決権行使助言会社の「費用対効果」に関する文言が修正された。

そのような場合に対応方針が買収に関する透明性を高める可能性があることからすれば、機関投資家や議決権行使助言会社は、費用対効果の視点も含めて考慮しつつも、基準をもって形式的に判断するのではなく、対象会社の状況や当該会社との対話の内容、対応方針の内容等を踏まえた上で、対応方針の導入や対抗措置の発動に対する賛否を判断することが望ましい(有事において対応方針が用いられる場合でも同様である。)。

※太字は追加・修正箇所

脚注も含め一連の文言の趣旨が不明であるとするパブコメ(No.245)に対応した修正と思われる。

パブコメ No.245
本指針案 34 頁において、「機関投資家や議決権行使助言会社は、費用対効果 の視点も含めて考慮の上、・・・対応方針の導入や対抗措置の発動に対する賛否 を判断することが望ましい」とあり、また、注 58 において、「ここで費用対効果の視 点に言及しているのは、特に平時に導入・更新される対応方針は6月に集中する 定時株主総会において議案として上程されることが多い実態を勘案したものであ る。」とあるが、その趣旨が不明であり、どのような趣旨か明らかになるよう、記載 を修正すべきである。

経産省の考え方
注 61 は、6 月の定時株主総会において、平時に導入・更新さ れる対応方針の議案としての上程が多く、投資先の対応方針 を全て詳細に検討することは現実的には困難であると考えら れることから、特に機関投資家においては、投資先各社の投 資上の重要性等を踏まえつつも、対象会社の状況や対応方針 の内容等の具体的な議案を実質的に検討の上、当該議案に 対する賛否を判断することが望ましいという趣旨で記載してい ますが、御指摘を踏まえて修正しています。

(「と思われる」と書いたのは、個人的には指針原案でも十分趣旨が理解できる記載であり、どこをどう読めば趣旨不明なのかが理解不能だからです。そして、修正文言で趣旨がどのように明らかになったのかはもっと理解不能。高度すぎる。。。)


買収への対抗措置の発動につき、株主総会の決議を経ることの意義に関する文言の修正

別紙3(買収への対応方針・対抗措置(各論))において、株主総会決議による対抗措置の必要性の推認に関する記載が修正された。

➢ 株主総会の承認を得ることは、株主総会において買収に関する株主の意思を確認するための時間・情報を確保するという観点から、必要性を示す一つの事情となる。加えて、株主が買収への賛否を判断する機会を株式の売却の意思決定とは別に設けることで、強圧性のある買収手法が用いられる際に、強圧性のない状況で株主が判断できる機会を確保するという観点から、必要性を示す一つの事情となる。

➢ 買収に関する様々な要素について株主が総合的に勘案の上で、買収により企業価値ひいては株主共同の利益が害されると考えて承認することは、対抗措置の発動が会社の利益の帰属主体である株主の合理的意思に依拠するという意味で、必要性を示す一つの事情となる。

※太字は追加箇所

「推認」という単語を修正すべきとするパブコメ(No.274)を踏まえた修正である。

パブコメ No.274
二つ目の➢の記載を前提とするのであれば、「推認」という単語を修正すべきであ る。 該当箇所の記載の骨組みは、「買収に関する様々な要素について株主が総合的 に勘案の上で、買収により企業価値ひいては株主共同の利益が害されると考え て承認することは」(対抗措置の)「必要性を示す事情となる」というものであろう が、それを前提として、柱書に実際に当てはめると、「株主が」(対抗措置の発動 に関する承認議案を)「買収に関する様々な要素について」「総合的に勘案の上 で、買収により企業価値ひいては株主共同の利益が害されると考えて」「承認す ること」という「対抗措置の」「必要性を示す事情」「が考慮されることによって」、 「新株予約権無償割当て等の具体的な行為」である「対抗措置の」「必要性が推 認されるものと考えられる」。 しかし、考慮される事情が必要性を示すものなのであれば、その事情が考慮され ることによって必要性が推認されるのではなく、直截に必要性が示されるのでは ないか。

経産省の考え方
御指摘の趣旨を踏まえ、各矢羽根について「必要性を示す一 つの事情」という形に修正しています。なお、裁判所はこれら の事情を含めて様々な事情を考慮の上、必要性を判断すると 考えられることから、御指摘のように「直截に必要性が示され る」とは考えておらず、本文の「推認」は原案のとおりとさせて いただきます。

また、関連する脚注で、参照裁判例としてブルドッグソース事件が追加されている。

70 ブルドックソース事件(最決平成19年8月7日)、富士興産事件(東京高決令和3年8月10日)、東京機械製作所事件(最決令和3年11月18日)、三ッ星事件(最決令和4年7月28日)参照。なお、導入の時期が平時か有事かに関わらず、特定の買収者に対する対抗措置の発動の際に株主総会の承認を得ることで必要性が推認されるという考え方は、同様に妥当すると考えられる。

※太字は追加箇所

MoM決議の根拠および範囲に関する脚注の修正

別紙3(買収への対応方針・対抗措置(各論))のMoM決議に関する文言への脚注の記載が修正された。

79 一般に、利害関係者以外の過半数を要件とする決議がどのような根拠や範囲で許容されうるかは、必ずしも明らかではない。研究会における議論では、以下のような指摘があった。

急速な市場内買付けの問題点に着目する指摘:買収者が急速な市場内買付けを行う場合、市場における株主の判断には、情報開示の問題(公開買付規制に基づく情報開示がなされない)、時間の問題(急速な買付けを行った場合、十分な検討時間が確保されない)、売り急ぎの問題(短期間のうちに市場内買付けを通じて経営支配権を取得するような場面において、株主による売り急ぎが生じる)等が生じうることから、会社としては、このような問題のある状態で株主が売却に応じた部分の株式の議決権をカウントすべきでないとして、買収者及びその関係者の(当該部分の)議決権を除外した決議を行うこともあり得るのではないかとの指摘

市場内買付けの問題点及び利害関係者の性質に着目する指摘:市場内買付けには、(i)公開買付けの場合のような情報開示等の規制が適用されないことにより十分な情報が開示されないこともあり得るという問題や、(ii)買収者が支配した後で搾取的な行動をする場合に株主が株式を売るよう動機付けられるという問題(強圧性の問題)もあり得るという状況の下で、買収者及びその関係者は買収の是非について利害関係を有する者であることも考慮すれば、買収者及びその関係者の全ての議決権を除外した決議を行うこともあり得るのではないかとの指摘

買収者の法令違反に着目する指摘:買収者が大量保有報告制度など買収に関連する法令に重大な違反をした場合(例えば、買収者が大量保有報告の意図的な報告遅延をしている場合等)に、当該買収者に問題があると考えた会社が、その議決権を除外した決議を行うこともあり得るのではないかとの指摘

本脚注は、本指針が議論された「公正な買収の在り方に関する研究会」での各委員の発言をまとめたものになっているが、パブコメにおいて、「文意が不明確」「誤解を招きうる」等の指摘があったことを踏まえての修正である。

パブコメ No.286
P45 の注76の②の記載について、文意ないし論理を正確に読み取ることが困難 であり、本指針の内容や研究会での委員の発言、あるいは東京機械製作所事件 判決などとは全く異なる内容として読むことができる。結果として、該当箇所は、 本指針の最も重要な部分について整合性が取れていないことや、研究会の委員 間で重要な点について全く合意が取れていないことを示すものであるとして、本指 針の読み手に大きな誤解を招く可能性がある。該当箇所を削除して、「どの議決 権を除外するのかに関しては議論がある」として最後に記載するなどして、本指 針の内容が正確に伝わるように、適切に修正して頂きたい。 おそらく、当該箇所は、太田委員あるいは田中委員の指摘を記載しているものと 思われるが、現状の記載では、当該指摘とは研究会の議論として出た意見であ ることが読み取れない。
また、文章の形式として、「市場内買付けには」「買収者が支配した後で搾取的な 行動をする場合に」といった表現がどこにかかるのかが不明であることから、市場 内買付けのみの問題として取り上げているのか、またそうであったとしても市場内 買付け一般の問題なのか、が分からない。 仮に市場内買付け一般の問題だとすると、p50で「個別の事案における経緯や買 収者の行動、株主の行動等に関して具体的な検証を行うことなく、市場内買付け や部分買付けであることの一事をもって強圧性の問題を強調し、対応方針や対抗 措置を用いることを安易に正当化することは望ましくない」との記載があることと の整合性を整理すべきである。
また、p45で、いわゆる MoM 決議について、「このような決議に基づく対抗措置の 発動が濫用されてはならず、これが許容されうるのは、買収の態様等(略)につい ての事案の特殊事情も踏まえて、非常に例外的かつ限定的な場合に限られるこ とに留意しなければならない」と記載されているにもかかわらず、該当箇所は、お よそ市場内買付けには問題があるので、原則として買収者の全議決権を排除し た MoM 決議に基づいて対抗措置を発動するのが妥当であるとの内容となってお り、この点の整合性も図るべきである。

パブコメ No.287
注 76②の記載は、「市場内買付けを行ったあらゆる買収者及びその関係者の全 ての議決権を除外して決議できる」との考えであると理解されかねず、p.45 本文 の「このような決議(中略)が許容されうるのは、(中略)非常に例外的かつ限定的 な場合に限られる」との記載の趣旨と矛盾することからも、削除すべきである。 また、上記該当箇所は、第 8 回公正な買収の在り方に関する研究会における太 田委員(議事要旨 p.12-13)、藤田委員(同 p.13-14)、田中委員(同 p.18-19)の各 発言を踏まえて追加されたものと思われるが、いずれの委員も注 761の「(当該 部分の)」という記載をどうすべきかについて意見を述べたに過ぎず、「市場内買 付けを行った買収者及びその関係者の全ての議決権を除外した決議を行うこと が考えられる」旨の指摘をしたと解釈することは適切でない。

経産省の考え方
買収者、対象会社取締役及びこれらの関係者の議決権を除 外した議決権の過半数による決議については、注 79 において 研究会で出た複数の立場の意見を紹介し、「一般に、利害関 係者以外の過半数を要件とする決議がどのような根拠や範囲 で許容されうるかは、必ずしも明らかではない」ところではある ものの、本指針の本文に記載のとおり、基本的には「このよう な決議に基づく対抗措置の発動が安易に許容されれば、望ま しい買収をも阻害する事態を招きかねない。また、決議要件を 設定するのは対象会社であることからすれば、対象会社として 承認が得やすいと考える決議要件が恣意的に設定されるおそ れが存在する」ことから、「買収の態様等(買収手法の強圧性、適法性、株主意思確認の時間的余裕など)についての事案の 特殊事情も踏まえて、非常に例外的かつ限定的な場合に限ら れることに留意しなければならない」という整理を行っていま す。 したがって、本文と注記の記載に不整合が生じているとは考え ていませんが、御指摘を踏まえ、注 79 の記載の趣旨が伝わ るよう、表現を一部修正いたしました。

(脚注が見やすくなったのは良かった。)


その他文言の変更

  • 公開買付規制の見直し年の誤り修正(「2008年」→「2006年」)(1.1(P2))

  • 「司法判断」→「裁判例」(パブコメ No.17)(1.1(P2)、1.2(P4)、5.1(P30、32)、別紙2(P41)、別紙3(P44(二箇所)、45、47(本文、注81)、49、51、52(本文、注95(二箇所)))

  • 「会社を支配する者の変動に関わる」を「会社の経営支配権に関わる」に統一(パブコメ No.18)(2.2.3(P11)、5.1(P32))

  • 「位置付け」→「位置づけ」(パブコメ No.22)(1.2(P4))

  • 「行なわれる」→「行われる」(1.3(P4))

  • 「享受できる」→「享受することができる」(2.2.1(P8))

  • 「買収取引が活発に行われることを通じて」→「買収取引が行われることを通じて」(2.2.1(P8))

  • 「特別委員会の活用」→「特別委員会の設置」(2.2.2(P11)、3.3(P21))

  • 「かかる」→「このような」(3.2.1(P 18)、3.2.2 注28(P20)、別紙3(P44、52(注95)))

  • 「対抗措置」→「対抗提案」(3.2.2 注29(P20))

  • 「取引の場合、」→「取引の場合には、」(3.2.2(P22))

  • 「通り」→「とおり」(パブコメ No.257)(別紙1(P39))

  • 「予告TOB」→「TOBの予告」(4.1.1.3(P25))

  • 「開始できない場合」→「開始することができない場合」(4.1.1.3(P26))

  • 「十分な時間を確保しつつ案件を進める」→「十分な時間を確保しつつ進める」(4.1.2 注47(P27))

  • 「義務付け」→「義務づけ」(4.1.2 注47(二箇所)(P27))

  • 「株式併合などができる水準」→「株式併合などができる水準(議決権数の3分の2以上)」(5.5 注64(P35)、別紙2(P41))

  • 「上限が設定されている場合(部分買付け)には、既存株主が少数株主として残存することとなるため」→「上限が設定されている場合(部分買付け)には、買収の結果、既存株主が少数株主として残存することとなるため」(別紙2(P40))

  • 「なされれば」→「されれば」(別紙3(P44))

  • 「対抗措置の発動が」→「対抗措置の発動は」(別紙3(P45))

  • 「正当化の余地」→「正当化される余地」(別紙3(P46))

  • 「確保する必要性と結びつきやすい」→「確保する観点からの対抗措置の必要性と結びつきやすい」(別紙3(P48))

  • 「グリーンメイラー」→「グリーンメール」(パブコメ No.303)(別紙3 注83(P48)

  • 「対抗措置の発動の必要性」→「対抗措置の必要性」(別紙3(P51))

  • 「一定程度確保されていることは前提となる」→「一定程度確保されていることが前提となる」(別紙3(P52))

  • 「予見可能性が認められる場合、」→「予見可能性が認められる場合には、」(別紙3(P53))

  • 「買収者、株主等」→「買収者及び株主等」(別紙3(P53))

  • 「また、この場合、」→「また、この場合には、」(別紙3(P53))

  • 「取得がされない」→「取得がなされない」(別紙3 (P54(注97)))

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