8月31日、経済産業省の『企業買収における行動指針』がついに最終化され、策定された。
6月8日に公表されたパブリックコメント用の指針案には、50の団体・個人から320件ものコメントが寄せられ、同指針への関心の高さが窺われた。
パブリックコメントの内容を踏まえ、指針はどのように変更されたのか。
本稿で見ていきたい。
結論:最終版はパブコメ案から大きな変更なし
先に結論から書いてしまうと、最終版での変更点は細かい文言や脚注の加筆修正にとどまり、実質的な内容の変更はなかった。
変更点がどうしても気になる、というマニアックな読者の方は、以下に対応するパブリックコメントと対照する形で、各変更点をまとめているのでご参照頂きたい。
(たまに変更内容を見ての私の呟きが入ります。)
対象会社における利益相反の態様を例示した脚注への文言修正
2.2.2(企業価値の向上と株主利益の確保)のうち、買収に関する対象会社における利益相反の態様を例示した脚注(P11)に関して、文言が修正された。
利益相反に関し、もう少し広げて指摘すべきとのパブコメに対応した修正である。
(「等」だけ入れる塩対応。)
「独立性の高い取締役会の構成」の例示の追加
第3章冒頭(P13)において、企業価値向上に向けた取組みの一つとして、取締役会の構成を独立性の高いものとすることの重要性を示した記載に関し、独立性の高い取締役会の構成を例示する括弧書きが追加された。
取締役会の過半数の独立性を明記するすることが推奨されるなどとしたパブコメを踏まえての修正である。
上場企業の一事業や一子会社に対する買収が指針の射程外である旨の明確化
第3章冒頭(P13)の「定期的な事業ポートフォリオの見直し」に関する注として、脚注13が追加された。
これは、買収提案を巡る取締役・取締役会の行動規範につき、『上場会社がその一事業について買収提案を受けた場合も、同等の考え方で取締役会への付議・報告や検討を行うべきという記載を加えてはどうか』とのパブコメ(No. 79)に対し、かかる提案に関しては検討すべき論点が異なるため、本指針ではなく、事業再編ガイドラインを参照すべき旨を明確化したものである。
買収者関係者や支配株主出身者に該当する取締役を、取締役会の審議・決議から除外すべき旨の明記
第3章(P14)において、『経営陣または取締役が、経営支配権を取得する旨の買収提案を受領した場合には、速やかに取締役会に付議または報告すべき』旨の記載に対応する脚注のうち、取締役会の審議・決議から除外する等の対応を検討する必要のある「利益相反があり得る取締役」の例示として、「買収者の関係者」と「支配株主から派遣された者」が追加された。
買収者関係者や支配株主出身者を除外すべきことを明記すべき、とのパブコメ(NO.92、93)に対応した修正である。
(というかこの注、「競合会社」と「競合他社」が混在しているな。見なかったことにしよう。)
買収者と現経営陣の企業価値向上策の比較検討における、DDへの対応に関する記載の追加
3.1.2(取締役会における検討)において、『また、取締役会は、買収者が提示する買収価格や企業価値向上策と現経営陣が経営する場合の企業価値向上策を、定量的な観点から十分に比較検討することが望ましい』との文言(P17)に関して、対象会社におけるデュー・デリジェンス(DD)への対応のあり方を補足している脚注(注26)に記載が追加された。
かかる場合におけるDDの受け入れを対象会社の義務とすべき、とのパブコメ(No.256)に対し、経産省は義務化は適切でないとの立場であり、その旨を明確化する趣旨での追記である。
買収者が市場内買付けにより支配権を取得する場合に任意で実施する情報提供について、タイミングも重要である旨の明確化
4.1.1.1(買収時における情報の開示・提供)のうち、公開買付制度に基づく情報開示規制が適用されない市場内買付けに関し、重要な項目について公開買付届出書と同程度の適切な情報提供を『任意の方法で行うことが望ましい』としていた原案が、『適時、任意の方法で行うことが望ましい』と修正された。
買収者が任意に行う情報提供につき、タイミングも重要であることを指摘するパブコメ(No.176)の内容を踏まえての修正である。
過度に詳細な質問を買収者に対して行うことが、買収阻止のための措置として行わ れてはならない旨の明確化
前項と同じ、4.1.1.1(買収時における情報の開示・提供)のうち、公開買付制度に基づく情報開示規制が適用されない市場内買付けに関し、『公開買付届出書における記載内容と同程度の適切な情報提供を、資本市場や対象会社に対して適時、任意の方法で行うことが望ましい』とする文言に対応して、過度に詳細な質問を買収者に対して行うことが、買収阻止のための措置として行われてはならない旨を明確化する脚注が追加された。
対象会社の経営陣による、過度な情報提供の要求に基づく買収防衛策の発動を懸念するパブコメ(No.177)に対応したものである。
買収者がTOBに先立って市場内買付けを実施する場合における、TOB意向を有する旨の情報提供についても、本指針における「予告TOBに関する情報開示等」と同様の問題が生じる可能性の注記の追加
4.1.1.2(事前取得の利用と買収意向に関する情報開示)のうち、『そこで、買収をしようとする者が、公開買付けに先立って市場で株式の取得を進めるに当たり、その後に公開買付けを実施する意向が確定的である場合には、その旨の情報提供を資本市場や対象会社に対して行うことが望ましい』との文言(P25)に関して、かかる情報提供に関しても「予告TOBに関する情報開示等」と同様の問題が生じる可能性を示す脚注(注40)が追加された。
かかる情報提供についても、風説の流布や相場操縦に該当し得るような場合があることや、長期間にわたってTOBの開始や買収提案の取下げがなされない場合に市場や対象会社の地位を不安定にする側面があることなど、「予告TOBに関する情報開示等」と同様の問題が生じる可能性を指摘したパブコメ(No.189)を踏まえた追記である。
株主の買収に対する意思決定を歪める行為のうち、法令等に違反する行為は行うべきでない旨の明記
4.3(株主の意思決定を歪める行為の防止)において、買収者が行うことが望ましくない行為として列挙されている行為のうち、法令違反に該当する行為は行ってはならない旨の括弧書きが追加された。
指針が「望ましくない」として列挙している行為に法令等に違反する行為も含まれていることを指摘したパブコメ(No.216)に対応した修正である。
(なんというか、ご対応お疲れ様です。)
買収への対応方針(買収防衛策)の導入是非の判断における機関投資家・議決権行使助言会社の「費用対効果」に言及した箇所の修正
5.5(資本市場との対話)のうち、機関投資家・議決権行使助言会社の「費用対効果」に関する文言が修正された。
脚注も含め一連の文言の趣旨が不明であるとするパブコメ(No.245)に対応した修正と思われる。
(「と思われる」と書いたのは、個人的には指針原案でも十分趣旨が理解できる記載であり、どこをどう読めば趣旨不明なのかが理解不能だからです。そして、修正文言で趣旨がどのように明らかになったのかはもっと理解不能。高度すぎる。。。)
買収への対抗措置の発動につき、株主総会の決議を経ることの意義に関する文言の修正
別紙3(買収への対応方針・対抗措置(各論))において、株主総会決議による対抗措置の必要性の推認に関する記載が修正された。
「推認」という単語を修正すべきとするパブコメ(No.274)を踏まえた修正である。
また、関連する脚注で、参照裁判例としてブルドッグソース事件が追加されている。
MoM決議の根拠および範囲に関する脚注の修正
別紙3(買収への対応方針・対抗措置(各論))のMoM決議に関する文言への脚注の記載が修正された。
本脚注は、本指針が議論された「公正な買収の在り方に関する研究会」での各委員の発言をまとめたものになっているが、パブコメにおいて、「文意が不明確」「誤解を招きうる」等の指摘があったことを踏まえての修正である。
(脚注が見やすくなったのは良かった。)
その他文言の変更
公開買付規制の見直し年の誤り修正(「2008年」→「2006年」)(1.1(P2))
「司法判断」→「裁判例」(パブコメ No.17)(1.1(P2)、1.2(P4)、5.1(P30、32)、別紙2(P41)、別紙3(P44(二箇所)、45、47(本文、注81)、49、51、52(本文、注95(二箇所)))
「会社を支配する者の変動に関わる」を「会社の経営支配権に関わる」に統一(パブコメ No.18)(2.2.3(P11)、5.1(P32))
「位置付け」→「位置づけ」(パブコメ No.22)(1.2(P4))
「行なわれる」→「行われる」(1.3(P4))
「享受できる」→「享受することができる」(2.2.1(P8))
「買収取引が活発に行われることを通じて」→「買収取引が行われることを通じて」(2.2.1(P8))
「特別委員会の活用」→「特別委員会の設置」(2.2.2(P11)、3.3(P21))
「かかる」→「このような」(3.2.1(P 18)、3.2.2 注28(P20)、別紙3(P44、52(注95)))
「対抗措置」→「対抗提案」(3.2.2 注29(P20))
「取引の場合、」→「取引の場合には、」(3.2.2(P22))
「通り」→「とおり」(パブコメ No.257)(別紙1(P39))
「予告TOB」→「TOBの予告」(4.1.1.3(P25))
「開始できない場合」→「開始することができない場合」(4.1.1.3(P26))
「十分な時間を確保しつつ案件を進める」→「十分な時間を確保しつつ進める」(4.1.2 注47(P27))
「義務付け」→「義務づけ」(4.1.2 注47(二箇所)(P27))
「株式併合などができる水準」→「株式併合などができる水準(議決権数の3分の2以上)」(5.5 注64(P35)、別紙2(P41))
「上限が設定されている場合(部分買付け)には、既存株主が少数株主として残存することとなるため」→「上限が設定されている場合(部分買付け)には、買収の結果、既存株主が少数株主として残存することとなるため」(別紙2(P40))
「なされれば」→「されれば」(別紙3(P44))
「対抗措置の発動が」→「対抗措置の発動は」(別紙3(P45))
「正当化の余地」→「正当化される余地」(別紙3(P46))
「確保する必要性と結びつきやすい」→「確保する観点からの対抗措置の必要性と結びつきやすい」(別紙3(P48))
「グリーンメイラー」→「グリーンメール」(パブコメ No.303)(別紙3 注83(P48)
「対抗措置の発動の必要性」→「対抗措置の必要性」(別紙3(P51))
「一定程度確保されていることは前提となる」→「一定程度確保されていることが前提となる」(別紙3(P52))
「予見可能性が認められる場合、」→「予見可能性が認められる場合には、」(別紙3(P53))
「買収者、株主等」→「買収者及び株主等」(別紙3(P53))
「また、この場合、」→「また、この場合には、」(別紙3(P53))
「取得がされない」→「取得がなされない」(別紙3 (P54(注97)))