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Activism/M&A Weekly Roundup (2023年8月7日週)


アクティビズム

ダルトン系のNAVF、Atlantis Japan Growthを吸収へ(8月11日)

5月のAbrdnに続き、Nippon Active Value Fund(NAVF)が小規模な日本株ファンドを吸収する動きを見せている。

Atlantisは96年設立ながらNAVは150億円弱とNAVFの半分程度。
直近1年半はTOPIXを大きくアンダーパフォームしていた。

Atlantis Japan Growth Fund Monthly Newsletter (July 2023)

IPO 3年にして好調なNAVFが、古参日本株ファンドを飲み込む形だ。


ツルハHDの株主総会、オアシスの株主提案を否決(8月10日)

創業家主導のガバナンス体制などを問題視し、社外取締役の追加選任等の株主提案を実施。既存取締役の選任反対も求めていたオアシスだったが、株主提案は全否決、会社側議案が全可決となった。

株主提案への賛成率は最高でも28%。
Mawer、BlackRock、Fidelity、Orbisなど海外機関投資家の議決権保有割合が4割弱を占める同社だったが、海外機関投資家のうち相応の割合が会社側支持に回った模様。

勝利とはなったものの、経営トップへの賛成率は前回比10%以上低下。
オアシスが選任反対を唱えた社外取候補の賛成率は7割台に止まっており、会社側は結果をある程度重く受け止める必要はあるだろう。

第61 回定時株主総会決議結果(詳細版)について


オアシス、ISS・グラスルイスによるクスリのアオキHDへの株主提案の支持と会社側見解への再反論を公表(8月10日)

ISS、GLともに、ガバナンス体制の不十分性を理由にオアシスが推薦する社外取の選任に賛成推奨。さらに、GLは青木社長の再任に反対推奨。

その他、会社側の見解に個別に反論している。


Engine No.1、アクティビズムを封印し新たな道へ(FT)(8月9日)

2021年、わずか0.02%の保有割合ながら、環境課題をテーマにExxonへのキャンペーンを展開し、3名の取締役の送り込みに成功したEngine No.1。

衝撃のデビューから僅か2年。
先月、運用大手のTCWへのETF部門の売却を決め、同社はアクティビストとしての歴史に幕を下ろす。

創業者でCIOのChris Jamesは、
『自分がアクティビストだと思ったことはない』
『アクティビズムは最終手段にすぎず、戦略ではない』
と語る。

Exxonへのキャンペーンを主導したのは、Jana Partners出身のCharlie Pennerだったが、Jamesと対立し退社。以来同社はアクティビズムから距離を置くようになった。
James本人は明言を避けるが、このことがETF部門を売却し、プライベート投資に集中する今回の決定の伏線になったようにも思える。

『Exxonへの勝利は予想していた』とする一方で、勝利が自社に「アクティビスト」の称号を与えることには十分準備が出来ていなかったとJamesは振り返る。

ESGを巡る政治的対立が取り沙汰される中、環境アクティビズムで一躍時代の寵児となった同社がアクティビストの看板を下ろすのは、歴史の皮肉とも言えようか。


ビル・アックマン氏の8つの投資基準(モトリーフール)(8月8日)

アクティビストとしても知られるPershing Squareのアックマン氏。
わずか8銘柄の超集中戦略で銘柄選定に使われるのは8つの基準だという。

  1.  シンプルで予測可能なビジネス

  2. フリーキャッシュフロー創出力

  3. 支配的企業

  4. 高い参入障壁

  5. 高い投下資本利益率(ROIC)

  6. コントロールできない外的リスクへのエクスポージャーが限定的

  7. 資本アクセスがなくても生き残ることのできる、強固なバランスシート

  8. 優れた経営陣と優れたガバナンス

この8つに「もう少し」の部分が出てきた時、彼はアクティビストと化すということか。


クスリのアオキHD、オアシスの資料に関する見解を公表(8月8日)

クスリのアオキHDに対して役員の追加選任等、ガバナンス改善を標榜する株主提案を実施したオアシスが、7月31日にプレゼンテーション資料を開示。

クスリのアオキホールディングスのコーポレートガバナンス改善

それに対して会社側は、『事実誤認もある中で、当社に何ら 確認を取ることもなく、一方的な形で公に流布したことに愕然』として、以下の各点につき反論している。

  • 対話状況

  • ストックオプション

  • 会社資産の私的流用

  • 会社提案の取締役候補

  • 株主提案の検討プロセス

クスリのアオキHD「当社株主による開示資料に対する当社取締役会の見解」


旧村上ファンド、コスモエネルギーHDへの書簡を公開(8月7日)

コスモエネルギーHDの買収防衛策に従い、意向表明書を提出した旧村上ファンドに対し、コスモエネルギーHDは8月3日に「情報リスト」を交付。

本書簡では、情報リストについて、『できるだけ早く』『必要と考えられる範囲で』回答するとしつつ、(当方の予想通り)事実誤認や必要性に疑問ある質問が多数あると批判。

また、経営陣が株主価値向上に真摯に向き合うなら株式の追加取得の必要はない、としている。

シティインデックスイレブンス「共同保有者のコスモエネルギーホールディングス株式会社に対する書簡の公開について」

コスモエネルギーHD宛書簡


任天堂創業家がつくる「シン・アクティビスト」の肖像(日経ビジネス)(8月7日)

東洋建設との総会対決に勝利したYFOの肖像を描いた日経ビジネスの記事。

YFOがアクティビストの道を選んだ分岐点は3年前。
山内溥氏から相続した莫大な資産の運用担当者を探す中で、『リスクを取ってでも、新たな価値創造につながる投資』に行き着いたという。
すなわち、『挑戦に一歩踏み出せないでいる企業に、対立してでも背中を押す』スタンスだ。

アセットオーナーを抱える通常のアクティビストファンドとファミリーオフィスの最大の違いは、リターンやベンチマークとの優劣を短期で気にする必要がない点だ。
自己資金を運用原資としているので、アセットーオーナーの圧力や短期的なリターンに囚われず、自らの信念に基づく長期的な投資が可能になる。

同じファミリーオフィスとして旧村上ファンドがあるが、その強みは長期投資とは別の所にあるように思える。
『日本企業の魅力的な人材、技術、ノウハウを『解放』したい』というYFO。
東洋建設を巡る今後の展開は、彼らが真の長期投資型ファミリーオフィスかどうかの試金石となるだろう。


M&A

伊藤忠、大建工業のTOBによる完全子会社化を公表(8月10日)

8月2日公表のCTCに続き、伊藤忠による上場関連会社の非公開化案件が続いている。
伊藤忠の持分法適用関連会社で、住宅建材大手の大建工業をTOBにより完全子会社かすることを発表した。

伊藤忠といえばどうしても見たくなってしまうのが、対象会社側の恒例の意見表明の内容である。

  • TOB価格:3,000円(PBR換算0.94x)

  • プレミアム: 前営業日比29.27%

  • DCFレンジ  

    • 対象会社 FA(大和)2,206-3,477円

  • MoM(Majority of Minority)下限設定あり

ファミマ、CTCの両案件では対象会社の特別委員会の要請にも拘らずMoMに応諾しなかった伊藤忠だが、本件では応諾。
大建工業が持分法適用会社であり、MoMで下限設定したとしてもTOBの成否に大きな影響はないと考えられることから、応諾しやすかったものとみられる。

『価格の考え方に隔たりがある』として対面交渉を申し入れた伊藤忠に対し、大建工業側が『主張が衝突する』として書面ベースでのやり取りを主張したという経緯が興味深い。

かかる要請を受けて、同年7月10 日、伊藤忠商事から、本公開買付価格に関する考え方に隔たり があるとして、伊藤忠商事と当社及び本特別委員会と協議の場を持ちたいとの提案を書面にて受領いたしました。これに対し、同月11 日、伊藤忠商事に対し、協議の場を設けても、お互いの主張が衝突し議論が平行線となる可能性が高く、却って価格交渉期間の長期化に繋がりかねないと考えているとして、書面での提案を求める要請を、書面にて行いました

大建工業「BP インベストメント合同会社による当社株式に対する公開買付けに関する賛同の意見表明及び応募推奨のお知らせ」
※太字は筆者による

大建工業「BP インベストメント合同会社による当社株式に対する公開買付けに関する賛同の意見表明及び応募推奨のお知らせ」


JIP、東芝の完全子会社化を目指したTOBを開始(8月8日)

8月8日からJIPによる東芝の完全子会社化を目指したTOBが開始された。
TOBの条件や東芝の意見表明の内容は6月8日に開示されたものから不変。

改めて見ておきたいのが、以前ご紹介した東芝の意見表明における価格の妥当性についての「痺れる」ロジックだ。
DCF下限付近の価格を特別委はどう正当化したのか。
過去にツイートした内容を加筆し、noteにまとめたので、ご参照いただきたい。


伊藤忠がCTCに「3800億円の巨額投資」をする事情(東洋経済)(8月8日)

8月2日に公表された伊藤忠による伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)の完全子会社化。
本件の背景に、川上から川下まで一気通貫でサービス提供するアクセンチュアへの対抗や海外展開に向けた資金投下の必要性があった、とする。

記事冒頭には価格に関する記載も。
ファミマ案件もあってか、敏感になっている伊藤忠側の様子が見て取れる。

「CTCの非公開化で企業改革に向けたさらなる経営資源投入、機動的な施策の実行が可能となり、当社およびCTCの収益拡大を実現できる」。会見で石井敬太社長は、CTC完全子会社化の意義をそう語った。

だが、これだけの大型案件にもかかわらず、記者会見は慌ただしくオンラインで開かれ、30分ほどで打ち切られた。

CTCへのTOBを巡っては、8月4日に開かれた第1四半期(4~6月期)決算説明会でも質問が集中した。冒頭、鉢村剛最高財務責任者(CFO)は「安いかどうかは別として、適正な価格で買えたと思っている」と言葉を濁した。

CTC株の買い付け価格は1株4325円。公表資料によれば、7月7日に伊藤忠が提示した買い付け価格は3800円(6日の終値比6.77%のプレミアム)だ。その後の交渉で、価格は4000円、4080円、4090円とじりじりと引き上げられ、7月31日には4200円(前営業日の終値比19.69%のプレミアム)を提案した。

それでも首を縦に振らないCTC側に対して、伊藤忠側は「これ以上引き上げるのは困難」といったん通知したものの、翌8月1日には4325円(7月31日終値から20.07%のプレミアム)を提示して「応諾」となった。


論文、インサイト

PBR 1倍に纏わる誤解と、日本企業が目指すべきPBR水準(8月11日)

このツイートを見て考えたことを少しだけ書いておく。

現場で常々上場企業の経営者の皆さんに申し上げているのは、「PBR 1倍は通過点でしかない」ということだ。

株主資本の時価が簿価を下回るPBR 1倍割れは、謂わば異常事態なのであって、それを解消することは第一歩。その上で、成長戦略への期待形成や非財務戦略により、更に上を目指しましょう。
そんなことを申し上げている。

上場企業である以上、目指すべきは企業価値・株主価値の継続的な向上である。PBR 1倍達成で満足していてはならない。
PBR 1倍割れ解消を「材料出尽くし」と思わせないような、継続的な価値向上を期待させる戦略と開示が重要なのだ。

では、PBRが1倍を超えたら、次は具体的にどこを目指せば良いのか。
それは業界や個別企業により異なるし、畢竟PBRが株価によって決まる以上、ターゲットとすべきPBRは一意には定められないとも言える。

この点、「PBR 1・2・3目標」を唱える証券経済研の明田さんのレポートが面白い。

「PBR 1・2・3 目標」の提唱 ~1 超えなら欧州並みの2 を、2 超えなら米国並みの3 を目指そう~

1の次は収益性を高めて2を目指し、その次は成長戦略で3を目指すべし、というのが氏の主張だ。
欧州企業のPBR中央値が2.11、米国企業のそれが3.30であること。そして、PBR 2倍が成長企業かどうかの境目とする自身の論文を論拠としている。

大胆だが、ひとつの考え方として書き留めておきたい。

PBRに関しては、企業側にも投資家側にも、まだまだ誤解が多いと感じる。
いずれ私見を詳しく纏めてみたいと思っている。


2022 若者の意識調査(日本総研)(8月10日)

中高大生1,000人を対象に、サステナビリティや金融経済教育などの意識を調査。
彼らよりも上の世代だが、「大人に向けたメッセージ」は大いに共感できる。

政財界を支配する「大人」たちは、この声をどこまで真摯に聴いてくれるだろうか。

調査結果からは、社会貢献やESG投資への関心の高さが窺える一方、30年までのSDGsの達成には懐疑的で、現実をシビアに捉える様子も垣間見える。

環境社会課題を軽視したり、保身や利権の死守に奔走する一部の「大人」たちよりも、若者のほうが余程真剣にこの国や地球の将来を考えているのではないか。


ESGアナリスト・サーベイ 2023(Fidelity)(8月10日)

3回目となるフィデリティのESGアナリスト・サーベイ。
約15,000社からボトムアップで情報を集約し、フィデリティの世界中の拠点のアナリストの見解を分析。

  • 2050年ネットゼロに向けての投資が十分な企業は6割前後。日欧は先行

  • ESGが議題となる企業との面談の割合は年間39%。企業側でもESGへの取組みは既定路線進む

  • 対話のテーマは、ガバナンスと温室効果ガス排出に係るものが依然多い

  • 相当割合の企業が、開示において取組み以上にESGに係る資質を誇張しているとアナリストが捉えている。エネルギーセクターにおいてはその傾向が顕著

  • ESGの促進には規制と投資家エンゲージメントが重要

ESG開示における「誇張」に関してはグラフに誤訳があり、英語版も併せて参照されたい。

ESGアナリスト・サーベイ 2023(日本語版)

ESGアナリスト・サーベイ 2023(英語版)


好調な日本株の背景と持続可能性(野村アセットマネジメント)(8月8日)

  • 上期は多数の上昇要因が重なる

  • グロース株とバリュー株の上昇のバランスが取れており、株価は崩れにくい構造

  • 日銀の金融政策が当面のリスク要因

  • 賃上げやPBR改善など、各種政策が一過性にならないことが重要

日本株の好調は、地政学的優位性や政策期待などの追い風を受けたものでもある。
追い風だけを頼りにせず、各企業が地道に株主価値向上の努力を続けることが不可欠だ。

野村アセットマネジメント 投資環境レポート(2023年8月)


その他(新聞記事等)

米国のM&A新指針「革命的で強力」 ロビイストに聞く(日経)(8月11日)

米FTCと司法省が7月に示した企業結合審査の新指針案。

『FTCや司法省が望めば、あらゆる買収案件に異議を唱えることが可能になる。』
との発言が象徴するように、米国のビジネス界や実務者に波紋を広げている。
米国の大手法律事務所もこぞって見解やメモを出している。

別途詳しくまとめる予定。


経営の自由か乱用か、「非上場化を選ぶ日本企業」が増加(Bloomberg)(8月10日)

22年は135社と7年前の3倍になった非上場化案件。
前向きに捉えるカーライルのグローバル・リサーチ責任者トーマス氏と、懸念を示すアクティビスト RMBの細水氏のコメントを中心に構成した記事。

上場の本来的な意義は、資本市場への機動的なアクセスだ。
株式調達の必要性が薄れた企業が市場から退出するのはむしろ自然な流れだし、自ら上場意義を問い直す企業が増えてきたのは歓迎されるべきだと思う。
そうした企業たちにとって、PEが日本市場で見せる積極姿勢はチャンスと言えるだろう。

一方、記事が指摘するように、非上場化に際しては合理的な理由が不可欠だ。
アクティビストに狙われた企業に金融機関が営業をかけ、非上場化に至ったという話も漏れ聞こえてくる。
それ自体は悪いことではないが、アクティビストの攻撃を回避することが目的化するのは本末転倒だ。
資本市場へのアクセスよりも、非上場化による迅速果断な経営のメリットが上回るということが、非上場化の大前提だ。
『成長加速のためといって非上場化しておいて、成長のためと再上場するのは株式市場を愚弄している』とする細水氏のコメントは的を射ている。

上場企業だけでなく、PEや金融機関やの倫理観も試されている。


投資家と向き合う経営(日経)(8月10日)

8月10日から全10回の連載として、慶應義塾大学の浅野敬志教授が「投資家と向き合う経営」を論じる。

「やさしい経済学」としての連載なので、記載は簡潔で平易だが、毎回ポイントを突いた論考となっている。


攻防、株主総会2023 ESGで迫る株主、経営者はどう応えた(日経ESG)(8月8日)

欧州機関投資家による環境関係の株主提案が話題を呼んだ今年のトヨタの総会。
提案株主の狙いは、トヨタへの提案を通じ、日本企業全体に脱炭素への取組み強化と実現への道筋の開示を求めること。
問われているのは日本企業全体の姿勢だ。


超割安株、仕込みの夏 還元強化が誘う長期株高の再来(日経)(8月7日)

小泉相場やアベノミクス相場よりも超割安株の比率が高いことなどを引き合いに、超割安株への資金流入を期待する見方を紹介。
とはいえ、買われるのは割安を課題視し、変わろうと行動する企業だけだろう。
変われない企業はさらに取り残される。



日本株買い「第2幕」注目銘柄 アクティブ投資家に聞く(日経)(8月7日)

日本株アクティブのFMがコメントを寄せている。

  • M&G ロモ氏

  • Eastspring ディコフ氏

  • Orbis 時国氏

  • スパークス 阿部氏

戦略としてはバリュー投資だが、着眼点が各社各様で面白い。
注目の個別銘柄は記事をご参照あれ。


サウジ政府系、損失156億ドル-ソフトバンク・ファンドへの投資が裏目(Bloomberg)(8月7日)

任天堂、カプコン、スクエニ、東映など、日本のコンテンツ企業の大株主としても知られるサウジのPIF。
SVFの影響で22年の包括損失は156億ドルに達したというが、推定AUMは7,770億ドルと桁違い。2%のロスなど擦り傷かも知れない。


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