ペルー アマゾン一人旅 3 ジャングルジャングル
獣道ていどの道をひとりで半泣きになりながら歩く。
ブッシュの中では がさごそと動物の気配がする。
とにかく前に進むしかない。後ろは沼だし。
人間がいる所までなんとかたどり着かなければ。
日が暮れれば、命が危うい。 今でも十分危ういけど。
お願いだから 一本道であってくれ~
早歩きで、倒木や木の根の上をずんずん行く。
さっきのおじさんのように分厚い足の裏があれば裸足が一番歩きやすいだろう。
靴ずれなのか、変なものを踏みつけたのか、足の裏の皮がすり減ったのか、足の裏に血が滲む。
しかし、痛いと感じている余裕がない。
どのくらい歩いたのだろうか。
少し陽が傾きだした頃 少し開けた場所に出た。
小さな家が4軒ぐらいある、
ああ、人間がいる。助かった。
そこには、絵画の中に迷い込んだような独特の時間が流れていた。
屋根を葉で葺いた高床の素朴な家の縁側では、
上半身裸のふくよかな女性が、
沐浴後の長く艶やかな黒髪をゆっくり梳かしている。
豚や鶏や犬や子どもが庭を駆け回っている。
小さなたき火から 細く青白い煙が ゆっくりとのぼっている。
静かな川面には夕日が反射している。
壁のない家の中にはハンモックがゆれている。
こんな絵があったなあ。
煙の匂いと、鶏の鳴き声が、なんだか懐かしい。昔こんな光景の中にいたような記憶が。。。
たぶんこの場所しか知らず、ずっとここにいるであろう彼等の横を、
息を切らして、何かを探して小走りに行く私。
「道路はどっち?」と聞くと、
「あっちの方、ずーっといった所」
「あとどのくらい?」
「もうちょっと」
そのあとも2回ほど、同じような 家と人があったが
私は大汗をかきながら「あと何分ぐらい?」とバカな質問。
そして答えはいつも「もうちょっと」。
この「もうちょっと」が、5分なのか、30分なのか、1時間なのか、半日なのか、
1日なのか、それとも・・・3日なのか。私にはわからない。
だれに聞いても「もうちょっと」。
「もうちょっと」でかれこれ6時間ぐらい歩いている。
私は絶体絶命の窮地にいるのだが、
その一方で、実に静かでゆったりとした美しい光景にみとれていた。
おそらくここには時計というものがないのだろう。
あったとしても、存在価値を認めてもらっていないか、無視されているのだろう。
分や秒といった単位で細切れにされていない時間。
直線で、過去から未来へ進んでいくと思い込んでいる我々の時間感覚の薄っぺらさ。
しかし、現実はえらいことになっている私。日が暮れたら死ぬ。
「あっち」と言われるほうへ、「もうちょっと」を信じて 再び歩き出す。
村の人が、野犬に襲われるといけないからと言って長い棒を持たせてくれた。
でもその木は3mぐらいあって、枝や葉もついている。棒というより木だ。
これをひきずっていくのは無理。
見送ってくれている村人の姿が見えなくなってから
こっそりその木を置いていく。
。。つづく。。