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『原点 THE ORIGIN』安彦良和、斉藤光政、岩波書店

 『革命とサブカル』は弘前大学の全共闘仲間との、あの時代というか全共闘運動の総括のようなインタビュー集でしたが、まったく政治的な話しをしてこなかったと思えた「ガンダム」の安彦さんが、ずっと実直に「あの時代」を考えてきたんだな、ということがわかり、その前段階としての自伝的な『原点 THE ORIGIN』も読みました。

 安彦さんは北海道遠軽地方の出身で、実家は元屯田兵。《屯田兵には士族屯田と平民屯田の二種類がある》というには知りませんでした。北海道でも士族屯田は札幌近郊などに配置され、平民屯田はオホーツク海に面する遠軽など辺境の地に置かれたそうです。安彦さん自身は、そう悲惨でもなかったといいますが、祖父が借金のカタに土地を取られ山奥に入ったそうで、個人的には想像を絶します。

 同じアニメーターである宮崎駿さんは、堀辰雄が好きな飛行機部品工場が実家のぼんぼん民青でしたが、安彦さんは弘前大学全共闘時代にやったバリケード封鎖で検挙されて、新聞にまで名前も顔も載る凶状持ちになった「平民屯田出身のコミュニスト」。ジブリとの仲が悪いことは聞いていましたが、鈴木敏夫さんがアニメ雑誌編集長だった頃に宮崎、高畑の2人に会いたいと申し出たものの「そんな人は知らない」(by宮崎)とにべもなく断られたというのは驚きでした(p.292)。日テレに買ってもらうぐらいまで組織を大きくした民青あがりのジブリと、あくまで個人をつらぬく全共闘的な安彦さんの肌感覚の違いは凄いな、と。

 弘前大学全共闘は色々なセクトが仲良く集まっている牧歌的な全共闘だったそうです。東大安田講堂を見物に行った仲間三人が成り行きからバリケード内に入ってしまい長期拘留。残った者はなんとか運動を形にしなければならないということで始まったバリケード封鎖ですが、学部ごとに主犯格五人が退学処分となります。本来なら、処分撤回闘争となって運動は続けられるのですが、後に赤軍派から連赤に加わった植垣、青砥さんも含めて処分撤回闘争を望まず、弘前のことは終わったこととして、安彦さんは東京に、植垣と青砥さんは武装闘争に走っていくことになります。

 全共闘世代の沈黙は是としているという安彦さんですが、それは《我々の体験の空疎さですなく、むしろ、重さ、巨さの証し》だからだ、と(p.175)。それは、信じていた唯物論という神が死んでしまい、棄教もできなくなってしまったからだ、とも(p.234)。しかし、いまや「挫折」なぞ、したくともできなくなってしまった時代となり、そこに顕れてきたのがサブカルなんだろうな、と。

 そして、虫プロの養成所からプロのアニメーターとなり、激務をこなしていくのですが《もともと何の夢も抱かずにアニメの世界に入った僕に「幻滅」はなかった。そこは単に、働いて報酬を得る場でしかなかった》というところから、ヤマト、ガンダムを中心スタッフとしてつくり、やがては漫画家となっていく安彦さんの人生のなんと自然なことか、と。

 『革命とサブカル』と『原点 THE ORIGIN』は合わせて850頁近い分量ですが、久々に読書の愉しみを味あわせてもらいました。

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