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スポーツビジネス市場最大の兄弟喧嘩を描く『アディダスVSプーマ -運命を分けた兄弟-』

男の兄弟の不仲は母親の取り合いが原因のひとつとよく言われてます。

この『アディダスVSプーマ -運命を分けた兄弟-』は大人になってからの話しなので、2人の育った家庭環境こそ分かりませんが、そりゃあ、仲は悪かったろうなと思わせる描きっぷり。単なる兄弟喧嘩なら放っておけばいいのですが、なにせadidasとPUMAの争いなので、スポーツファン、特にサッカーファンには見逃せません。

ナチスと二つの世界大戦がからむ時代背景、ベルリンオリンピックと戦後のヨーロッパで初めて開催されたスイス・ワールドカップにおけるスーパースターたちの活躍なども見応え充分。この作品は2016年に制作されましたが、ポーランド侵攻を「ポーランドが攻めてきた」と国民向けにラジオで偽情報を流して侵攻するナチスの宣伝の場面などは、現実世界のウクライナ侵攻を予言するようなタイムリーな内容です。

物語は第一次世界大戦後、二人が「ダスラー兄弟商会」を創設して本格的な運動靴の製造を開始するところから始まります。当時、ドイツの人たちは国土に攻め込まれておらず、なんで負けたかよく分からなかったそうですが、国破れた実感なく山河も青々としたバイエルン州のヘルツォーゲンアウラハの街の描写にも、そんな雰囲気が感じられます。

地元の人たちは誰も成功するとは思ってなかった変わり者兄弟のシューズメーカーでしたが、ナチスの勃興でスポーツが国威発揚に利用され…という話しの流れ。今やスポーツビジネスは巨大な利益を産む産業になりましたが、その先駆けとなったのがルディ(ルドルフ)とアディ(アドルフ)のダスラー兄弟。二人が敗戦国ドイツの小さな田舎町つくったスポーツシューズ工房というのは、スポーツがこれほどの付加価値を生むなどとは考えらなかった当時の閉塞感の打破を目指したものだったんでしょうか。創業当初は電気事情が悪く、自転車を漕いでライトを付けていたという有名なエピソードも描かれています。

営業を担当した山っ気のある兄ルディ、品質第一に固執する職人肌のアディはそれぞれの妻を巻き込んで、兄弟喧嘩を激化させ、やがて永遠に袂を永遠に分かち、「アディダス」と「プーマ」をつくるのですが、プーマには道楽者という意味があるのを初めて知りました。そこまでやるか…というドイツ的な愛憎世界の果てに訪れるラストの救われる感じが後味を良くしてます。

この作品は「ヨコハマ・フットボール映画祭」で上演されます。映画祭は6月4日~5日はかなっくホール、6日~10日はシネマ・ジャック&ベティで開催。『アディダスVSプーマ -運命を分けた兄弟-』は6/5(日) 15:30-17:52(かなっくホール)、6/9(木) 19:00からシネマ・ジャック&ベティで。お見逃しなく!

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