「コミュニケーション障がい」と「コミュ障」

ネットスラングとして定着した「コミュ障」

 近年、SNSなどを見ていると頻繁に見かける「コミュ障」という言葉。
▶︎「俺コミュ障だからソレ苦手」
▶︎「私みたいなコミュ障には、このお店は無理だわ〜」
のように、自身の苦手な事をアピールするニュアンスで使われる事もあれば、
▶︎「アイツ、コミュ障だからねw」
▶︎「コミュ障は黙ってろよ」
のように他者を揶揄する表現としても使われるようになってしまいました(ディスコミュニケーションの原因を他者に求める事で、自己を正当化しようとする意識が働くのかもしれません)。
 私はSNSを積極利用するタイプではないので、このような言い回しがされ始めた時期や経緯の詳細を知っている訳ではないのですが…肌感覚としては、世間一般に発達障がいという存在が浸透し始めた時期(テレビドラマで発達障がいのあるキャラクターが登場したり、情報番組で発達障がいの特集が組まれたりするようになった時期)と概ね一致していると感じています。

「俺コミュ障」に抱く違和感

 性格が粘土質で形成されている私は、そういった発言を見かけるたびに、その発言者の過去発言を確認しにいってしまいます。そして、そのような陰湿なリサーチを蓄積した結果、以下のような体系化が出来ました(半分ネタです。私が抱いた印象によるところが大きく、数値を根拠としたフォーマルな調査結果ではありませんのでご注意ください)。

【パターン①】ごく些細な戸惑いや行き違いを気にした結果の「俺コミュ障」
▶︎初対面の相手との会話に緊張する
▶︎セルフレジなど、慣れないシステムを利用する際に戸惑う
▶︎会話の中で、「どうやら話題の本筋から逸れた発言をしたようだぞ」と気付く
 これらのように、日常のとある些細な一瞬を切り取っただけの事を「コミュ障」と表現しているケースが非常に多いと感じました。むしろ、何ならコミュニケーションが得意だと自負しているタイプの人が、稀に直面したすれ違いや勘違いを、「コミュ障」と表現してネタ化しようとしている構図すら見て取れます。

【パターン②】予防線やマウントとしての「俺コミュ障」
 何らかの理由で話を強引に展開させる必要がある場合に、「強引な事は分かってますが、敢えて発言していますよー」というニュアンスを暗に示す事を目的として、枕詞のように「俺コミュ障だから」を挟んでから会話を展開させている人もおられるようです。「アイツ空気読めないな」という雰囲気が出始めた時に、「いや、自覚あるんでそこは掘り下げなくて結構です」という予防線を張っておく。もしくは、「ここから強引に話を進めるつもりなので、反論は予め諦めてくださいね」というマウントを取っておく。

 上記の2パターンの「俺コミュ障」に直面するたび、私は思うのです。「ちょっと待て」と。それは、「コミュ障」であって「コミュニケーション障がい」ではない。江戸前の握り寿司とカリフォルニアロールくらい、似て非なるもの。

 ちなみに、念の為もう一つのパターンも列記しておきます。
【パターン③】ガチめな「俺コミュ障」
 中には、本当にコミュニケーションに困難さがあるご様子で、それをご自身も自覚しておられて、その結果「俺コミュ障だから」という発言に繋がっていると推察されるパターンも多くありました。
 本記事では、こういった方々のご苦労や困り感を否定したり軽んじたり揶揄する意図は一切ない事を、ここで断っておきます。

言葉が浸透していく事の重要さ

 「コミュ障」が本来の意味合いからズレたニュアンスで浸透していく様子に違和感を覚えながらも、しかし一方でこうも思うのです。「たとえニュアンスがズレていたとしても、言葉が社会に浸透する事は意味のある事なのかもしれない」と。「愛の対義語は無関心」などと言われるように、どんなに大切な事やどんなに知って欲しい事でも、相手が関心を寄せてくれなかったりそもそも存在を知らなかったりしたならば、正しい理解を促すきっかけすらも貰えない。反対に、ニュアンスが間違っていようとも言葉が市民権を得てしまえば、訂正や正しい理解の啓蒙機会が出来たと言える。
 「自閉症って、引きこもりの事でしょう?」「自閉症は、親のテレビの見せすぎが原因」などと言われていた時代を過ぎ、ニュアンスにズレがあろうとも老若男女がコミュ障という言葉を使うような時代となりました。そうなると次は、私たちのような発達障がいサポーターが「コミュニケーション障がい」というものの正しい理解を広める役割を担うフェーズなのかもしれません。

目くじらを立てない

 これまで、上述の【パターン①】及び【同②】のニュアンスで使われる「コミュ障」を目にするたびに、「その程度の事でコミュ障とか言ってんじゃねーぞコノヤロウ」と思ってきた私ですが、今後は、「正しいコミュニケーション障がいの理解を広める突破口を作ってくれてありがとう」と思うことにします。

…出来るかな。

…します。ここで言っちゃったので。



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