Change Agent(組織変革者)としてのHR⑦「集団行動の基礎」
あらすじ
これまでのストーリーでは、佐藤健太がリーダーとして困難を乗り越え、多様性豊かなチームをまとめ上げてきました。特に、田辺、矢島、吉村らメンバーの個性を活かしながら、行動指針の策定や対話の場を設けることで、チームの結束力を高めることに成功しました。しかし、新たなDXプロジェクトでは、チーム内の対立や摩擦が浮き彫りになり、その解消に苦心する様子が描かれてきました。
第七話では、プロジェクトの進行がさらに複雑化します。新たな課題として、これまでの成功体験に依存しがちなメンバーの行動が、チームの停滞を招く危機を迎えます。特に、田辺の大胆な提案と矢島の慎重なアプローチの間に再び緊張が走り、吉村のデータ分析にも限界が見え始める中、佐藤は新しい解決策を模索する必要に迫られます。
そんな中、瑞穂が提案するのは「心理的安全性」を基盤としたリーダーシップ。彼女は、メンバーが自由に意見を表明し、失敗を恐れず行動できる環境作りの重要性を佐藤に説きます。一方で、プロジェクトのスピードを優先する経営陣からのプレッシャーも加わり、佐藤はリーダーとしての進退を問われる場面に直面します。
果たして、佐藤は新たなリーダーシップスタイルを確立し、チームを前進させることができるのか?そして、メンバーたちはこの危機を通じてどのような成長を遂げるのか?
登場人物
篠崎 瑞穂(しのざき みずほ)
32歳。HR部門の主任。集団ダイナミクスや組織文化の理解を深め、現場での応用を模索している。
佐藤 健太(さとう けんた)
27歳。営業部の若手エース。新たなプロジェクトでチームリーダーとしてのスキルをさらに磨く。
田辺 翔太(たなべ しょうた)
25歳。営業部の若手社員。自由な発想を持つが、集団の一員としての役割には課題を抱えている。
矢島 薫(やじま かおる)
29歳。営業部の中堅社員。計画的かつ慎重で、チーム内で調整役を担う。
吉村 直人(よしむら なおと)
30歳。マーケティング部の主任。データに基づく分析力でチームをサポート。
中村 奈緒(なかむら なお)
45歳。営業部の課長。佐藤の育成を見守りながら、集団行動の基本を教える役割を担う。
第1章:チームの再編
全社的なDXプロジェクトのリーダーに任命された佐藤健太は、新たなチームを結成することになった。このプロジェクトでは営業部、マーケティング部、IT部門から選抜されたメンバーが協働することとなり、個性やバックグラウンドが大きく異なるメンバーが一堂に会する形となった。
最初の顔合わせで、佐藤は一瞬で緊張感を感じ取った。田辺は早くも「僕は自由に動いた方が成果が出るタイプです」と自己紹介で主張し、矢島が眉をひそめた。「集団で動く以上、ルールを守ることが大切です」と静かに返す。
「これは一筋縄ではいかないな……」佐藤は内心そう思いながらも、リーダーとして場をまとめようと努めた。「皆さん、個性が異なるのはむしろ強みです。この多様性を活かして、全員で最善の結果を目指しましょう。」
第2章:集団内の対立
プロジェクトが始まると、早速メンバー間での対立が浮き彫りになった。田辺が自由な発想で新しい提案を繰り返す一方、矢島や吉村はその提案の実現性やリスクを指摘する場面が増えた。
ある会議で田辺が声を荒げた。「何でもリスクを理由に却下するのはやめてください!新しいことに挑戦しなければ、このプロジェクトに意味がない。」
矢島も負けじと反論した。「田辺君、僕たちがここにいるのは無謀な挑戦をするためではなく、成功を収めるためです。計画を無視する提案には賛成できません。」
会議室が張り詰めた空気に包まれる中、佐藤が割って入った。「2人とも、その意見にはそれぞれ一理あります。ただ、意見を出し合うことが目的ではなく、全員で合意できる方向を探すことが重要です。」
第3章:瑞穂のアプローチ
佐藤は、プロジェクトの進行を円滑にするためにHR部の瑞穂を訪ねた。「瑞穂さん、このチームは多様性が強みである一方、対立が多すぎてまとまりません。どうしたらいいでしょうか?」
瑞穂は集団行動に関する基本理論を説明した。
集団規範(Norms)
「集団が共有する暗黙のルールや期待です。これを明確化することで、行動の基準が揃い、対立を減らすことができます。」社会的ローフィング(Social Loafing)
「集団の中では個々の貢献度が見えにくくなるため、モチベーションが低下しやすい。役割を明確にすることが重要です。」集団凝集性(Cohesiveness)
「メンバー間の絆や一体感が強いほど、チームのパフォーマンスが向上します。これには信頼と共通の目標が欠かせません。」
佐藤は瑞穂のアドバイスを元に、チーム全員が合意する「行動指針」を作成することを決めた。
第4章:チームの再構築
再出発の場としての会議
佐藤は行動指針を提案するだけではなく、その背景や意図を丁寧に説明することで、メンバーの納得を得ることに努めた。
「この行動指針は、誰かを制約するためのものではありません。むしろ、全員が自分の力を最大限に発揮できる環境を作るために必要な基盤です。」佐藤の言葉に、メンバーの表情が少し和らいだ。
さらに佐藤は、行動指針に従った場合にどのような成果が期待できるかを具体的な例を挙げて説明した。「例えば、田辺君の提案が矢島さんの計画性で補強されれば、リスクを抑えながら新しいアイデアを形にできます。」
対話の場の提供
その後、佐藤はメンバー同士の対話を促す場を設けた。形式ばったミーティングではなく、互いの価値観や考え方を知るためのカジュアルなランチミーティングを提案したのだ。
田辺が矢島にこう話しかけた。「矢島さん、僕の提案がリスクだらけだって言われるのも分かるんです。でも、その分成功したときのリターンが大きいとも思うんですよね。」
矢島は少し考え込んだ後、静かに答えた。「確かに、君の提案は大胆だけど、計画を持たせることでそのリターンが現実的になると思う。次のミーティングで一緒に具体案を考えないか?」
このような会話がチーム内で少しずつ増えていき、対立が建設的な議論に変わっていった。
第5章:連携の成果
チームの成熟
行動指針が浸透するにつれ、メンバーの協力関係が深化した。田辺は提案の際、あらかじめ吉村に相談してデータの裏付けを取るようになり、矢島もその提案を実現可能な計画に落とし込む努力を始めた。
ある日、顧客向けのプレゼンテーションを控えたミーティングで、吉村がこう述べた。「田辺君のアイデアが非常に革新的です。このデータを基にすれば、顧客にとっても説得力のある提案になります。」
矢島も「それを実現するためには、このスケジュールで進めれば十分に対応可能です。」と補足した。
以前は対立していたメンバー同士が、今やお互いの強みを引き出し合うようになっていた。
顧客からの評価
チームの連携が成果を生むにつれ、顧客からの評価も高まった。あるプレゼンテーション後、顧客の担当者がこう話した。「この提案は非常に独創的でありながら、実現可能性もしっかり考慮されています。これまでにないレベルの提案です。」
佐藤はこの言葉を聞いて、チーム全員の努力が実を結んだことを実感した。「皆さん、この結果は全員が一丸となって取り組んだ成果です。本当にお疲れ様でした。」
第6章:未来への道筋
次なる挑戦への準備
プロジェクト終了後、佐藤はメンバーと共に振り返りを行った。そこで、各メンバーが自分の役割とその成果について語る時間を設けた。
田辺はこう述べた。「最初は自分の提案を否定されるのが怖かった。でも、皆さんが改善点を指摘してくれたおかげで、より良いアイデアに仕上げることができました。」
矢島も振り返った。「田辺君の発想に触れることで、自分の考えがいかに保守的だったか気づきました。次のプロジェクトでは、もっと柔軟に取り組んでいきたいです。」
この振り返りを通じて、メンバーそれぞれが自分の成長を自覚し、次のプロジェクトへの意欲を新たにした。
チーム文化の醸成
佐藤は、プロジェクト成功の背後にある「チーム文化」を振り返った。「このプロジェクトで得た最大の成果は、成果そのものではなく、メンバー全員が互いを信頼し、協力する文化を築けたことです。」
瑞穂もこれに同意し、「この文化を他の部門にも広げることで、会社全体の成長に繋がるはずです。」と述べた。
学術的な要点:深みを持たせた理論と応用
1. 集団規範(Norms)
提唱者: Sherif, M.
主な文献: Sherif, M. (1936). The Psychology of Social Norms. Harper & Brothers.
応用: 佐藤が行動指針を設定し、チーム内の規範を明確化することで、行動基準を統一し対立を軽減。
2. 社会的ローフィング(Social Loafing)
提唱者: Latane, B., Williams, K., & Harkins, S.
主な文献: Latane, B., Williams, K., & Harkins, S. (1979). "Many Hands Make Light the Work." Journal of Personality and Social Psychology, 37(6), 822-832.
応用: 役割分担を明確にし、個々の貢献が見える化される仕組みを構築。
3. 集団凝集性(Cohesiveness)
提唱者: Festinger, L.
主な文献: Festinger, L. (1950). "Informal Social Communication." Psychological Review, 57(5), 271-282.
応用: 信頼と共通目標を基盤に、チームの一体感を強化し、成果に繋げる。
4. 集団意思決定(Group Decision-Making)
提唱者: Janis, I. L.
主な文献: Janis, I. L. (1972). Victims of Groupthink: A Psychological Study of Foreign-Policy Decisions and Fiascoes. Houghton Mifflin.
応用: 意見の多様性を尊重し、建設的な議論を通じて最適な意思決定を行う。
組織行動学における「集団行動の基礎」
**集団行動(Group Behavior)**とは、組織内で複数の人々が互いに関与しながら共同で目標を達成するための行動を指します。個人の行動が他者と影響し合うことで、集団特有のダイナミクスやパフォーマンスが生まれます。集団行動の理解は、チームビルディング、リーダーシップ、意思決定の最適化において不可欠です。
1. 集団の定義と分類
1.1 集団の定義
集団とは、共通の目標を共有し、相互に影響を与え合う2人以上の人々の集合体です。
1.2 集団の分類
公式集団(Formal Group)
組織が公式に定めたグループ(例: プロジェクトチーム、部門)。
目的: 明確な目標達成や業務遂行。
非公式集団(Informal Group)
自然発生的に形成されるグループ(例: 同僚同士の親しい集まり)。
目的: 社交や感情的サポート。
2. 集団行動に影響を与える要因
2.1 集団の大きさ
小規模グループ: 親密で効率的な意思決定が可能。
大規模グループ: 多様性が高いが、調整が難しくなる。
例: 5~7人程度のチームは、バランスが良いとされる。
2.2 集団規範
規範とは、集団内で期待される行動のルールや標準です。
例: チーム内で時間厳守が求められる。
2.3 集団凝集性
凝集性(Cohesiveness)は、グループの団結力を指します。凝集性が高い集団は、メンバー間の信頼や協力が強まりますが、場合によっては**集団思考(Groupthink)**を招く可能性もあります。
2.4 役割
メンバー各自が集団内で果たす役割は、集団行動に大きな影響を与えます。
タスク指向の役割: 問題解決や目標達成に貢献する。
維持指向の役割: 人間関係を調整し、集団の雰囲気を保つ。
3. 集団行動の基本的な概念
3.1 社会的促進(Social Facilitation)
他者がいる状況下では、単純なタスクのパフォーマンスが向上する傾向がある。
例: プレゼンテーションで観客がいると力を発揮する。
3.2 社会的手抜き(Social Loafing)
集団作業において、個々の努力が目立たなくなると、貢献度が低下する傾向。
対策: 各メンバーの責任を明確化し、評価基準を共有する。
3.3 集団極性化(Group Polarization)
集団での意思決定が、個人での判断よりも極端になる傾向。
例: グループで議論すると、リスクを過大評価する選択に傾く。
3.4 集団思考(Groupthink, Janis, 1972)
凝集性が高すぎる場合、批判的思考が抑制され、非合理的な決定が下される。
例: 異なる意見が封じ込められ、大きなリスクを無視した決定が行われる。
4. 集団の意思決定
4.1 長所
多様な視点が集まることで、より創造的なアイデアが生まれる。
個人の責任が分散されることで、リスクが軽減される。
4.2 短所
意思決定に時間がかかる。
集団思考や社会的手抜きが発生するリスクがある。
4.3 効果的な意思決定を促進する方法
明確な議題を設定し、議論を進行する。
各メンバーが意見を表明できる環境を整える。
外部の意見を取り入れることで偏りを防ぐ。
5. 集団行動の実践的応用
5.1 チームビルディング
集団凝集性を高め、効果的なコミュニケーションを促進するワークショップを実施。
5.2 リーダーシップ
リーダーは、規範の設定や役割の明確化を通じて集団行動を効果的に管理する。
5.3 コンフリクトマネジメント
集団内の対立を適切に管理することで、生産的な結果を引き出す。
6. 現代の課題
6.1 仮想チーム(Virtual Teams)
デジタル環境での集団行動は、物理的な接触がないため、規範や凝集性の形成が課題となる。
対策: リモート環境でも定期的なコミュニケーションを確保し、信頼関係を構築。
6.2 ダイバーシティ
多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まる場合、価値観やコミュニケーションスタイルの違いが課題となる。
対策: 多様性を活用するための文化的なトレーニングやリーダーシップの導入。
まとめ
「集団行動の基礎」は、組織の成功に欠かせない要素です。集団が持つダイナミクスを理解し、効果的に管理することで、チームの生産性や創造性を最大化できます。リーダーは、集団規範、役割、凝集性、意思決定プロセスに注意を払い、健全で成果志向の集団行動を促進することが求められます。
※上記のブログは以下参考書と自社独自プログラムを元に、著者がAIツールを用いて作成・編集・再作成したフィクションです。
ピープルマネージャーのためのChange Agent養成講座
最後まで読んでいただき有難うございました。
著者:松澤 勝充
神奈川県出身1986年生まれ。青山学院大学卒業後、2009年 (株)トライアンフへ入社。2016年より、最年少執行役員として組織ソリューション本部、広報マーケティンググループ、自社採用責任者を兼務。2018年8月より休職し、Haas School of Business, UC Berkeleyがプログラム提供するBerkeley Hass Global Access ProgramにJoinし2019年5月修了。同年、MIT Online Executive Course “AI: Implications for Business Strategies”修了し、シリコンバレーのIT企業でAIプロジェクトへ従事
2019年12月(株)トライアンフへ帰任し執行役員を務め、2020年4月1日に株式会社Everyを創業。企業の人事戦略・制度コンサルティングを行う傍ら、UC Berkeleyの上級教授と共同開発したプログラムで、「日本の人事が世界に目を向けるきっかけづくり」としてグローバルスタンダードな人事を学ぶEvery HR Academyを展開している。
保有資格:
・SHRM-SCP(SHRM)
・Senior Professional in Human Resources – International (HRCI)
・Global Professional in Human Resources (HRCI)
・The Science of Happiness(UC Berkeley)、他