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Diversity&Inclusion for Japan ④自分を守るためのバイアス

なぜ書くか

Diversity&Inclusion(ダイバーシティ・インクルージョン ※以下D&I)というコンセプトがビジネスの世界において重要になる中、日本に住む約1億人には細心の取り組みやトレンドを学ぶ機会が多くありません。Every Inc.では「HRからパフォーマンスとワクワクを」というビジョンを掲げ、グローバルな取組みやアカデミックな文献からD&Iに関する歴史、取組み、事例など”日本なら”ではなく、”グローバルスタンダード”な情報を提供しています。https://every-co.com/

はじめに

人が偏見を持つ理由を説明するセオリーの一つを紹介することで、読者が自身や他者の思考プロセスを離れた視点から見るきっかけを作れたらと思います。

「優れたグループに所属する自分」と比較対象としての他者

人は、自分と他人を比べることで、自分自身に対する判断をするということが分かっています。自分の態度、能力、特徴を他人と比べることで自分自身を評価することをSocial Comparison(社会的な比較)と言います。Social Comparisonには二種類あります。

Upward Social Comparison : 自分自身を自分より優れている人と比較すること。自分の現在のステータスや能力を上げたいという願望にフォーカスしている。
Downward Social Comparison :自分自身を自分よりも優れていない人、自分より悪い状況にいる人と比較すること。自分に対してのイメージを上げることにフォーカスしている。「自分はあることが得意ではないかもしれないが、他の人よりはマシだ。」

そもそも人は自分は平均的な人よりは優れている、と考える傾向があり、様々な文化において強くこの傾向が見られるため、Better-than-average effectと呼ばれています。

「自分は優れている」という見方を保つために、他グループを低く評価するというMotivational Theoriesがあり、人々が偏見を持つ理由を説明するセオリーの一つになっています。

Motivational Theories:人々の自尊心は自身が所属するグループのステータスに起因する。自分の所属するグループに対していいイメージを持つこと、そして他グループを低く評価することで、自身の自尊心を保つ


例えば、自分は有名大学を卒業している、大企業に勤めている、白人である、日本人であるから他のグループに所属する人よりも優れていると考え、自分は優れたグループに所属していると認識することによって自尊心を保つといった場合です。

この他グループを低く評価することで自尊心を保つというメカニズムを示した実験があります。Fein & Spencer (1997)は実験参加者に知能テストを受けさせ、参加者グループ1にはポジティブなフィードバックを、参加者グループ2にはネガティブなフィードバックをすることで、参加者の自尊心を意図的に上げ・下げました。

その後グループ1、グループ2の参加者はある職の応募者の評価もしくはユダヤ人職応募者の評価をするよう求められました。

結果、ネガティブなフィードバックを受けたグループ2はユダヤ人職応募者により低い評価を与える傾向があり、更にユダヤ人職応募者により低い評価を与えた参加者は自尊心が上がったということが分かりました。

つまり、この結果から人は自分の自尊心が危機にさらされたとき(この実験の例ではネガティブなフィードバックを受けたとき)、自分以外のグループの評価を下げることで、自分の自尊心を保つ傾向があるということが分かっています。

不安定な自尊心が偏見につながる

Jordanら(2003)の研究で、不安定な自尊心を持つ個人はナルシストで防御的態度 (defensiveness)を示すことが分かっています

Jordanらは実験参加者の二種類の自尊心、explicit self-esteem (自分が意識的に把握している自尊心のレベル)と implicit self-esteem (自分が無意識に認識している自尊心)をはかりました。explicit self-esteemは参加者に直接質問すること、 implicit self-esteemはImplicit Association Test (無意識の認識を測るために頻繁に心理学で用いられるテスト)で計測されました。

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その結果、explicit self-esteemが高い一方、implicit self-esteemが低い人、つまり、「意識的に自尊心が高いが、無意識的には自尊心が低い人」は、自分の所属するグループは他グループより優れていると考える傾向があること (強いingroup biasを持っていること)を示しました。つまり不安定な自尊心を持つ人は自分の所属するグループに価値を置くことで、自尊心を保とうとする傾向があることが分かります

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この二つの実験結果から、偏見を持つ理由は、対外的なグループにあるのではなく、偏見を持つ個人自身の心理的なあやうさ(vulnerability)にある可能性があるということを示しています。


自分自身を見つめる

Motivational Theoriesは、他グループに対する不快感やネガティブな感情の原因はもしかしたら自分自身の不安定さにあるのかもしれないということを指摘しています。他者に対する不快感の矛先を偏見や差別ではなく、自分自身に向けることで解決する問題もあるのかもしれません。

自分自身を見つめ直し、自己認識を上げるためのヒントとなる資料を紹介しています。


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参考文献

Cherry, K.(2020). Social Comparison Theory in Psychology. verywellmind. https://www.verywellmind.com/what-is-the-social-comparison-process-2795872#:~:text=Downward%20Social%20Comparison,-This%20takes%20place&text=People%20compare%20themselves%20to%20those,to%20feel%20better%20about%20themselves

Jordan, C. H., Spencer, S. J., Zanna, M. P., Hoshino-Browne, E., & Correll, J. (2003). Secure and defensive high self-esteem. Journal of personality and social psychology, 85(5), 969.

Leary, M. R. (2007). Motivational and emotional aspects of the self. Annu. Rev. Psychol., 58, 317-344.
Tajfel, H., Turner, J. C., Austin, W. G., & Worchel, S. (1979). An integrative theory of intergroup conflict. Organizational identity: A reader, 56(65), 9780203505984-16.


著者紹介:松澤 勝充(Masamitsu Matsuzawa)

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神奈川県出身1986年生まれ。青山学院大学卒業後、2009年 (株)トライアンフへ入社。2016年より、最年少執行役員として組織ソリューション本部、広報マーケティンググループ、自社採用責任者を兼務。2018年8月より休職し、Haas School of Business, UC Berkeleyがプログラム提供するBerkeley Hass Global Access ProgramにJoinし2019年5月修了。同年、MIT Online Executive Course “AI: Implications for Business Strategies”修了し、シリコンバレーのIT企業でAIプロジェクトへ従事。2019年12月(株)トライアンフへ帰任し執行役員を務め、2020年4月1日に株式会社Everyを創業。採用や人材育成、評価制度など、企業の人事戦略・制度コンサルティングを行う傍ら、UC Berkeleyの上級教授と共同開発した3カ月プログラムで、「日本の人事が世界に目を向けるきっかけづくり」としてグローバルスタンダードな人事を学ぶHRBP講座を展開している。

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著者紹介:池田 梨帆 (Riho Ikeda)

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株式会社EVERY インターン

2021年5月、世界トップクラスの心理学部、University of California, Berkeley(以下UCバークレー)心理学部を卒業。在学中、UCバークレーのビジネススクール、Haas School of Businessのダイバーシティー・ジェンダー研究室で研究助手を務める。心理学を使うことで、人の思考や、グループ内のダイナミズムなど目に見えない要因を可視化し、効果的な問題解決をすることができると考え、特に心理学を使ってビジネスの効率性を上げることに興味がある。2021年8月より、George Mason University大学院で、Industrial Organizational Psychology(産業組織心理学)を学ぶ。
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