見出し画像

小林と小林

 阪急宝塚線には小林と書いて、「おばやし」と読む駅がある。私の友人もそこに下宿していたりする、いわゆる学生街かつ住宅街である。これ、“こばやし”以外の読み方あるんや…という感情と同時に、私の人生において“こばやし”という人間にお世話になっているなとふと思った。noteを始めて、ずっと書き記そうと思っていた話。下書きに10ヶ月も眠っていた話。私の青春を変えた“こばやし”と“こばやし”の話。

大学で出会った「小林」

 私が軽音サークルに所属して1番初めに仲良くなった同期、それが"小林"。とても明るく、よく笑う良い奴。これが第一印象。その1か月後、軽音部上がりの彼女のライブは凄まじいもので、第一印象はいとも簡単に消え去ってしまった。あの陽気な雰囲気からは想像がつかないレベルのかっこいいライブ。どこか親近感を感じていたが、一気に遠のく感覚を肌で感じ、稲妻が走った。そこから、"小林"は明るくよく笑う奴であり、私の軽音人生の師匠となっている。技術面・演出面ともに、毎ライブ非常に高いクオリティで、所詮コピーバンドにすぎないはずなのに、泣いてしまったこともある。
 彼女の凄さはそれだけではない。サークルに所属のメンバーを心から好きでいて、皆んながその人柄に多くの人が救われている。あの”おばやし”に住む友人がこんな名言を残している。

「極論やけど、"小林"に人殺せって言われたら、俺は人殺せる」

 (彼女がそんなこと言うはずはないが、)彼女の頼みは全身全霊で引き受けたい。私も同じ想いだ。人をこよなく愛し、それを受け取った人にこよなく愛される。誰もが獲得できる関係性じゃない。私は"小林"に、いや師匠にかなり影響を受けている。こうなりたいと思うのが、今軽音を続けているモチベーションそのものであるし、彼女の「優しさ」にふれ、自分も優しくしなければと思わされることばかりだ。
 いつの日か、私の軽音サークルでのライブを観て「よかったよ…!」と言われた日があった。反射的にWBC決勝で大谷が三振を取った瞬間を想起させるガッツポーズをしていた。

中学で出会った「小林」

 "小林"はイケメンでサッカーがうまくて、声が低くて、いつも彼女がいて、イケメンで物静かなくせに情熱があって、優しくて、頼られてて、イケメンで運動会で大活躍していて、ちょっと家が近くて、日焼けしていて、高校は離れたが、行きの電車でたまにあったらテンション上がるイケメンな奴だった。
 大学生になって一度だけご飯を食べた。スシローだった気がする。相変わらずサバサバしていて、軽音サークルで演奏したギターの演奏を見せたら「これは下手」とストレートに言われた。腹は立たない。忖度なしで下手と言ってくれて安心した。そういう奴だから。
 中学2年生のとき、生徒会で一緒に活動していた。仲良くなったきっかけこそあまり覚えていないが、私をイジり倒してきたのをツッコみまくっていたことは鮮明に覚えている。ずるいのは、"小林"にはイジリしろが全くない。先ほども言ったが完璧だったのだ。ある日、生徒会の女子2人と"小林"にカラオケに誘われた。中2になって新しい友だちなんか出来ないと思い込んでいた私からすれば革命的な出来事で、とても緊張した。しかも超一軍の"小林"。日和った。正直、そのカラオケのことは何も覚えていない。
 それをきっかけに放課後も遊ぶことが増えた。豪雨の中ミスドで真剣な相談もした。家にもお邪魔させてもらった(気がする)。カラオケに行った4人で「いつめん」というLINEグループもできた。そのグループが中学生活の全てではなかったにしろ、確かに大きく存在した。 
 その「いつめん」で京都に卒業旅行を行った。お昼ご飯、話し合いで串家物語へ。しかし、"小林"はほとんど食べようとしない。「おい〜食べろよぉ〜」と言っても「いや、いいわ」とクールな返答。ノリが悪いと思っていたら、実は、進学先の高校のサッカー部でハイカロリーな食事は禁止されていたらしい。みんなで行きたいと言ったお店を、自分が犠牲になることで尊重する。なんだよ、こいつ。カッコ良すぎるだろ。こいつには勝てねえ、それっきり今も変わらない。

「小林」と「小林」

 どちらの小林も、私よりも遥か高いところで生きている人間であるが、私の目標とするふたりでもある。1つのことに熱中して、なによりもカッコいい。遠い土地で人生をクールに謳歌する"小林"も、どうせ今もかっこいいし、今同じサークルでギターをかき鳴らす"小林"も、どうせこの先もカッコいいままだ。二人にはやっぱりなれない。追いつかない。そんなのは早々に気づいている。だけど、追いつかない目標も悪くない。追いつかない存在が私を認識してくれているというだけで、満足だ。"小林"と"小林"のせいで、これから出会う"小林"もきっとかっこいい人なのだろうと期待してしまっている。全国の小林さん、責めるなら、この二人を責めてください。

 "小林"という文字がそろそろゲシュタルト崩壊してきたことかもしれない。

 しかし、"小林"と"小林"のエピソードは、まだまだ書き足りていない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?